「だから言ったじゃない。ちゃんと掴んでいないと離れるって」
クスクスと楽しげに笑いながらあいつが出てきた。暗闇の中からゆっくりと湧いて出て来るような姿は死神をも連想させる。
「掴んでいたよ。ちゃんと」あいつを見ながら俺はぐっと拳に力をいれた。
「あら? 事実彼女は貴方のもとを去っていったでしょう? なんででしょうね」
あいつはまだ楽しげにクスクスと笑っている。その笑い方に苛立ちを感じ、すぐにでもあいつを殴り飛ばしたい衝動にかけられた。
「彼女が決めたことだから」より拳に力をいれ、我慢する。「俺には何も言う資格なんてない」口の中に苦い鉄の味が広がる。
「あら、意外と考えているのね」小馬鹿にしたような笑い。「でも、きついでしょう? 辛いでしょう? 私が、彼女が戻ってくる方法を教えましょうか? ええ、もちろん二度と彼女が離れていかない方法よ」
相変わらず口元は笑っているが、クスクスとした苛立つ笑いをやめ、真面目な表情で言うあいつの言葉に俺は一瞬止まった。別に、あいつに好意的な何かを感じたからという訳ではない。その言葉があまりにも甘美で、俺が望むものだったからだ。
「教えてくれ!!」久しぶりに声を張り上げた。「なんでもする! 俺は、彼女がいないとダメなんだ! お願いだ! 本当になんでもするから!」あいつの足元に頭を擦りつけ言う。
クスクスとあいつは笑いながら上から足元の俺を見下ろす。そして、俺の頭のところまで自分の目線をおろし、耳元で囁いた。
「それじゃ、彼女をもう一度手に入れないとね。方法ならちゃんと教えてあげるわ」またにやりと口元が笑った。
数ヶ月後。俺は彼女をまた手にいれた。
今度はあいつの言った通り、ちゃんと離さない。
こんなに赤く赤く綺麗に染まったな君を俺が離すわけがない。
君も、もう二度と俺から離れてはいかないだろうから。
「愛してるよ」
真っ赤な鎖で君を閉じ込めてしまおう。
(091012)