――引き込まれる。正にそんな感じだろう。
 きらびやかなドレスに身を包んだ彼女を見た瞬間、僕は動くことが出来なくなった。

「恭也、君。これ、どうかな?」

 試着室から出てきた彼女は、少しおどおどしながら僕に言う。

「可愛いです。似合ってますよ」


 そう言うと、彼女は軽く跳ねながらよしっと小さな声で言った。その動作がまた可愛らしい。





 でも、彼女にはどちらかというと――。



「水希! こっちの方が似合うんじゃないか?」

「ぇ、どれ?」


 彼女を呼びながら逹斗が出てきた。手には彼女の着ているものより少しシンプルなドレスが握られている。



「ほら、これだって」手に持っているドレスを彼女に見せながら言う。「水希にはもっとこういうデザインの方が似合うよ」

「ぇー、そうかなー。私、このドレスいいと思ったのにー」裾を持ち達哉に見せる。

「いいから着てみろって。絶対そっちより似合うから」
 そう言った達哉は彼女を引っ張り、試着室の方へ連れていった。



 ―――僕が言おうとしたのに。


 彼女には、もっとシンプルで繊細なデザインの方が似合う。
 毎回のことだが、また逹斗に持ってかれた。



 まあ。仕方がないか――。





「恭也!絶対こっちのドレスの方が似合うよな!」


 彼女を引っ張りながら逹斗が出てきた。


 その瞬間、目にはいったのは、彼女。先ほどまでのドレスと違い、シンプルな落ち着いたデザイン。細部にまでこだわってある繊細なドレスはより彼女を引き立たさせた。

 さっきほどまでのを「引き込まれる」と表現するのなら今は、「捕らわれる」。目を離せないっていうぐらいではない。離してはいけないような気がするのだ。




「恭也君……。これ、似合ってる?」

 赤く頬をそめながら彼女は僕に聞く。


「似合って、ます。凄く、凄く似合ってますよ」

「本当!?」
 
彼女は嬉しそうに逹斗に駆け寄る。「逹、斗! 似合ってるって、凄く似合ってるって!」子供のように喜ぶ。

「だから言っただろう」胸を張りながら言う。「水希のことは俺が一番わかっているからな」

「ええー。それはそれでなんか嫌だよ」

「酷いなあ。お前それはないだろ」

 軽い言い争いをしたりしてもとても仲のよい二人。微笑ましい光景のはずなのだけど、どこかモヤモヤするものが詰まる。早く帰りたいとさえ思ってしまう。




「決まった?」

「うん決まったよ」

「決まったならそろそろ帰ろう。まだ準備終わってないんでしょ」


 まだ帰る気配のない二人に向かって僕は言う。ただ、自分がここに居たくないという分けではなくて、二人を心配して言ったんだ。
 けして、けして、二人が笑っているのを見たくなかったとかではなくて―――。











「おめでとう」



 綺麗に飾られたホール。いくつものテーブルがあり、それさえも綺麗に装飾されている。

 テーブルの上には手をつけ終わった料理。ガヤガヤと回りでは多くの人が楽しそうに話している。

「ああ、ありがとう恭也」

 照れているのか、はにかむ達斗。珍しくみるその姿に懐かしささえ覚える。「恭也君のおかげだよ。色々手伝ってもらったし、本当ありがとう」

 達斗の後ろから顔をだした彼女は僕に満面の笑みを見せる。

 彼女が身に纏うのは三人で見に行ったドレス。純白のシンプルなデザインの綺麗なドレスだ。線の細い彼女にあったそれは、身体のラインを綺麗にみせ、よりいっそう引き立たせる。


「水希さんと、兄さんの結婚式だからね。当たり前じゃないか」

「恭也、本当ありがとな」



 達斗の選んだドレスに包まれた彼女は今までで一番美しく、幸せそうに笑っていた。












 叶わない恋とか、そんなかっこいいもんじゃないんだ。


 これは、叶ってはいけない恋。



 大好きな二人の笑顔を奪いたくないから――――。










(090814)
叶わないとかじゃなくて


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