「先輩先輩」
「あー?」
リクが振り向くと、ユウトが両手に肉のパックを持って睨み合っていた。
「こっちは安いけど量多くて、こっちは高いけど量少ないんだよね」
「どっちも買えばいいんじゃね」
「そうなんだけど」
ユウトは安い方を少し持ち上げた。「どっちの方が普通は得するの?」
「んなもん人によるだろーよ。量少なくてもうまけりゃいい奴のいるし、多少味おちてよーが多けりゃ問題ねぇ奴だっていんだろ」
「…ふーん」
納得したのかしていないのか曖昧な相槌を返すユウトは、また肉と睨み合い始めた。そんなユウトを見たリクは「…あ、だったらこうしようぜ」とまた別の肉のパックを手に取った。
「安いもんと高いもんとか、豚と鶏とか、カルビとロースとか、色々と食べ比べしてみよーぜ。ほれ気になったもんカゴにぶちこんでけ」
「…なるほど、賛成」
頷いたユウトは持っていたパックを両方カゴに入れると、次から次へと別のパックを放り込み始めた。リクといえば生肉だけでなく、ソーセージや焼き豚などを手に取っていた。
この2人がスーパーに来ている理由は単なる「夕飯の買い出し」であり、特にメニューも決めずに来たわけだが、自然に精肉コーナーへと足を進めた2人は満場一致で焼肉に決め、こうして思うがままに肉という肉をカゴにつめていた。食べ盛りを通り越した食欲魔人の2人組には、食費に金を惜しむことを知らないようである。
「あ、先輩これさ」とユウトがリクの方を振り向こうとした時だった。頭上から若干のノイズ、そして
『タイムセール!ただいまお肉コーナーにて豚肉の特盛パックが半額となります!』
実に元気のいい男の声がスピーカーで流れた。
と、同時に2人の前を物凄い勢いで走っていく主婦達。
主婦の戦争、タイムセールが今ここに開幕したのだった。
「今のおばさんあんな動けるんだ」
「あんなヒールで足ひねらねーもんだな」
が、金遣いの荒さに定評のある2人にはタイムセールなんてものは大した興味にはならないようで、獲物に群がるハイエナのような主婦達の姿をのんびり眺めていた。
「…にしても肉しか入ってねーな。野菜も買ってくか」
「うん」
2人が野菜コーナーに移動しようとした時だった。
「ちょっとなによこれ!違う商品紛れてるじゃないのよ!!」
突然響く女の声。ユウトが振り向くと、タイムセールのど真ん中、まさしく先程スピーカーでタイムセール開始をコールしていた男店員が1人の主婦につかまっていた。主婦の手にはなぜかソーセージの詰め合わせ。今回のタイムセール品とは全くの別物である。必死に手を伸ばしてとった品がセール品でもなんでもない品だったというので文句をつけているといったところだろう。男店員も想定外のことだったのか、ひどくうろたえている様子だった。
「なんかトラブルっぽいね」
「まー俺たちには関係ねーな」
「まぁそうだけど」
と、ここでユウトは気付いた。リクが先程まで持っていたソーセージの袋が別のものに『代わって』いることを。
「ところでユウト」
ユウトの視線に気付いたリクが、持っていた豚肉の特盛パックを軽く持ち上げ、にやりと笑った。「こいつは何と食べ比べる?」

「先輩ずるいね」
「まーな」
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