ヤマザキ春のザキだらけ祭り | ナノ
夢も現もサティスファクション[1/1]
「ほれザキ。そろそろこれの出番だろィ?」

昼休み、沖田さんが投げたブツが俺の顔面でペチッと音を立てた。そのまま重力で机の上に落ちる。なんだ?とそのブツを確認して「うわあっ」と声を上げてしまった。もちろん一斉に教室内で好き放題やってるみんながこちらを振り向く。

「なっ、なんでもないなんでもない!!」

慌ててブツを隠した。待ってよ沖田さん勘弁してよ沖田さん。どこの誰に変態だとかむっつりだとか言われてもいいけどなまえにだけは言われたくないんだって。

「付き合って半年なんだってなァ。それは同じ部の俺や近藤さん、ついでに土方の野郎からの祝いの品でさァ。受け取りなせェ」

人の顔に突然コンドーム(しかも箱じゃない、切り取られた1つだ)を投げといてどうしてこんなにしてやったみたいな顔ができるのか不思議である。「はあ…」と漏らした俺に沖田さんはああ思い出したというような顔をした。

「そりゃ俺のじゃありやせんぜ?土方さんのでさァ。お盛んらしくてねィ、財布ん中に1個しか入ってねェーんだもんなァ」

いやいやそこ別に気になってないから。誰のだろうとか全然気になってないから。これ以上コンドームの話を教室のど真ん中でしたくなかった俺は、ありがとうございますと無理矢理笑顔を作った。頼むからもうほっといてくれないかな。半年記念日で放課後なまえが俺ん家来るっていうのに友達からコンドーム貰ったなんてバレたら嫌われる…。
そこへ少し頬を赤らめた近藤さんと土方さんがやって来た。え、なんで?なんで近藤さん顔赤く染めてんの?ええなんで?嫌な予感がした、ものすごく嫌な予感がしてぽたりと冷や汗が出る。

「卒業…おめでとう」

もじもじしながらそんなことを言い出した近藤さんに眩暈がしそうだ。どうしてこの人たちの頭の中はそういうことしか考えられないんだろうか。うっかり「明日は記念日なんで家でDVD観るんですよ」なんて喋ってしまった昨日の自分が憎い。さっきからちらちら心配そうにこちらを見てくるなまえに会話内容がバレていないかだけが不安だった。

「いや俺たちまだそういうのは、」

「山崎。AVは参考にするな。女の反応だけが答えだ。今まで観てきたもんは全て忘れろ」

「土方さんまで…」

俺の言葉遮ってまで言うことなの?いや確かにそういう経験ない俺からしたら今のアドバイスはかなり参考になったけど。なったけども!!
ちらりとなまえの方を見れば口パクで「どうしたの?」と聞かれてしまった。そりゃそうだ。同じ部活だといえどいろんな意味で目立ちすぎる3人とパッとしない俺。きっと違和感があるだろう。なんでもないと口パクで返しポケットの中にしまい込んだコンドームをグシャリと握りしめた。勝手に盛り上がってる3人には申し訳ないが、俺たちはまだ手を繋いだりキスをしたり、ハグしたり。それくらいでいいのだ。

放課後、なまえは俺の家へやってきた。二人で前々から観たいと言っていたDVDを観て、ケーキを食べた。これからも一緒に居ようねなんて笑い合う。キス以上のことに興味がないわけじゃない。そういうやけじゃないけど、今はこれで充分、満足なのだ。

「退くん、手触ってもいい?」

そう言って指を絡ませてきたなまえ。へへっと笑いながら「退くんの指って長くて綺麗だよね」と言う。沖田さんたちにこんなことを言ったら「手繋いでるだけで満足?するわけねェーだろィ」なんて言われてしまうかも知れないけど、俺はなまえと手を繋ぐだけで和むし愛し合ってるなーなんて思うのだ。
ぎゅっと手を握り返す。退くん、と呼ばれて胸がぎゅーと締め付けられた。本当、なんで俺みたいなパッとしない、なんの取り柄もない男と付き合ってくれてるんだろう。不思議だ。

「今日、昼休みどうしたの?」

「ん?」

「ほら土方さんたちに囲まれてたでしょ?」

退くん困ってたように見えたから。と眉を八の字にして俺の顔を覗き込むなまえが天使に見えて仕方ない。可愛い、上目遣い可愛い。必死に平然を装い、なんでもないよと答えた。するとなまえが「本当?なにかあったら話してね、私はいつでも退くんの味方だからね」と言って抱きしめてきた。ふわっといい匂いがして柔らかい胸が当たる。外で抱きしめたことは片手で数えるくらいあるけど、室内では初めてだ。なんだかいつもよりムラっとクラっときてしまう。

「だ、大丈夫だよ!他愛もない…そう、部誌!部誌の話!」

落ち着け、俺の俺。頼む落ち着いてくれ。ムクムクと起き上がってしまいそうなそれに心の中で説得をした。今はマズイよ。あとで好きなだけ解放してあげるから今は鎮まって、お願いだからー…。

「本当?ならいいんだけど」

私はなにがあっても退くんの味方だからね、と念を押すように言ったなまえはぎゅうっと俺に回した腕へ更に力を込めたらしい。余計に胸へ顔がめり込む。いい匂いと柔らかい胸の感覚に、俺の制御は無力化した。

「えっ…なんか、当たっ…」

ん?と首を傾げながら離れたなまえが、それに気づき顔を真っ赤に染める。そして「退くんとならいいよ…?」と言った。顔を真っ赤にしてそんなことを言われてしまえば、断る理由なんてない。ポケットに手を突っ込み、昼休みに仲間からもらったコンドームを強く握りしめた。これは明日ちゃんとお礼を言わなければ。

「なまえ、おいで」

意を決して抱きしめた。土方さんのアドバイスを頭の中で繰り返す。AVはアテにならない。ちゃんとなまえのことだけを考えて手探りでもい、俺たちの愛を形にするんだと意気込む。ワイシャツにじわっと感じるほど、緊張から汗が出てしまった。ゆっくり重なった唇は少し震えていて、制服の上からだけど、初めて触ったなまえの胸は柔らかかった。
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「まじできもい。てか普通に引くわ」

今日見た夢の話をした俺をゴミでも見るかのような目で見ながら落花生を食べてるなまえ。今日は付き合って半年記念日だけど、いつも通り俺の部屋でぐーたらごろごろしてるだけ。

「でもまあ私が天使に見えるってところだけは現実味あったよね〜」

「夢ってあれなのかな。理想が映し出されるのかな」

「は?なにそれどういう意味よ。私が天使に見えないってこと?」

思いっきり顔を歪めてこちらを睨んできた。鏡を見て欲しい。その顔が天使に見えるなら全力で眼科に連れてくから。

「じゃあ聞くけどなにがあっても俺の味方だよとか言ってくれんの?」

「"何があっても"は無理だごめん」

スマホを弄りながら答える辺りからして、夢の中のなまえとは大違いだ。別に現実のなまえに不満があるとかじゃないけど、夢に出てきたなまえは儚い感じがして違った良さがあったなあ。

「そもそも私は退くんなんて呼ばないし」

「まあそうだよね」

「それに私は退が沖田さんたちに囲まれててもああまたイビられてんなあくらいにしか思わないし。実際仲良いでしょ、アンタ等」

ゴクゴクと喉を鳴らしながらジュースを飲む姿を見ていればなんだかムラムラしてきた。制服の袖から覗く細い腕とか、白い首筋とか。スカートなのに気にもせず崩された足だとか。
夢の中でムラムラしたのもあるのかも、今朝時間なくて抜いてないし。
俺の視線に気づいたなまえが「何見てんの変態」と言った。

「ねえ、シたい」

「…別にいいけどゴム持ってんの?」

「持ってない」

「んー…ま、いっか」

そう言って俺の上に跨るように座ったなまえは、夢の中よりもずっといい女に見える。あの夢は一体なんだったんだろうとキスをしながらぼんやり考えてみた。

「ベッド行こうよ」

そう言ったなまえの奥に、昨日寝る前に観たAVのジャケットを見つける。ああ、ムラムラしたまま寝たからか、と一人納得した。
AVに出てくる女性よりもやっぱりなまえがいいんだと再確認した。
しかし、「ベルト自分で外してね」とちゃっちゃか脱ぐ姿に、照れて恥じらってくれてもいいのにななんて思う。俺は緊張でなんか変な汗かいてきたんだけど。

「手慣れてるっつーか…」

「は?なにが?」

「恥ずかしくないの?」

別にいいんだけど、別にいいんだけどなんかエロいし。でもさ、やっぱあれじゃん。彼女が照れてる姿とか可愛いじゃん。いや可愛くないわけじゃないんだけど。つかシたいとか言っときながら俺、初めてするんだけど…。

「え、なに。退緊張してんのー?うけるー」

初心ですねー、なんて俺の頬を突っついてくる。そして背を向けてねえーフック外してと言ったなまえの顔は見れないけど、耳が赤くなっているのが分かった。俺の彼女は素直だか素直じゃないんだかよく分からない。でもー…

「たまに可愛いよね」

「毎日可愛いって言え」

「俺、夢の中みたいななまえも好きだけど現実のなまえの方が好きだよ」

抱え上げるように自分の上に乗せて恐る恐る下から胸を揉む。カァッと真っ赤になったなまえが口元を隠した。

「夢の中の私がいいとか言ったら足に当たってるやつ折ってやろうと思ってた」

そろりとパンツの上から握られて声が漏れた。余裕そうだと思ってたのにその指先が少し震えていて、なんだかそわそわする。

「なまえって俺のことかなり好き?」

「好きじゃなかったら二つ返事で初めてくれてやるわけないじゃん」

あ、だめだ。真っ赤な顔して目をそらしたなまえに煽られてそのまま手探りでことに及んだ。
ちなみに、なまえの反応を見る余裕はなかった。

(なな様より20170202ご寄稿いただきました。ありがとうございました!)
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