ヤマザキ春のザキだらけ祭り | ナノ
そして春になる

「これここでいい?」
「うん、ねぇ、そろそろ休憩しよう」
「そうだね」

棚に時計や観葉植物をてきぱきと運ぶ退に感心しつつ私はお茶の準備をする。二人分の荷物を片付けるのは時間がかかるだろうと思っていたが案外すぐに終わってしまう気がした。

引っ越しシーズンになる少し前の今。私と退は一緒に暮らすことにした。付き合って二年、仕事が忙しくてなかなか会えない退に同棲を提案すればあっさり同意されトントン拍子に話が進んだのである。正直同棲なんて嫌がられると思ったから意外だった。だってこの年になれば同棲するくらいなら結婚って話になるだろうしすぐとは言わなくても一緒に住みだしたらそんな話がでるだろう。重いと思われるかなと不安になったが退は楽しそうに物件を探していた。

「あ、買ってたお煎餅も食べていい?」
「はいはーい、持ってく」

私が棚からお煎餅を取り出すとキッチンに来た退が湯のみを運んでくれようとしていた。本当によく働く人だ。

「もうすぐ桜が咲くよね。この辺花見できるとこあるかな」
「川原のほうでできるんじゃない?」
「落ち着いたら探索したいね。新しいとこってワクワクするよ」
「あえて職場から少し離れたとこにしたもんね」
「だって外歩いてたら同僚によく会うとか嫌でしょ。プライベートぐらい仕事忘れたいよ」

確かにと笑えばでしょー?と返してくる。こんな和やかな時間をくれる退が好き。私達は共通の知り合いを通して出会ってすぐに意気投合して付き合うことになったけど二年たっても好きの気持ちは消えないしなんなら増えていく一方だし私は退にベタぼれだった。

だから少しでも多くの時間を一緒に過ごしたいとこうして同棲を提案したけれど…。

「退」
「んー?」
「退は同棲するの嫌じゃなかった?」
「え!?」

怖くて聞けなかった質問をぶつければ目を丸くして驚いている。なんでそんなことを聞くのかさっぱりわからないという顔だ。

「嫌なら最初からしないよ。え、待って。もしかしてみょうじそんなにしたかったわけじゃないのに俺が盛り上がっちゃったから実は言えなかったとか…?」
「そんなわけない!」
「良かったぁ」

ああ、どうしてそんな可愛く笑うの。本当に三十路越えてるの?
こんなに優しくて素敵な人がどうして私の彼氏なんだろう。

「浮気してもいいから言わないで」
「はい!?ちょ…待って…なんの話!?」
「気づかなければ大丈夫だから…それから…結婚とかも言わないから…」
「ストップ!ストップ!」

退が立ち上がって私の隣に座る。若干パニックな私の肩に手をのせ落ち着かせようとトントン叩いた。

「私っ…退に…嫌われたくないよー」
「本当にどうしたの!?」

本格的に涙が出てきた私を退は思い切り抱きしめる。ぽんぽんとあやすその手に涙が止まらない。人は慰められたり優しくされると泣く生き物だと思う。

私はゆっくりと思っていたことを告げていった。ずっと一緒にいたいけれど結婚とか同棲という文字を浮かばせるのは重いと思われがちなこと、だけど離れているのは寂しいこと、我儘言わないからどうかこれからも側にいてほしいということ。

「あのねぇ、みょうじ」
「?」
「そういうのさ、俺に言わせてほしいな」
「そういう?」
「これからも側にいてほしいなんてプロポーズみたいじゃない」
「!」

言われてみればその通りの事実に私の頬は急速に熱を持つ。重いと思われるどころかまさかの逆プロポーズかましているじゃないか。

「俺すごく嬉しかったんだよね。仕事柄約束をドタキャンなんてよくあるし基本的に長続きした例がないんだよ。そりゃそうだよね、こんな彼氏大抵嫌がって振られるよ」
「そうなの?」
「それでもみょうじは嫌な顔せず俺と付き合ってくれて正直一緒に住もうって言われた時は嬉しかったんだ。本当は俺から言いたかったけどそれこそ結婚じゃなくて同棲かよって思われたらどうしようとかそもそもこんな俺と将来を考えてくれてるのかなとか少し自信なかったし」
「退…」
「俺、浮気なんてしないよ。他の人に興味なんてもてないし。些細なことでも毎日みょうじと笑いあって生きていきたいからさ」

止まりかけた涙がまた溢れてそれを退が優しく拭ってくれた。その指はそのまま優しく頬にそえられて私達はふわりと優しいキスをする。

「決めた。みょうじが落ち着いたら指輪見に行こう」
「え!?」
「なんなら婚姻届けも取ってこよう」
「ええ!?」
「善は急げ。やっぱ俺同棲じゃなくて夫婦になって一緒にいたいや」
「…っ!!」

結局退の言葉に私は再び涙して、落ち着いて外で出られるようになるまであと数時間かかることになる。

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