ヤマザキ春のザキだらけ祭り | ナノ
馬鹿みてーに真っ直ぐなお前とクソみてーに屈折した俺(後編)[1/2]
(かなり趣味に走っており某井上大先生の大人気バスケ漫画ネタがあります。わからなくても支障はないと思いますあと説明も色々なるべく入れてますが気になったらキャラ名とかでググってねすみませーん!)(あと仏のトシさんもいますその他も色々いますいつものあれですすみません思うがままです)(それでもいいよという方はどうぞ)


あの日以降結局俺たちの関係は良くも悪くも何も変わらず、むしろ変化があったのは周りのほうだった。

「マジかよ…なんであんなんと付き合ってんだよ信じらんねェ」
「美女はヤンキーに持ってかれる法則だ…」
「みょうじさんの趣味変わってね?」
「実は脅されてたりして〜」
男女ともに素直に驚いてる奴なんざ一握り、後は悪意や嫉妬、それか怒りがほとんどで、無遠慮に感情をぶつけられる毎日。そんな周囲に俺は最初こそ苛々を募らせていたが日が経てばそれもうんざりに変わった。だがここで怒鳴ったり絡んだりしてはむしろなまえの名に傷がつくことくらいさすがの俺もわかっていて、こういうときは決まってじっと黙って時をやり過ごしていた。だってこの状況を打破し得る人間はただ一人、あいつ以外にいないのだから。

「山崎くーん!」
「ぅおっ!?」
後ろから駆け寄ってきたなまえはいつも通り俺の名を大きく叫んで、ついでにタックルでもかます勢いで俺の腕に絡み付く。それを見てばつはの悪そうな顔で、さっきまで陰口叩いてた奴等がすごすごと校舎に吸い込まれていくのを見送るのももうほぼ毎朝のことだ。

「やっぱすげーよな、お前は」
「それをいうならあの人たちもそろそろ学習すればいいのにね」
言っておくが今のようになまえが俺にべたべたするのは今みたいな状況のときだけだ。なまえがいうには「人間認めたくないものが目の前にあるともう逃げるしかないんだよね。何も言えなくなっちゃう」だそうで。それって俺の前にもこういうの、他にもそういう相手がかつてはいたのだろうか、なんて考えてしまう自分が嫌だった。

どこにでもいる普通のカップル(のつもり)、昼休みは一緒に飯を食い帰りも一緒、休みの日なんかもぷらぷら出歩いて。あの日から一ヶ月経った今もみょうじは俺の隣で気恥ずかしそうに笑っているし、それを頭一つぶんの高さから見下ろす俺の胸は相変わらずちくちくと痛む。なのに何も言い出せないのはただの俺の弱さだ。

「なに?山崎くん。じっと見て」
「あ?…あ、いや。なんでもねぇよ」
「なーにー、俺の彼女かわいいなって?」
「ぼけっとしてただけだっつーの」
唯一変わったことと言えばお互い軽口が叩けるようになったところだろうか。ぐっと距離も縮まった気がする。けど連れと日々言い合ってたような彼女ができたらなにをこうしてなんて妄想を実現するどころかなまえに手を出そうとか、いやそれ以前に俺から触れてみようとすら思わなかったし、なまえのほうも未だに俺を「山崎くん」と呼び続けている。
多分、そのままいけばそれで終わりだったのだろう。突然始まってあっけなく終わる束の間の関係。だけど自分で終わらせるのが怖くてずるずる続けてしまった。

だからこれはもしかしたらその罰だったのかもしんねぇな、なんて一人きり平日の昼、部屋で煙草をふかしながら思う。




惰性の日々に終わりを告げたのは俺でもみょうじでもなかった。それはたまたま通りかかった教室の中、名前も知らない誰かの一言だった。

「みょうじなまえとジミーがヤッてんの想像したくねぇ〜!」
その声に俺が反応するのと続いて上がった笑い声、どちらが先だったかは思い出せない。ただ一つだけ覚えているのは下卑た笑い声が木霊する中全身の血が沸騰してんじゃねぇかってくらい熱かったことだった。

「つかよ、ジミーでいんなら俺のが全然いいと思わね?」
「いやーでも噂によるとみょうじなまえのほうがべた惚れらしいぞ」
「はぁまじで!?…んだよ、じゃあよージミーのやつ…みょうじなまえとどんなプレイでもやりまくりってことじゃね」
「やっべー金払って交ぜてもらう?土方とかヤらせてもらってるらしーじゃん」
そいつらの中ではただの軽口で、本当は微塵もそんな気なかったかもしれない。かつての俺と連れと同じようにただ馬鹿みてーなことを言い合って笑って、それが楽しいだけなのかもしれない、きっと。
それでも、俺は。耐えられなかった。

「テメェらよォ」
教室のドアを一気に開くと同時に言い放ったその言葉は、多分あいつらの耳には届かなかったろう。けれどそれに返すてめぇらの怯えたような声も、俺には何一つ届いてねーんだからおあいこだよな。なんて、ただでさえ訳わかんねェのにこの状況も自身が何を考えているかも。

ただただムカついて仕方なくて、こいつら全員ぶっ殺してやるって、それだけで。それだけが今の俺を支配していたから。


気がついたら教室は血の海と化していて、よく見たらなんか人数も足りねーような。大方逃げ出したんだろう。それでも俺の中ではまだ何かが収まらなくて、適当にその辺にいた奴の胸ぐら掴んで無理矢理立たせて、前歯の無くなった口から出る多分「すみません」と言っているらしい声が、恐怖に揺れる目が、いや何もかもが煩わしくてもう一度拳を叩き付けた丁度そのとき、

「先生!ここ!ここです!!」
「山崎お前何をしとるか!!」
体育教師かける三によりあっという間に羽交い締められ、すると不思議に怒りは収まっていた。いや、というよりなぜか安堵すら覚えた。
そのまま指導室に連行された俺はセンコー共の質問を適当に受け流し、そういえばス○ムダンクでこんなシーンあったよなあなんてことばかり考えていた。そうだ、俺あのシーンすげぇ好き。赤木にはついていけねぇって、あんな頑張ってるゴリを馬鹿にしやがってよあのモブ共。「ひどーい」みてぇに牽制しつつ一緒になって笑い者にする女子も大嫌いだった。そこに思わず入ってって激昂するゴリ、けど結局何も言い返せずに体育館戻って、そんで確か次は―…。

「おい山崎聞いてんのか!?とにかくお前は暫く停学だ、毎日訪問するから絶対家から出んじゃねーぞ!」
そんな松平の怒号も一ミリも頭に入ってこなかった。
俺には「何やってんだよ」って待っててくれる木暮はいない。ここで泣いたところで円陣組んでくれるチームメイトもいない。
だがそうなるとあいつはさしずめ俺にとっての晴子さんってとこだろうか、なんて思いかけて考えるのをやめた。




そんで結局今日で停学生活六日目。なまえからは度々心配している旨のRINEが届いていたが返信はしないでおいた。いや、できなかったといったほうが正しいかもしれない。

「…あーあ」
世の中皆馬鹿ばっか。卒業してもこれが続くのだろうか?そうだとしたら胸糞悪ぃったらねぇ。

『何か欲しいものとか、話したいことがあったらいつでも言ってね。私も山崎くんの力になりたい』
なまえから来た最後のRINE、文面を見る限り恐らく俺の停学の理由を全て知ってしまったのだろう。
俺には、わからない。こうなってもまだあいつみたいのが俺と付き合っていて、俺の力になりたいといってくれて。
反面周囲は誰もそれを祝福しない。陰口叩かれっぱなしのこの状態がいつまで続くのか、けど言い返したところで結局また俺が悪者になってしまうんだ。次喧嘩沙汰を起こしたら今度は退学かもしれない。

じゃあ俺は、俺はどうしたらいい?

俺の出来得る最善のやり方が、今の俺にはわからない。それは校内の連中や教師だけでなく、なまえに対してもだった。

「山崎くーん、土方でーす」
そんなことを考えていたら、不意に響いたインターホン。ババァのまずい作り置きのせいでもたれた胃が重い。なのに、あの馬鹿はいつまでもいつまでも糞みてぇに大声張り上げて、

「やーまざーきくー」
「んだよそんな呼ばなくても聞こえてっつーの!!馬鹿かテメェはアァン!?」
「あっよかったーいたんだ、肉まん買ってきたよ」
玄関のドア半分顔にのめり込まして、なのにまだ笑ってるこの馬鹿見てたらなんかどうでもよくなってきた。



「なるほどねーゴリか。ゴリの衝動か。そりゃ仕方ないよ〜」
「いやそこかよ!?掘り下げるとこ他にもあるだろうが!?」
部屋に入っても特に何を言うでもなく、黙々と肉まんを貪るこいつになんだかこっちのほうがいたたまれなくなってきて話を切り出したらこれだ。毎度のことながらこいつは本当に人の話を聞かない。

「スラム○ンクといえばさ、僕はやっぱりあの三井乱入のシーンが特に好きだね」
「アァン?まさか例の『バスケがしたいです』じゃねぇだろうな俺ァ認めねーぞ大体ミッチーは甘ちゃんにも程があんだよだから後々『何故俺はあんな無駄な時間を』って泣く羽目にだな」
「あはは山崎くんこそ僕の話ちゃんと聞こう?僕が好きなのはむしろ水戸くんのあのシーンさ」
主人公桜木花道らが所属する湘北高校バスケ部にかつて在籍していた幻のエース三井ことミッチー。中学時代は全国大会MVPを穫る程の天才シューターだったが若さ故に自己判断を誤り怪我をきちんと治せずそれどころか再発してしまい、バスケを止めた後はお決まりのパターンで不良と成り下がった。だがそんな道を外れてしまった自分とは裏腹に新たな中学MVP一年流川と(このときはまだ自称)天才桜木を加え強豪校と渡り合えるようになる現バスケ部、それに宮城に前歯を折られたことを逆恨みし、ミッチーとその仲間たちによる復讐劇が始まる。要はお礼参りという名の理不尽な暴力だ。
しかし暴力に抵抗しドアの外の教師陣にこの場面を目撃されれば一度バスケ部による不祥事として処理され大会に出られなくなる。だがなすがままにされては当然―…それこそ試合どころの話ではない。下手を打てばバスケの出来ない身体にされてしまう。そこに救いの手を差し伸べたのが、土方のいう水戸を筆頭とした 桜木軍団だ。

「あれはかっけーよなぁ、最終的に三井もバスケ部も救っちまったんだから。『やっちまいましたバスケ部も三井くんも、すいません』だっけか」
「そうそう、あれは僕も憧れたもんだよ。もっとも僕はどちらかというと木暮のようなキャラ付けだろうけどね」
木暮は三井のように巧くもなければ赤木のような背丈もない、赤木と同じく三年のメガネくんだ。だがだからこそ、この二人に夢を見てしまった。散々「俺が全国に連れて行ってやるよ」と言って退けておいて自制も出来ず結局体を壊してしまった三井に「夢見させるようなこと言うなよ」と言いきった。これも俺の大好きなシーンの一つだった。だがだからこそ、土方の言いたいことがよくわからなかった。だってメガネくんだってかっけーじゃん。

「人には得手不得手がある。なんて当たり前だけど。子供の頃はそれがわからないだろう?だから僕らは皆ヒーローやエースに憧れたんだ。…昔はね?」
「…?あ、あぁ。そうだな?」
「その点水戸はすごいよ、それこそ本人がミッチー編で言った通り花道に頭来てぶん殴っても仕方ないのにさ、『やっと見つけたやりたいことだから』って黙って背中を押してあげられるんだ。見守ってあげられるんだ。それってすごいことだと思わない?きっとあのくらいの年頃ならもっと一緒に遊びたいはずなのにねぇ」
「いやお前何歳だよ」
「友達のために、大事な人のために拳を振るえるなんてすごいことだよ。僕には到底できそうもない」
そこまで聞いてやっとわかった。こいつが言いたかったこと、わざわざうちに来てまで伝えたかったこと(実は普段は寄り付きもしない)。けど俺はそれでも、何と返せばいいか考えあぐねて。それは自分のしたことがやはり、きっと正しくはないことだから。それだけのことなのだけど。
けどこんなこいつのおかげで、そんな俺にとっての「世界」がこの後一変する。

「水戸は水戸に出来ることだけで限界がある。それはどうしたって花道が代わってあげられることじゃないし逆もそうだろう。だから僕は、君のしたことが友人としてとても誇らしい」
土方がそう言って掲げて見せた自身のスマホ、そこに納められていた動画は十分超の超大作だった。

『あー。じゃあ撮りまさァ。先生方、何も言わずにこいつらの言い分聞いてやってくだせェ』
この声この口調は多分沖田くん、えっ沖田くんまで絡んでんの何したのなんでそんな満足気なの土方?とこのときまではまだヘラヘラ笑って見ていられた。だがその次に映ったのがまさかの、いや顔なんざ覚えちゃいねーけど。傷だらけ痣だらけのこの面見せられちゃさすがにわかった。

『僕たちは、山崎退くんとその彼女さん、みょうじなまえさんにとても失礼なことを言いました。本当に申し訳ありませんでした』
『あぁ?どういうこったテメェら、テメェらあんとき俺には一方的に因縁付けられた言ってたよなそうじゃねぇか違ェかぁ!?』
『あーちょっと待ってくださいね松平先生、落ち着いて』
『すびっ、ずびばせんでしたぁ…すびば…っ、』
『だから何がすみませんだおめ、』
『はいはいちょっとカットー、というか次行こう次ー』
奴らに度々噛み付いてる松平の声が少し笑えて、けど次ってのが誰だか想像もつかなくて。あ、そんなんいったらなまえしかいねぇかって一瞬思ったが。次に画面に映し出されたのがこれまたまさかの、名前が浮かばないどころかおそらく面識もない奴で俺の頭の中ははてなマークでいっぱいで。

『あー…なんかぁ。確かに色々言ったかも。似合わねぇとかなんとか。でもさー』
『んだよな、なんか結局嫉妬っつーか。こんなことになるとは思ってなくて』
『だからぁ、…山崎の、山崎がそこまでキレた理由?みたいの考えたらよ』
『まーつまりあれだ、幸せになれよ!』
多分、俺らの陰口言ってたやつ…なんだろう。三人一緒になって手を合わせてみせる姿にやっぱり覚えはないが、けどだからこそ、少し、胸が熱くなる。

『ごめんね、山崎くん、早く』
『早く…停学とけるといいねー!』
きゃははと甲高い笑い声をあげる女子共にも覚えはない、けど、けど。

『傷つけて、怒らせてごめんなさい』
『あーもうそんなのいいから!みょうじなまえも寂しがってるだろうし早く帰ってきなさいよ〜』
『青春とかいうのにうつつ抜かしてくれぐれも受験失敗しねーようにな』
これは同じクラスの女子だ、確か志村と猿飛、あと名前忘れたけどなんだっけこのチャイナ娘。んだよこいつらまでいんのかよ、ならこうなる前から味方してくれりゃこんなんなんなかったかもしれねーのによ、なんて、都合良く責任押し付けてみたり。

その後動画にはたいして話したこともねぇ教師陣が郡をなしていて、だがどいつもこいつも興味のかけらもなさそうにやれ「がんばれーお前は悪くないー…らしいね?」(坂田)やれ「わっちが同じ立場なら同じことをしたはず」(月詠)だのなんだの。
だからこそ、その後に待ち受けていたこの号泣は効いた。

『話は全部聞いた。なんつーかお前…男だなぁ』
すまんかったぁ!とまさかの土下座までしてみせる松平。

『いい男じゃねぇかお前よぉ、がんばれよぉ、俺ァ、俺ァ…おじさん応援してっから!二人のこと!勘違いして悪かった!』
『えー、そんじゃこのへんでいいっすかね』
『いやちょっ待っ俺ァまだ』
『はーいじゃあ次ね次ィ』
一瞬感極まりそうになった、このタイミングでどうでも良さげな声でカットを入れてくれた沖田くんに感謝しかない。だって土方の前で俺まで泣くなんてそりゃ、プライドっていうかなんつーか。とにかく嫌だから。だから、だから。その後でこれは。

『山崎くん、元気ですか。全部聞きました。その…こんなことになっちゃってアレだけど、言わせて下さい。ありがとう』
明らかに泣き腫らした顔で笑って、ぺこりと頭を下げて見せるなまえが。…残り時間を見るにおそらくラスト、これはずるくねぇか。
そんなんを抗議したいがために土方を睨んでみたが、やっぱりこいつは素知らぬ顔で笑ってやがって。

『私の為に怒ってくれてありがとう、むかつく奴らぶん殴ってくれてありがとう。私すっごく、…うれしかったよ。やっぱり山崎くんのそういうところ、私すっごくすっごく好きです』
土方のこういうとこ、やっぱほんと、むかついてむかついて堪んねぇのに。

『だから山崎くんのいない間、ここは私が守るから。…ってそれは言い過ぎ?あれ?ごめんわかんないけど、うんとにかくね』
なんだろう、みょうじなまえが可愛いから、これまた腹立つくらいに、これが俺の女だなんて信じられねぇくらいに可愛いから、そのせいかもしんねーよななんて。

『いつでも、っていうかはやく戻ってきてよ!待ってるよ!もう誰にも何も言わせないから!ねっ!…それだけ』
違う。
土方が、いい奴だからだよ。ちくしょう。

「ということだから。今日で停学終了ね」
「アァン!?おま、そういう大事なことは事前に言えや!?」
「先に言ったところでどうせやさぐれるでしょ」
「っせーよ!!」
動画が終わればそこはまたあのうんざりする現実で、あの胸糞悪い笑顔の土方がいて。

「っつーかまぁ、俺明日学校とかそん前によ、行くとこあっから」
「…あぁ。待ってるよ、きっと」
「だからうっせーんだよお前に何がわかんだよ!!」
くそが!なんて格好悪いにも程がある捨て台詞だけ置いて、水戸のように生きたいと願う男はその場を後にする。けどやっぱり水戸みたいにはなれねぇから、この季節だししっかりジャケット羽織って。
ありがとうもごめんも言わない。

だってお前曰く俺は水戸でありお前は木暮くんなんだから、なんて言ったらあいつまた笑うんだろうな、なんて思いながら。
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