陥落通告[1/1]
事件は突然起こった。
『副長さんは山崎さんと付き合ってらっしゃるんですか?』
何言ってくれちゃってんだよ。
コレ、確実にこの後副長に尋問の末に「士道不覚悟で切腹」とか言われるヤツだよ。
まだ死にたくないよ、俺。
副長も案の定ポカンとした後、物凄い眼光でこっちを睨みつけているし。
「男と付き合う趣味はない。」
それだけ吐き捨てるように言って、ボソッと耳元で「後で覚えてろよ。」と囁かれ、そのままサッサと屯所の中に戻っていった。
終わった…、完全に俺の人生今日で終わった…。
一方彼女は物凄い嬉しそうな顔だ。
一瞬俺の顔色を見て心配そうにしたけど、あっという間に溢れそうな笑顔で、
『副長さんは山崎さんとは付き合っている訳ではないようですね。もしかして山崎さんの片想いですか?』
と尋ねてきた。
あーハイハイ。もう無理です、降参です。
そもそも、なんでこんな事になったんだっけ?
そうそう、数週間前の話だった。
沖田隊長に逃げられて1人で巡視にでかけた時、たまたまひったくりの現場を目撃して、現行犯でとっ捕まえた。
バックを奪われまいと、必死で抵抗していた彼女はあちこち打撲や擦り傷があって、呆然と立ち尽くしていたものだから気になって「大丈夫?」と声をかけた。
「あんまり泣くのを我慢しなくてもいいんじゃない?」
と顔を真っ赤にしていた彼女に言ったら、その5秒後には「付き合って下さい。」と言われて、反射的に「無理です。」て断ったところから始まったんだった。
こんな仕事をしているから、未練ができるような事はしないでおこうと思っていたんだけど、それをわざわざ伝えるのもアレだから適当に「副長に操を立てているんで付き合えません。」とか言ったのがそもそもの間違いだった。
彼女の猪のような勢いに押されてデートの約束を取り付けられ、そうか!嫌われるようなことすれば諦めんじゃね?と思いついていろいろ試してみたけど、いまいち効果がない。
で、結局こんな結果になっちゃった訳で。
『じゃっ!私これからも山崎さんを落とせるまでアタックし続けるんで!』
堂々と陥落通告をされ、意気揚々と帰って行く彼女の背中を見ながら、ちゃんと本当の事を言おうと心の中で決めた。
そして、それでもまだ俺のことを好きだって言ってくれたのなら、今度は自分から告げよう。
実は初めて会った時から気になっていました。
付き合って下さい。
誰もいないと思って、スキップで鼻歌を歌う彼女の背中を追いかけた。
(合歓木様より20170320ご寄稿いただきました。ありがとうございました!)
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