ヤマザキ春のザキだらけ祭り | ナノ
陥落宣言[1/1]

「おまたせ!」

『………。』


あるデートの待ち合わせ。
指定された場所はあまり人が来ない路地裏。
約束の時間の少し前に着いた私は、その人気のなさに本当に彼は来るのかと不安になった。
そうしてやっと来たと思ったら、これだ。

一体何考えてやがんだ。


「あれ?乗らないの?」
『………コレに?』


時間ぴったりに来た彼はなんとパトカーでやってきた。
サイレンこそ鳴ってはいないものの、その風貌は目立ってしょうがない。
助手席の窓を開けて乗るように促した彼にそれとなく拒否の意を示したにも関わらず、ものっそい笑顔で「うん!」と答える彼には一生同意できそうにない。

うん、マジ無理。


「ホラ、無理でしょ?だから僕とは『乗ります。』…ああそう…。」


ある事を言いかけた彼にその先は言わせん!と半ば意地になって乗ります宣言。
いそいそとパトカーに乗り込む私を横目に、彼は小さいため息をついた。

ああ、それにしてもパトカーの助手席に座るなんて、落ち着かないことこの上ない。


「……行先、決めてあるけどいい?」
『どうぞ。』


そうすると、彼は無言でパトカーを走らせた。
目的地に着くまで車の中は終始無言。
いや、私は色々と頑張った。
「お仕事どうですか?」とか、「最近●●が巷で流行ってるらしいですよ。」とか。
しかし、彼は運転に集中したいからと一切無視。

アレ?なにコレ?目にしょっぱい水が溜まってきた。


「どうする?このまま家に帰る?」
『は?何言ってんですか?全然会話がないし無視されてるからって、お家に帰りたいなんて思ってないですから。』
「ふぅん。そう?」

ちょっと残念そうに呟いたその言葉に、思い出しては何度も鼻頭が熱くなった気がしたけど、くっそ負けるもんか!

俯いて唇を噛み締めた時、車は目的地に到着したらしく「着いたよ。」という彼の声に慌てて顔を上げた。


『ずいぶん大きなお家ですね?ここは何処なんでしょう?』
「うん。真選組の屯所。』
『へぇ〜………んん?』


私の聞き間違いかしら?今「屯所」という単語が聞こえてきた気がするのですが。


「いやぁ、初デートで家っていうのもどうかな?って思ったんだけど…」


……そこは踏みとどまって欲しかったっ…


「せっかくだしね。」


今笑った彼の顔に影が射した気がした。


『これは…アレですか?やっぱり私とは付き合えないってことなんですか?』
「それは一番最初に話したと思うけど。」


ええ、ええそうでしたね。よーく覚えていますとも。

ひったくりに遭って、彼に助けられて一目惚れして、衝動的に告白した時にさらりと彼は言ったのだ。


「悪いけど副長に操立ててるんで付き合えません。」


ハンマーで頭をかち割られたような衝撃だったけど、そこから私の猛アタックが始まって、ここまでこぎつけたのだ。
諦めてやるもんか、畜生。


『…よく分かりました。副長だか族長だかよく分かりませんが、その人と話し合いをしてこいということですね。』
「え?あれ?いや、そういう…『その人から山崎さんを奪って来いということですね!行ってきます!!』わぁぁぁあ!待って!!タンマタンマ!!」


慌ててガシリと腕を掴まれ、勢いのまま前のめりになっていた私は見事に躓き、地面と顔がこんにちはする。

はずだったのに、あれ?痛くない。
恐る恐る目を開けてみれば地面が目の前に。

腰に回された腕を感じ、後ろに顔を向ければ「あっぶな〜。」と、焦った顔をした彼の顔があった。

ぼそぼそと「ありがとうございます」と言って、名残惜しくその意外と力強い腕から離れて向き合えば、向こうも気まずいのか「どういたしまして」とぼそぼそと言った。

その顔に、じんわりと今までの炎のような情熱がか細いものに変わっていくのを感じた。


『……その、副長さん?はそんなに山崎さんにとって大事な人なんですか?』
「…んー…」


なんともいえない彼の顔に、自分の入る隙などないのかと諦めなのか悔しさなのかどっちつかずの涙が溢れた。


『…ごめんなさい、』
「あ、いや…こっちこそ…」


気持ちに応えられなくてごめん、とポソリと言われた。

これで終わった。完全に失恋だ。
今日はとことん飲んでやる、と胸の中で決意し、顔を上げようとしたその時だった。


「おぅ、山崎ィ。テメェ屯所の真ん前で何やってやがんだ?」
「げぇっ!副長!?」
「げぇってなんだよ、げぇって。」


副長?副長って、山崎さんの大事な人だという副長?
あれ??声が男じゃないの?コレ


確認しようと顔を上げると、そこには煙草を咥えてポケットに手を突っ込んでいる、長身イケメンがいた。

うわぁ


『そっか…こういうのが好みだったんだ…』


そりゃあ、私が何言ったって敵わないはずだ。
だって相手は男だもん。
何言ったって無駄だ、無駄。


「え?なんか酷い勘違いをしていない?ねえ?」
『男相手じゃ敵うわけないわー。その好みに寄せる事は流石に無理だー…。』
「ちょっまっ…それは誤解…「オイ山崎ィ」ハイ!」


未だ立ち直れない私の頭上に、イケメン副長さんの声が響いた。


「この女、アレだろ?お前が惚気てたヤツ。」
「あああああああああーー!!」
「っ…なんだよ、突然デケェ声出してんじゃねェよ。」


い、今のは聞き違いかな?
たしか、「惚気てる」て言ってたよね?

顔を上げてもう一度山崎さんの顔を見たら、目元に手を当てて、いかにも「あちゃー」みたいな雰囲気を醸し出している。

あれ?山崎さんはアッチじゃないの?


「お前、屯所の真ん前で女とイチャついてんじゃねェよ。しかも泣かせてよォ。士道不覚悟で切腹させるぞ。」


このご時世に切腹なんておっかない事をサラリと言う副長さんは、見た目もだけど中身もイケメンだということが分かった。


「ホラ、分かったらサッサと行った。」
『あのっ!』


しっしっと手で追い払う副長さんを遮るようにして声を上げた。


『私、副長さんにちょっとお聞きしたいことがあるんですが!』
「はあ、なんでしょう。」
『副長さんは山崎さんと付き合ってらっしゃるんですか!?』
「………。」


私の質問に副長さんはしばらくフリーズし、その間彼の顔はどんどん青ざめていた。


『いえ、あの先日、山崎さんに副長さんとやらに操を立てていると言われたものでして。私としては、どうしても諦めきれないものですから、直接お聞きしたいと思いまして。』


氷のように固まった副長さんは、私の話に深い深〜い溜息をついて、一言だけ言った。


「男と付き合う趣味はない。」


その後、彼の耳元に何かを囁いて、屯所の中に戻っていってしまった。
彼の顔は、青から見事な土気色に変わっていた。


『副長さんは山崎さんとお付き合いしている訳ではないようですね。もしかして山崎さんの片想い?』
「…もう、勘弁して下さい。」
『じゃあ、山崎さんは今フリーという事でいいですかね?』
「………はい。」


よっしゃあ!!


『じゃっ!私これからも山崎さんを落とせるまでアタックし続けるんで!』


先程までの落ち込みようはどこへやらだ。
堂々と陥落宣言をかまし、呆然と立ち尽くす彼に、「今日はこれで失礼します!」と挨拶をして意気揚々と私は帰路についた。


さて、帰ったらなんてメールを送ろうかな

(合歓木様より20170320ご寄稿いただきました。ありがとうございました!)
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