「はい、犬夜叉、これ…久しぶりに作ったんだけど…食べてみてくれる?」
「なんでぃこれ?」
焼きたてのクッキーをお皿に乗せて、部屋で待つ犬夜叉に持っていきクッキーを見せた。
見たことがないものに、鼻をふんふんとならしながら警戒する犬夜叉。
「お菓子よ。変なもの入ってないから、安心して食べて良いわよ?」
まずは自分が先に…と思ったけれど止めておいた。
(これだけはどうしても犬夜叉に食べてもらいたい…)
「……まぁ不味そうな匂いはしねぇしな?」
「失礼ねー…」
犬夜叉の手には少し小さいクッキー。
シンプルにバターのクッキーにした。部屋中に砂糖とバターと卵の混ざった甘い匂いが広がる。
「……(もぐもぐ)」
「どう?」
どきどきしながら犬夜叉をじっと見つめる。
「…甘ぇ……」
「そりゃ、お菓子だから…」
「ふーん…?」
不思議そうにしながら、ぽりぽりとクッキーを食べ続ける。
それから犬夜叉から一言ぽつりと言われた。
「なぁ…何でいきなり菓子なんて作ったんだ…?」
「え?そ、それは…」
―…前に犬夜叉が生まれた日についてのことを話していて、せっかくだから誕生日プレゼントでもあげたいと思った…
なんて言えるわけがない。
いつもぶっきらぼうで怒ってばかりでわがままで子供ですぐ拗ねるけど…けど、
やっぱり時々見せる優しさとか、照れてるところとか、可愛いところとか…戦いのときは守ってくれるし…
色んな意味で感謝してもしきれないほどだった。
だからその感謝の意味も込めて、犬夜叉にクッキーを焼いたのだけれど、
犬夜叉はきっとそんなことちっとも思ってないだろうな。
それにこのクッキーはちゃんとハートの形してるでしょ?
私の気持ちも一緒にこもってるってこともあるんだけど…
でも美味しそうに食べてくれるだけで…それだけで幸せかな…―
「じゃあ私も食べようかな…」
そう言って一枚手に取ろうとしたとき、犬夜叉の手が私の手を掴んだ。
「え…?」
「こ、これはかごめが俺に作ってくれたやつだろ…?だ、だから…」
「…犬夜叉…」
急に胸がドキンとなる。
いきなりそんなこと言われるなんて思ってなかった。
「ど、どうしても欲しいなら…く、口移し…してやる…」
「ええっ!?」
更に驚いた。
まさか…犬夜叉熱でもあるんじゃないだろうか…?
恐る恐る犬夜叉の額に手を当ててみるも、特に熱くもない。
「おい…何してんだよ?」
「え?い、いや別に…」
「で、食うのか?」
犬夜叉の手にはハート型のクッキーがひとつある。
そして自然と犬夜叉の口元にクッキーが運ばれていく。
「っ…」
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、ぎゅっと目を閉じながら顔を近付けた。
「……」
そして犬夜叉にクッキーを口移ししてもらう。
恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった…。
「どーだ…?」
「お、美味しいけど…でも私が作ったんだからね…?」
「わかってらぁ…けど、俺から食べさせたら何か味変わるんじゃねーかと思ってよ…」
ぽりぽりと照れくさそうに頬を掻き視線を彷徨わせる犬夜叉。
(確かに何となく…甘さが強かったような気がする…)
心の中でそう思いながら犬夜叉をじっと見つめる。
「…ん?」
「犬夜叉…口移しじゃなくて…」
頬を真っ赤にしながら言いにくそうにしていると、犬夜叉の両手が伸びてきて両頬を包んだ。
「俺も…口移しだけじゃ我慢出来ねぇ…」
「んぅ、っ…」
―…
―……
数時間後…ベッドに二人で寝転んでいる。
じっとお互いの顔を見つめながら…。そしてずっと言いたかった一言を小さな声で呟いた。
『犬夜叉…誕生日おめでとう』
ありがとう