童話:はじまりの日
『生きるために働くのか、働くために生きるのか』
その少年は、茶色のシャツとズボンをいつも着けていました。
緑の髪で、それよりも深い緑色の瞳。そして、真っ白い肌をしておりました。
肌が白いのは、長い間光を浴びていないからです。
そんな場所で、少年は、ずっと過ごしていたのです。
暮らしぶりはこんなものです。
少年は朝起きると、真っ先に朝ごはんを食べます。食べるものは決まって黄水晶。あまり美味しいものではありません。
でも、食べなければなりません。これから働きに行くのですから。
食事を済ませたら、顔を洗ってすぐに仕事へ出かけます。
仕事場は家のすぐ近くにある洞窟です。
そこで夜になるまで、ずうっと石を掘ります。
持ってきたツルハシで、石を掘るのです。
ツック ツック ツック
岩壁は硬いものですから、なかなかうまくいきません。
それでも何度もツルハシを岩壁にさしますと、きれいな石が採れるのです。
ツック ツック ツック
そうして一つバケツがいっぱいになりましたら、休憩です。
少年はお水を少しだけ飲んで、また、働きます。
一生懸命、石を掘るのです。
ツック ツック ツック
二つバケツが一杯になりましたら、もう一日の終わりが近づいています。
洞窟の中ですから、日が暮れているとか、そんなことでわかるのではありません。
住人達が帰っていくので、少年も帰るのです。
少年は彼らと口をきいたことがありません。住人達は、少年を気にしちゃいませんから。
バケツ二つを両手に持ち、ツルハシを背中にしょって、のっそりと少年は歩き出します。
そうして、洞窟の前でうろうろしている石買いに、バケツ二つ分のきれいな石を渡し、代わりに黄水晶をもらって、うちに帰ります。
家に戻ると、さっさと汚れた体を洗って、夕ご飯にありつきます。
夕飯も黄水晶です。
がりがりがりがり食べて、すぐに布団に潜ります。
少年の暮らしはずうっとこんなものでした。
そんな彼の喜ばしい日は思いもかけないものでした。
少年がいつものように採掘をしておりますと、ツルハシがカツンといつもと違った具合に当たりました。
その当たった場所を見て、少年は驚きました。
何故ならそこが、光輝いていたのです。
小さな光でありながら、少年の周りを明るくしていました。
一体何だろうと掘り進めていきますと、それは丸く、大きなものでした。
太陽です。
太陽が埋まっていたのです。
少年がツルハシで掘っていたお蔭で、少々欠けておりましたが、まさしく太陽でした。
太陽は少年に言いました。
「お前はもういいから、進みなさい」
太陽の言葉は、少年の心にひびきます。
何故なら、少年が一番に言って欲しい言葉だったのですから。
「もう、ここにいなくていいんだね」
少年はほっとして、ぼろぼろぼろぼろ涙をこぼしました。
こぼした涙は広がって、少年の体をまゆのようにおおったかと思うと、少年はみるみる小さくなってゆきました。
反対に太陽はどんどん大きくなって、洞窟を壊してゆきます。
ガラガラと音を立てながら、洞窟は崩れ、住人達は一目散に逃げ出しました。
太陽の光は、暗がりだったその場所を照らします。
そして、静まり返っていたそこに、沢山の命を吹きかえらせていきました。
さて、小さくなった少年はと言いますと、そのうち種になりまして、小さな新芽を出したのでした。
完
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