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それから数時間後。黒子が着替えを済ませ、ようやく皆が落ち着きを取り戻した頃には、誠凛祭も終わりを迎えていた。
そして今、後片付けを終えたバスケ部のメンバーと、そして何故かキセキの世代とその同行者たちは、部室に集合している。
「…ちょっと待て、なんでオレらの打ち上げに、お前らが参加してんだよ!」
嫌そうな顔を隠そうともしない日向をはじめとする誠凛バスケ部員たちに、あっけらかんと笑ってみせたのは黄瀬だった。
「まーまー、細かいことは気にしない!……あ、そうそう、人気投票でトップ取ったそうじゃないっスか!流石オレの黒子っち!」
「だアホ!誰がお前のだ!」
「……あーあ、アレがライバルを巡ってのライバルとはね…」
日向にどつかれている黄瀬を見て呆れたように呟いてから、高尾はすぐ横で具合の悪そうにしている緑間へと声をかけた。
「…真ちゃん、まだ貧血治らねーの?寝てなくて平気?」
「…え、ミドリンの体調不良って、貧血だったの?まさか、ケガとかじゃないよね?」
「……べ、べつに、何でもないのだよ…っ」
まさか黒子に興奮して鼻血を出した挙句、ずっと保健室で休んでいましたとは言えない緑間だ。
「…変なミドリン。そういえば青峰君もカガミンも気持ち悪いくらいに大人しいし……ほんと、どうしたんだろう」
「…あら、本能だけで生きてる野生動物だと思ってたのに……2人とも意外と繊細なのねー」
「…え?何ですかそれ?」
「いいのいいの、こっちの話だから」
リコの言葉通り、部屋の隅っこで膝を抱え蹲っている火神と青峰は、大切な相棒を思いやるより自らの欲望を優先させてしまった罪悪感で、凹みまくっているのだろう。
そんな2人を見るともなしに見つめながら、黒子は隣に座った木吉に、ポツリと呟いた。
「…優勝賞品はイベリコ豚サンドの一か月優先権ですか……嬉しくないと言えば嘘になりますが、苦労に見合ってない気がします」
本当に、本当に疲れましたと、珍しくいじけたように愚痴をこぼし続ける黒子。それだけ、彼にとっては理不尽でハードな一日だったということだろう。
「まぁ、そう言うなって……色々あったけど、オレは結構楽しかったぜ?」
「…木吉センパイ…」
「だってほら、誠凛のみんなと、キセキの連中と、そのチームメイトたち…普段は競い合うオレらが、こんな風にいっしょになって騒げたんだからな」
お前もそう思うだろ?
木吉に尋ねられ、黒子は視線を周りに廻らせた。
楽しそうに会話を交わす桃井と高尾とリコ、具合の悪そうな緑間にスナック菓子を勧める紫原と、それを優しく諌めている氷室。日向も黄瀬を自分の後輩のように遠慮なくしばいているし、2年生たちはそれを苦笑を浮かべながら見守っている。そして部屋の隅では仲良く(?)火神と青峰が座り込んでおり、1年生たちはそんな彼らにおっかなびっくり話しかけているようだ。
「……そうですね。みんなと過ごせて、すごく嬉しいです」
「…そうか」
そう言いながら微笑む黒子は本当に幸せそうで、そんな健気で可愛い後輩の頭を、木吉は優しく撫でてやった。
「……あ、でも、できれば赤司君も来れたら良かったですよね」
「…うん、まぁ、お前の気持ちは分かるが……あんま恐ろしいこと言うのはやめような?」
あれ以上騒ぎが大きくなっていたら文化祭どころじゃなくなっていたと、流石の木吉も顔を青ざめさせ、それに黒子が首を傾げた時だった。
ぴりぴりぴりぴり!
部屋に鳴り響いた、無機質な電子音。
「…あ、すみません、着信です…………あれ、赤司君…?」
黒子がポツリと口にした名に、その部屋にいた全員が即座に反応し、紫原など一部を除いたほぼ全員が顔をこわばらせた。
「もしもし、黒子です……お久しぶりですね赤司君。今日の大会はどうでした?」
みなが固唾を飲んで見守る中、黒子は淡々と会話を進めていた――が、
「…えぇ、ボクの方も色々あって………は?直接会って話を聞きたいって、え?今どこに――」
「――ここだよ、テツヤ」
黒子の問いかけに答えたのは、電波を通してではない、生の赤司の声。
「…あ、赤司君…っ!?」
部室のドアを開け放った赤司は、耳に当てていた携帯の通話を切ってから、黒子に向かって微笑みかけた。
「…テツヤ、今日は本当に悪かったね。できれば僕も、昼間から参加したかったよ」
「…い、いえ…お気になさらず…」
「お詫びに、お土産を用意してきたんだ」
あまりの急展開についていけず、誰もが言葉を失っている中、赤司はあくまでマイペースに手に持っていた紙袋を黒子に差し出した。
「…え?…ええと、ありがとうございます…」
「…中身を見てごらん」
お前の為に僕が選んだんだと嬉しそうに笑う赤司の言葉を受けて、黒子は袋の中身に手を伸ばした。
「…一体、何なんです……か……っ!?」
そして、次の瞬間には、驚きに目を見開くことになった。
「……き、着物?」
「正確に言うと、長襦袢だね」
「え?…長襦袢って……え?」
「……洋風な人形の格好もお前には似合っていたけど、僕は和服の方が好みなんでね」
紫原あたりが送ったのだろう、フランス人形姿の黒子の写メを翳しながら、赤司は固まってしまった黒子に代わって袋から更に別のモノ――美しい牡丹の花が刺繍された、紅い振袖を取り出してみせた。
「…あぁ、やっぱりよく似合う」
それを黒子に羽織らせ、うっとり呟いてから、部屋の中に視線を走らせる赤司。
「…みんなも、そう思わないかい?」
赤司の言葉に、茫然と事の成り行きを見守っていた皆は一瞬で我に返り、そして――
『思います!!』
と、声を揃え、瞳をキラキラと輝かせながら、そう答えてみせた。
「……え?ウソ…冗談ですよね!?」
「まさか。お前と同じで、僕も冗談は苦手だよ?」
今にも逃げ出しそうな黒子の手首を容赦なく拘束しながら、赤司はあくまで優しく、しかしきっぱりと宣言してみせた。
「さぁ、もうひと騒ぎしようじゃないか――楽しい祭りは、まだまだこれからだよ」




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