『明日のデート、すっげー楽しみ!』
『...えへへ、うん、わたしも!』


そんな会話をして電話を切ってから、ウキウキして洋服を選んでいたら...

(......えーと、これは...)

昨日いつ眠りについたんだろう。やけに日差しが眩しくて、自然に目が覚めた。
ふと見た時計がさす時刻を見ると、そんなことを考えている暇はなく、


「ね、寝坊した!!!!!!」


布団から弾かれるように飛び出て、急いでパジャマから昨日選んでおいた服に着替える。焦ってパジャマにつまずきそうになった。
よりによって、彼とのデートの日に。

(髪の毛セットする時間ないよー!!)

「もしもし、天童くん!?寝坊しちゃった!ごめんなさい!」

(付き合ってからはじめてのデートなのに...!)

電話の向こうの彼に平謝りし、勢いよく玄関のドアを開けてカバンを持って全速力ではばたき駅まで走り出した。



___________________




「......ぷっ。」

はばたき駅のベンチで、先程電話越しの声を思い出し、思わず吹き出す。
今日は卒業式以来、晴れてオレたちが恋人同士になってから初めてのデートだった。
なのに!アイツは寝坊したらしい。

(すげー必死だった...ぷっ。)

先ほどの着信履歴を見ると笑ってしまうので携帯をポケットにしまった。とりあえずそのまま座って待っていることにする。めちゃくちゃ走っているようだから、飲み物でも買っておいてやるか。

(恋人、か。)

近くの自動販売機で適当にジュースを買い、先程座っていたベンチに座りなおす。
ジュースのペットボトルをくるくると回しながら、ついこないだの、アイツの卒業式の日を思い出していた。
すると、左斜め上から思わぬ声がかかった。

「あれ?壬?」
「は?」
「壬じゃーん!久しぶり!」

オレの姿を確認するなり甲高い声を上げて近づいて来る女。こいつは確か、

「あぁ、お前か。」
「え、テンション低くない?感動の再会なのにさー。
「そうか?」

前にツルんでたダチの彼女だ。前より服の露出と派手さが増していて、香水の匂いをプンプンさせながらオレに絡んできたと思えば隣に腰かけた。

「誰か待ってんの?」
「まぁな。お前はあいつとデートか?」
「...ううん、別れたの。」
「えー!マジか。」
「...ねえ壬。また遊んでよ、前みたいに。」

そいつは、オレの服の裾を掴んで、上目遣いにそう言ってきた。

「おいおい...」

(前みたいに、ねぇ...)


______________



「はぁ、はぁ、はぁ....」

駅のアナウンスが流れる。
ようやく、はばたき駅についた。窓ガラスにうつった自分は髪が乱れていて、必死な顔をしていた。

(かっこわる...)

そう思いながら髪型を直した。
そして、待ち合わせ場所だったエスカレータの付近まで歩くと、ベンチに見慣れた姿の彼と、その隣にいる派手な女の人が目に入った。

(.....誰?)

「....て、天童くん」
「お、美奈子!」

恐る恐る声をかけると、天童くんはいつもの笑顔でこっちに歩み寄ってきた。

「ごめんなさい、遅れて!」
「ほんとだよな〜初日で待たせるなんてな〜」
「...ごめんなさい...」
「嘘!お前マジになりすぎ!気にしてねえよ」

笑いながら私の頭を撫でてくる天童くんに癒されながら、後ろにいる女の人に目がいく。
派手で、化粧が濃いけど、綺麗だった。
その女性は、立ち上がるとこちらに向かって歩きだし、そっと天童くんに耳元で囁いた。長い脚につい目がいった。

「連絡待ってるから。」

そして改札のほうへ行ってしまった。
天童くんが小さくため息をついたことに気づいてしまった。

「...えーと、友達?」
「ダチの元カノ。さっきたまたま会って絡まれただけ。」
「そ、そう。」

行こうぜ!と早くも切り替えて天童くんは私の手を引いた。自然に手を繋いでいるという状況に遅れてハッとなる。

(でも....)

「連絡待ってるから。」先ほどあの女の人が言った言葉が引っかかる。天童くんは見た目は派手なほうだし、顔も整っているから目立つ。

悔しいけど、隣に立っていて違和感の無さを感じてしまった。ああいう女の人がそばにいる天童くんを容易く想像出来てしまう自分に腹が立つ。
付き合って間もないのに、こんなことを考えて不安になってしまうなんて。



「おーい、美奈子。ちょっと話すか?」
「...え?」

結局、せっかくのデートなのに作り笑いばかりしてしまった。帰り道公園前まで来たところで、しびれを切らしたように天童くんが私の顔を覗き込む。

「オマエ、今日1日ずっとぼーっとしやがって。」
「.....」

天童くんには申し訳ないと今更思いながらも、心にはさらにもやもやが積み重なる。

「...待ち合わせの時にいた女の人に...このあと、連絡するの?」
「はぁ?」
「だって、あの時...」

言いかけて、やめた。天童くんがすごく呆れたような顔をしていて、この先を言うと今までの全てが崩れるような気がした。

不安、嫉妬、劣等感...
マイナスな感情ばかりに支配されて、まさに“ネガティブ思考”が炸裂していた。

「オレってそんなチャラそうに見えるかー」
「........」
「ちょ、そこ否定するとこ。まあ仕方ねえか。」

天童くんはハァとため息をつくと、私の頭をぽんぽんと撫でた。そして、反射的に私が顔を上げた時身体をぐっと引き寄せられ、気づいたら天童くんの腕に包まれていた。

「美奈子、妬いたろ...?」
「ち、違うよ、ただ...」

天童くんの香水の匂いがした。
抱きしめながら天童くんが頭を撫でてくれて、そうすると心のもやもやが少しずつとれていくような感覚がした。
否定の言葉を言おうとした口が塞がる。

「.....うん、不安になっちゃった。」
「.......美奈子」
「え?」
「オレはどこにも行かねぇよ。こないだはば学の教会でプロポーズしたのはどうなっちまうんだよ!」
「天童くん...」
「あの女は別れたばかりで自暴自棄にでもなってるんだろ。オレには美奈子がいるから、ちゃんと断ったんだぜ?嫌な思いさせてごめんな。」
「ううん。もう平気。」
「......そっか。」

身体を離し、天童くんはニカッと笑いながら言った。“どこにも行かない”その言葉が嬉しくて、私もつい笑みが溢れてしまった。

「でも、プロポーズって。」
「あ、信じてねぇ!オレはマジなのになぁ。」
「ふふっ、ありがとう。」

いつのまにか2人で笑い合っていた。天童くんがそばにいるだけで、気持ちが安らぐし幸せだ。

「まー、今日のデートは仕切り直しだな。ゲーセン行こうぜ!」
「今から!?」
「あったりまえ!」

切り替えの早さにまたしても驚かされる。
明るくて眩しくてキラキラしていて、そして何よりこんなに大事にしてくれて、そんな天童くんに私は今日もまた夢中になってしまうんだ。



END
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