「吹き込むから、窓閉めるぞ。」

ガラッという音で、目が覚める。
いつのまにか、外は雨が降っていた。
雨が窓に当たる音と水の流れる音が聞こえて、少し湿気のある匂いがした。

目線を上げると、ズボンだけを身につけている不二山と目が合う。
鍛え上げられた身体が、まだ少し明るい外の光に照らされていて、美奈子はつい目を逸らした。

衣服を身につけていない状態では少し肌寒くて、美奈子はタオルケットを被った。

「よう、ねぼすけ。」
「...嵐くん、寝てた。」

不二山は、少し笑うとベッドに上がり、ギシッと音を立てて美奈子のとなりに腰掛ける。

「おまえ、口開けて寝てたぞ。」
「うそ、恥ずかしい!」
「...ぷっ。嘘。」
「...もう。」

美奈子の頬に不二山の手が触れる。
ゴツゴツしていて大きくて、温かい手。
壊れ物に触るかのように優しく撫でられ、切ないような気分になる。

つい数十分前、このベッドの上で美奈子は不二山に抱かれた。
卒業して、会える時間が少なくなった2人にとって、この時間は何より安心できるものだった。

美奈子は、触れている不二山の手に頬を擦り寄せる。やがて、不二山が顔を傾けながら近づいてきた。

「........っ」

言葉はなく、交わされるキス。
雨の音と、リップ音が混ざり合う。
唇が離れると、不二山は美奈子の隣に横になり、「ん。」と腕を伸ばした。

「...へへ。嵐くんの腕枕大好き。」
「そうか?」

美奈子は不二山の方を向き、そのまま腕に頭を乗せる。すると、不二山もまた美奈子のほうを向き、反対の腕を、美奈子の背中に回す。

不二山に包まれた安心感と温もりで、また眠気がどこかから顔を出した。

「お前とくっついてると、眠くなってくるんだ。10分だけ、......」

不二山は、目を閉じたかと思うと数十秒後には規則正しい呼吸ですうすうと寝息を立て始めた。

「.......疲れてるのに、ごめんね。」

(ありがとう、嵐くん。)
テーブルの隣にあるスポーツバッグと、畳まれた柔道着が目に入る。



(おやすみ、嵐くん。)



END
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