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大甘菜



日曜日。
世間一般では休日。

昼間から道は人で溢れかえる。
暑い今日、万事屋全員外にいる。
本来なら家の中で扇風機に当たりながらグダリたいところだが外にいる。
何故か。

「銀さん!タマちゃん見つけました!」

「なにっ!?新八ィ!!追いかけろ!!」

仕事中であるからだ。
貴重な仕事、今回は猫探しを依頼された万事屋は逃げだした三毛猫のタマちゃんを追いかけている。
今日は真夏日のように暑い。
依頼主は死にそうな顔で猫探しを依頼してきた。なんでも「この暑さの中か弱いタマちゃんが熱中症になってたらどうしよう」とのことで、早めに捕まえてくれれば報酬は弾むと約束してくれたのだ。
しかしこのタマちゃん、かなり頭が良い。
挟み撃ちにすれば上にヒラリと飛んで逃げ、罠を仕掛ければ罠だけ作動させて銀時がそれにハマったのを見届けてから逃げる。
「どこがか弱いんだよ!!誰かジェリー呼んでこい!!!」と銀時がブチギレたのを新八は苦笑して見つめる。

「だめアル!追い付いたら直ぐに狭い所に逃げ込んでしまうネ!」

「よーしわかった、出口で見張れ、そしたら変な形になって出てくっからそこをフライパンで叩くぞ」

「誰がトムの話をしたよ!
しっかりしてください銀さん!」

ひらりと屋根から神楽が降りてきて不満そうにそう漏らす。
銀時は暑さでイライラしながらどうするか考える。
何せ報酬上乗せがかかっている。
ここ数日まともなご飯を食べれていない、今日の報酬次第でこの先数週間の生活が決まるのだ。
暑さの中汗ダラダラで走り回り、空腹がさらに増す。
一旦休憩して頭を冷やすべきか、そう考え顔を上げかぶき町の道を見る。

目的のタマちゃんが優雅に歩いていた。


「見っ「待て神楽!!!」


飛び出そうとした神楽を慌てて制する。
この猫は手強い。
下手に走って追いかけるより、気付かれないように歩いてジワジワと追いつめた方が良い。
銀時がそう伝えれば二人は頷いた。
猫が歩く後ろ2メートルを万事屋が歩く。
猫はまったく気付いておらず、優雅にかぶき町を我が物顔で歩いていく。
実に腹ただしい。
此方はこんなに苦労しているというのに。


「ったくよぉ、本当なら今頃大砲に落としてぶっ放してる所だぞ尺考えて動けよクソ猫」

「もうそのネタいいですから、落ち着いてください」

「休憩で寝転がった時が奴の最後ネ。口の中に傘突っ込んで開いてその顔を傘の形から戻らないようにしてやるアル」

「だからもうトムとジェリーは良いって言ってんでしょーが」

猫はそのまま公園へと歩いていく。
それにこっそりと付いて行き、猫が何処に行くか遠目から見届ける。
木陰で影になっているベンチに誰かが座っている、猫はそこに近付いた。
猫は暫くベンチに座る人物を見つめ、その人物の膝にピョンと飛び乗った。
「わっ!?」と驚きの声がベンチの人物から上がり、恐る恐るそれに触ったのが見える。
「あっ…猫ちゃん」と僅かに聞こえた声に聞き覚えがあるな、と銀時は一人考える。
木陰で顔がよく見えないが、その人物によって膝の猫がゆっくりと撫でられはじめると甘い声を出して直ぐにお腹を見せた。
あの追いかけても追いかけてもつかまらなかった猫はあっさり木陰の人物の撫でによって捕まったのだ。

「ジェリーいたわ…」

「ジェリーいましたね銀さん」

ジッと見ていた神楽がパッと顔を明るくさせて駆け出したのを見ながら銀時と新八はそう呟いた。







「名前〜!」

「!、神楽ちゃん?」

神楽が木陰の人物の名前を呼びながら駆け寄る。
その知った人物の名前に銀時と新八は顔を一瞬見合わせて、神楽の後に続き木陰へと近寄る。
そこに居た人物はつい最近知り合いになった按摩師だった。
彼女の膝で仰向けになっている猫は撫でられる快感に抗えないのか甘い声を出しっぱなしだ。
笑顔で苗字の隣に座った神楽がその猫を覗き込んでいる。

「お久しぶりです苗字さん」

「!その声は志村さんですね、お久しぶりです!
後足音がもう一つありますけど、坂田さんもいらっしゃるんですか?」

「そうでぇす、坂田さんもいらっしゃいます」

銀時がそう答えながら猫捕獲用の籠を取り出した。
それを見た新八が事情を説明すれば彼女は納得して、トロトロになった猫を抱き上げて籠にゆっくり入れる。そして鍵をかけて、捕獲完了。
一時期はどうなることかと思ったが、彼女のおかげで助かったと新八は溜息をついた。

「やっぱり名前の手は凄いアルな、猫さえ眠らせてしまったアル」

「そうですね…職業柄何処撫でれば良いのか分かるからですかね…?」

「なんにせよ助かったぜ、これで報酬上乗せ確定だ」

銀時の言葉に彼女がよく分かっていない顔をするが銀時は報酬の事で上の空だ。
助けてもらっといて適当な対応をする銀時に新八が申し訳なくなり一つ謝罪する。
気にするなと首を横に振る彼女も今日はお休みなのかいつもの仕事着ではなく着物姿だ。
髪もいつもと違う纏め方で少しイメージが違う。
ここで休んでいたのはやはり暑かったからだろうか、と新八が何気無く尋ねれば彼女は頷いた。
たしかにこの暑さの中、人より歩く速度が遅い彼女にはキツいものがあるだろうと納得する。
御礼も兼ねて何か自販機でジュースでも買ってこようと考え彼女に何が飲みたいか尋ねれば「えっ!そんな!良いです!」と手をぶんぶんと振った。

「コレは猫を捕まえてくれた御礼なんで。
自販機のジュースで申し訳ないんですけど是非奢らせてください」

「!、じゃあ、お言葉に、甘えます」

新八の言葉に困ったように笑う。
水でも何でもとの事なので新八は公園にある自販機に向かって走り出した。
「俺ミックスジュースな」「私は歩狩汁にしろヨ」の言葉に「ちゃっかりしてんなアンタ等!」とツッコミを入れた。
それに面白そうに笑う苗字に神楽が今日は何をしていたのか聞く。

「今日はお休みだったのでエコーロケーションの練習をしてました
そしたら予想以上に暑くて、少しバテてしまったので、ここに。
猫ちゃん撫でたら帰ろうと思ってたところだったんです」

「エイ子…なにアルか?」

「エコーロケーションな。
口から出た音で周りのモンが見えるようになるんだと」

銀時が神楽とは反対側の苗字の隣に座り代わりにそれについて答える。
まだイメージが湧かない神楽がやって見せてと強請る。
苗字はそれに答えるように杖を置いたまま立ち上がった。
「まだ上手くはないんですけど」と苦笑しながらそろそろと歩いていく。
ある程度のところまで進むと立ち止まり、舌を鳴らしながら歩きはじめた。
歩く先には水飲み場、そこまで後一メートルという時に神楽は慌てたように立ち上がる。
銀時はそれをじっと見つめている。
彼女は水飲み場の前で立ち止まってからソコを避けて歩きはじめた。
それを見た神楽が駆け寄る。

「めちゃくちゃカッケーアルな!
目を瞑っても勝てるバトル漫画の強キャラみたいネ!」

「かっこいいですか!初めて言われました!」

嬉しそうに話す二人を銀時はベンチでのんびりと見守る。
こんな暑いのに元気なこったと、思っていれば新八がジュースを抱えて戻ってきた。
神楽が苗字の手を引いてベンチへ戻ってくる。神楽の歩くスピードに慣れていないのか彼女な少し足をもたつかせている。
ウチの怪力娘には繊細さはねえのかね、と銀時がミックスジュースの蓋を開けた。
帰ってきた二人。
神楽が歩狩汁を嬉しそうに持ち飲み始める。
銀時がベンチの席をトントンと鳴らすと
その音に気付いた苗字は新八に座るように促すが、その新八に遠慮され御礼を言いながら渋々座った。

「苗字さんも汗かいてるみたいなので歩狩汁にしました、どうぞ」

差し出されたものを手さぐりでやっと触る。
苗字は御礼を言って微笑んだ。
どうやって飲むのだろうかと興味本位で万事屋三人が一人を見つめる。手さぐりで蓋を掴み、パキッと蓋を開け飲み口のところに少し手を添えながら距離を測るように慎重に口に運ぶ。
ゆっくりと歩狩汁を飲み、そして美味しそうに笑う。

「おいしいです」

その言葉に新八が嬉しそうに笑う。
風が吹く。
木陰にいる四人にとって心地の良いそれは、汗をかいた身体を冷やしてくれる。
穏やかな時間だ。
時間がいつもよりゆっくりと流れているようにも感じる。

(前に万事屋に来た時もそうだったけど。
これは苗字さんならではの空気だなぁ)

彼女はその目のためか人より行動が一つ二つ多い。
そのゆったりとした動きはじっと見ていても腹がたつものではなく、むしろ何故か見ていてどこか心地よい。
焦らなくても良いのだと思わされる。
新八が一人彼女を見つめながらそう考えていれば「あの」とその風を浴びた彼女が声を漏らす。
どうかしたのかと三人が彼女に顔を向ける。

「雨がそろそろ降ります、早く帰られた方が良いですよ」

「こんなうざってぇぐらいお天道さん出てんのにか?」

空を見上げたままコクリと頷いたのを見て銀時も同じように空を見上げる。
「まぶしっ」と目を思わずそらした。
こんな天気なのに本当に雨なんて降るのだろうかと目をしぱしぱさせる。
目が弱い分、人より感じ取るものが多い彼女だ。わざわざ口に出すくらいなのだから本当なのかもしれない。

「そんじゃま、信じて帰るとしますか」

「はい、急いだ方が良いと思います」

まるで結野アナのようにお天気予報をする彼女は少しだけ困り顔だ。
銀時はベンチから立ち上がり猫が入った籠を持ち上げる。神楽もそれを見て立ち上がり、苗字の手を握って立ち上がるのを補助してやっていた。
杖を握ったのを見て「じゃあな、猫ありがとよ」と銀時が言って入口に歩き出す。
彼女はその音を聞いた後に頭を下げて「はい、飲み物ごちそうさまでした」と笑った。
一緒に行動しないのは恐らく自分の行動が遅いからだろうと銀時は察する。
神楽は無邪気に手を振って彼女に別れを告げている。
そして万事屋は公園を後にした。









「うわあ、凄いゲリラ豪雨ですね!
振られる前に帰って来れてよかった」

「苗字の予報的中アル!どこぞの天気予報より当たってるんじゃないアルか?」

「結野アナだってこれくらいできます〜!!!結野アナが雨って言えば俺の心も雨になるからね!!」

「銀ちゃんの心はどーでもいいネ
道端のダンボールより興味ないアル」


ドドドドとまるでバケツの水をひっくり返したような雨を窓から見つめる。
あれから家に帰って、依頼人に猫を渡して上乗せされた報酬を確認していれば、突然の轟音。
彼女の天気予報は見事に当たり銀時は窓から外をジッと見つめる。
(ゲリラ豪雨も形無しだな)
彼女の感じ取る力はゲリラ豪雨をも予報するとは思いもしなかった銀時は金を大事に箪笥に入れる。
しばらく生活の心配はしないで良さそうだ。



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