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含羞草



「おはようございまーす」


按摩師が来てから次の日の朝。
場所は万事屋。
いつものように自宅から新八が万事屋へ出勤する。

「新八ィ!」

すると居間から勢いよく神楽がやってきた。
それに新八は驚きながらも朝の挨拶をする。
神楽は寝起きなのか寝癖の頭で目やにが沢山付いている。
なにやら嬉しそうな神楽を落ち着かせていれば、再び居間から一人顔を見せた。

「うるせーよ神楽!!
何朝っぱらからテンションブチ上げてんだ!!」

つい昨日まで腰が痛くて腰を曲げながらじゃないとまともに歩けなかった人間が真っ直ぐに其処に立っている。
良くなるとは言っていたが、まさかこんな直ぐに良くなるとは思っていなかった新八も驚いた。


「新八!!銀ちゃん治ったアル!!
昨日のサーターアンダギーのおかげネ!!!
立てないぐらい痛がってたのに一瞬ヨ!!!
まるで魔法アル!!!」

「僕もびっくりしたよ神楽ちゃん
銀さん、腰痛くないんですか?普通に歩けてますけど」

「おーもう平気だわ
昨日もしかしてあれからあの姉ちゃんローションプレイしてくれた?
腰どころかなんか股間まで軽いんだけど」

「してねぇよ!
いつまで引き摺るつもりだアンタ!」


お登勢が紹介してくれたあの按摩師は余程腕が良かったのだろう。
腰を痛めてからの四日間の銀時は本当に酷いもので。
それが見ていられなかった新八は改めてお登勢と按摩師の彼女に感謝した。
神楽にとってもそれは同じだったようで、歯磨きをしにいく銀時の背中に嬉しそうに体当たりを入れて腰が大丈夫な事を確かめている。
銀時がそれにキレて怒鳴った。
昨日の彼女が来た穏やかな空気は嘘のようで、いつもの万事屋の空気が戻ったことに新八は笑った。







「そうかい、そいつは良かったじゃないか」

「本当にありがとうございました!お登勢さん!」


銀時の腰が快復した事と按摩師への連絡のお礼、後朝ごはんを頂戴しに一階のお登勢の店へ訪れた万事屋。
カウンターで神楽がご飯を食べながら「流石長年ババアやってないアル」と頷く。


「長年ババアってなんだい!
ったく、あの子は知り合いの店の子でね
目が弱い分、人より感じ取るモンが多いってんで按摩の腕が抜群に良いらしいよ
銀時の状態聞いてあの子を派遣してくれたのさ」

「あん?目が弱い?」


ご飯を食べていた銀時が反応する。
銀時は昨日ずっとうつ伏せだったため、彼女の姿を見ていない事に気付いた新八が彼女は目が見えない事を銀時に説明する。
するとお登勢がそれを否定した。
新八は何故否定されるのか分からず、思わずお登勢を見つめる。


「目が見えないんじゃないよ。
目が弱いんだ。
うっすらとした光とそこに何かあるのが分かる程度には見えてんのさ」


お登勢の説明に新八が認識を改めた。
昨日目が見えないからと手伝いの手を出していたが、やりすぎたのではないかと思い少し冷や汗をかく。
するとお登勢が名刺を取り出し、銀時に渡す。
それはお登勢が連絡したであろう按摩店の名刺。
また腰の痛みがぶり返すようなら勝手に行けとの事で、銀時はそれを少し見てから懐にしまう。
銀時自身、昨日のマッサージ最中の事を殆ど覚えていない。
最初、少しだけ会話した後突然意識を失った。
四日間ぐらい腰の痛みでまともに眠れていなかったので無理もない。
次の日の朝まで一回も起きる事なく寝続け、目覚めた時の腰の軽さに感動したのが今朝の話だ。

「とりあえず今日は一日安静にって仰ってたんで銀さんはジッとしていてくださいよ」

「ぱっつぁんパチンコ行ってくらぁ」

「人の話を聞けェエ!!」

銀時のその言葉に新八がツッコミを入れたあと、その場を去ろうとするその背中に神楽が蹴りを入れて止めた。
「安静と程遠い事されたけど!?」と銀時の叫びも虚しく、そのまま二人によって万事屋へ連行された。
家の中に連行され居間のソファに乱暴に投げられる。

「まったく、今日はジッとしてろって言ってんでしょーが」

「家から出たらもっかい腰いわせて二度と立てないようにしてやるネ」

「元も子もない事言ってる子がいるんですが!?」

ソファに座る神楽が銀時を見張るように睨みつけている。
新八は神楽に任せて寝室の掃除をはじめる。
それに観念したように銀時はゴロリとソファに横になった。
その横になった銀時の上に定春が何処からかやってきてお腹に顔を乗せる。
「おまっ定春っ重っ」と銀時が唸る声が聞こえた後、定春を何とか跳ね除け、起き上がった銀時が未だに見張る神楽を見つめ頭をかかえた。


「ったく…オイ、神楽。
ジャンプ買ってこい、赤マルじゃない方な」

「いやアル。ジャンプ読んだら銀ちゃん出てくネ」

「お前ジャンプ舐めてんのか、懸賞欄まで読み込んだら一日なんざあっという間に過ぎるんだよ。いーからとっとと買ってこい」


銀時のその言葉に神楽が嬉しそうに反応する。
お金を貰い外へ駆け出していくのを定春が追いかける。
その姿を見た銀時は溜息をついて再びソファに横になった。

傘をさして玄関を飛び出し、コンビニへ向かう。
最寄りのコンビニへと足を運ぶがジャンプは売り切れているらしく、次のコンビニへまた足を運ぶ。
どうせなら少し離れたとこへ行こうと定春の散歩がてら歩いていく。
公園を通りすぎて、また違う通りへと進んでいけば神楽はある人物に気付いた。

昨日の按摩師である。

昨日と同じ服を着て買い物袋を下げ、カツカツと杖をついて歩く按摩師を見つけ、神楽は駆け寄った。

「昨日のサーターアンダギーで合ってるアルか?」

「??、サーターアンダギー…?」

突然の声かけに少し肩を跳ねさせた彼女は意味のわからない質問に首を傾げた。
そして少し考えて何か思い出したように顔をはっとさせる。

「もしかして、昨日の坂田さんのところにいた女の子ですか?」

「その通りネ。
私神楽って言うアル」

「神楽ちゃんって言うんですね、私は苗字名前です、改めてよろしくお願いします
あっ坂田さんはあれからどうですか?」

神楽の声がする位置に少し腰を屈め笑いかける。
苗字の質問に神楽がパッと顔を輝かせた。
銀時が今日の朝には良くなっていた事、真っ直ぐ立って自分の蹴りを受けるぐらいになっていた事など今の状況を伝えていく。
神楽の高揚した声色につられて苗字が笑顔になれば、神楽も嬉しそうに笑った。
そして神楽は苗字の手をジッと見つめ、触っても良いか問う。
それに彼女が笑いながら許可をすれば神楽は買い物袋を持つ手を取ってムニムニと触り始めた。

「銀ちゃんがあんな一日で良くなるなんて驚きヨ。きっとこの手からなんか出てるアル」

神楽のその言葉に楽しそうに笑う苗字。
普通にマッサージしただけだと伝えれば神楽は信じられない顔で手を触り続けた。
目が弱い分、指先や他の感覚はそれを補うために敏感になる。
それに合わせてこの按摩師の仕事を続けてきたせいか苗字は人の身体を触ると人の筋繊維の状態などがやんわりと分かるようになっていた。
後はそれを和らげるためにマッサージをしていくだけ。
感覚の世界を説明するのは難しく、マッサージをしているだけと説明するしかできない。
ひと通り手を触って異常はない事を確かめた神楽はゆっくりとその手を離した。

「何かでましたか?」

「出てこないアル、名前の手は普通の手だったネ」

それに「良かった」と言う苗字。
昨日万事屋で感じた穏やかな空気を神楽は感じた。
今まで自分が接してきた女性とは明らかに違う。蹴りもパンチも出来なさそうだ。
彼女の隣に立つと彼女は少し上を向いた。
どうしたのかと聞けば、「風の匂いが変わったなと。近々雨が降るかもしれませんね」と言う。

「風に匂いがあるアルか?」

「私がそう感じてるだけなので、実際はどうか分からないんですが…」


不思議な事を言う。
神楽は少し興味を持って、風はどんな匂いか聞いてみた。
さっきの風は湿気った葉っぱの匂いがしたらしい。
自分からしたらただの風で匂いなんて感じない。
神楽は「じゃあ、これは?」と興味本位で地面に落ちている石を渡してみる。
彼女はそれを嗅いで「太陽を浴びてる匂いがしますね」と笑った。

彼女の世界は自分とは違う。
神楽は面白そうに次から次へと匂いを教えてもらう。
自分の知らない世界に会話が止まらない。
一時間ほど話し込むと彼女が「あ、仕事中だった」とハッとした。

神楽は再び、彼女の手を取る。
それに少し驚いた彼女は神楽の方をジッと見つめた。

「ちんたら歩いてたら日が暮れるアル!
私が店まで連れて行ってあげるネ!」

そういうと、ずっとそばにいた定春の毛へその手を埋めさせる。
苗字は突然の感触に変な声を出した。
定春がそれに合わせるように吠える。
そのひと吠えでこの感触が犬だと気付いた彼女は少し落ち着いて「お、おっきいですね?」と定春の大きさに驚愕した。
神楽が店の場所を聞けば苗字は素直に場所を教える。

「じゃあ行くアルよ〜!」

その言葉とともにやってくる浮遊感。
神楽は苗字を持ち上げ定春の上に一緒に乗った。「!?、!?」と疑問符だらけの彼女に定春の上だと伝えれば、ゆっくりと定春の毛に手を置いた。

「えっと、重くないですか?大丈夫?」

「平気ヨ。銀ちゃん乗せても余裕アル。
それより捕まってないと振り落とされるネ」

神楽が自分の身体に腕を巻きつかせる。
そして定春が走り出した。

突然の疾風感。
肌が風を切る感覚。
幼い頃以来のその感覚に少しの恐怖と高揚。
きっと目が見えたらより楽しいのだろうと、彼女は目を細めた。

あっという間に定春は店まで駆け抜けた。
辿り着いた店の前で神楽は苗字を抱えて降りる。
到着した事を伝えれば、苗字は今まで俯いていた顔をパッと上げた。

「か、神楽ちゃん、ありがとう!
す、すごい!風になるってこんな感じなんですね!とても楽しかった!」

ボサボサの髪、満面の笑顔で言われたその言葉に神楽も嬉しそうに笑う。
そして彼女をゆっくり立たせて杖を持たせた。

「私こそ、ありがとネ!
名前のおかげで銀ちゃん治ったアル!」

お互い笑い合う。
彼女は皆と少し違うけど仲良くなれそうだと神楽は思う。
定春が二人に擦り寄った。
どうやら定春も同じ意見のようで、それにも神楽は笑う。
家を出て一時間はたった。
本来の目的のものを買いに行こうと、ひらりと定春に乗る。
「またネ!」と手を振ってその場を後にした神楽と定春の足音を苗字は聞こえなくなるまで聞いていた。





「ただいまヨ〜」

「神楽ちゃん、おかえり
遅かったね」

「名前と会ったからお話してたネ」

「えっ苗字さんと?凄い偶然だね。
外歩いてたの?大丈夫だった?」

「買い物帰りみたいだったから送ってあげたアル」


居間の入り口で和気藹々と話す二人。
そしてソファで寝転がりながらそれを見つめる銀時。
自分だけ話題の中心であろう人物を良く知らないため二人の会話に入る事も出来ない。

「神楽〜ジャンプ寄越せジャンプ」

一向に止まらない話に痺れを切らした銀時が声をかければ、神楽がジャンプを持って来る。
それを受け取り、やけにご機嫌な神楽を見つめる。
一体なにを話したんだかと溜息をついて銀時はゆっくりジャンプを開いた。


「お前これ赤マルじゃねーか!」


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