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沢桔梗




暑い。
何故こんなに暑いのに海なんかに来なきゃいけねーんだよ。


「銀さん、早くしてください。
監視員の仕事なんですからキビキビ動かないと」

仕事だわ、仕方ねぇわ。
万事屋に海の監視員の依頼が来たのは良いが、それが伝わり伝わって何故か余計なモノまで付いて来ている。
神楽新八はともかくお妙に九兵衛に名前まで付いてくるってどういう事?
完璧神楽は遊ぶ気満々じゃねーか。
まあ監視員なんてお飾りみたいなものだし、痴漢とかそういうのがいたら声かけたら良いだけだし、監視とかこつけて可愛いお姉ちゃん達の肢体をこれ見よがしに観察出来るわけだし。
俺は俺で楽しませてもらうわ。

新八と水着に着替えて海に出る。
カッと照り付ける暑さに顔をしかめる。
麦わら帽子を被って監視員椅子の方へ向かう。
すれ違う女の子達の肢体を見ながらたどり着き「いや〜癒しだわ」と呟いたが新八からはツッコミが無い。
どうやら新八もチラ見しているらしい。
まあ童貞だから仕方ねーな。

「銀ちゃーん!新八ィー!」

ウチの怪力娘が新しいワンピースタイプの水着を着て嬉しそうに駆け寄ってくる。
ちゃんと帽子等被って日差し対策をしているようだ。その後ろに続いて、お妙、九兵衛、名前もやってきた。
名前は一応杖をついているがお妙の腕をかりながら一生懸命に歩いているのが分かる。
砂浜だから歩きづらいんだろうなというのが一発で分かった。

「銀さん、今日は連れて来てくれてありがとうございます。お仕事頑張ってくださいね」

「すまない銀時、本当は遠慮したかったんだが…」

「まあお前はお妙の断崖見れるなら来るしかねーわな」

「誰の胸が断崖じゃぁあ!!!」

気付いたら砂浜の中で、頬の痛みと共にゆっくりそこから抜け出した。
本当どんな力してんだ、と思いながら鼻血を拭う。拭いながら女三人の水着をチラ見する。
お妙と九兵衛がワンピースタイプの水着なのに対して名前だけがビキニタイプだ。
名前はハアハアと砂浜の歩きにくさに体力を奪われまくっている。

「あの、本当、お仕事だとは、知らなくて、ごめんなさい…!」

「いやもういーから
お前はとっとと息整えろって見てらんないから」

海向いてなさすぎるだろ。
新八がビーチパラソルを刺して、場所取りをし、それぞれがそこに荷物を置いた。
神楽が荷物を見ておいてくれと俺たちに伝えて海の方へ走っていく。
いやお前仕事あんだろーが。

「名前さんも行きましょ?」

「お妙さん、あの、すみません、少し砂浜に慣れてから後で追いつきますね」

「む…そうか、砂浜はたしかに歩きづらいから名前さんには大変なんだな。
僕で良ければ慣れるまで一緒に歩こう」

「いやいやそんな!九兵衛さんはお妙さんと一緒に遊んで来てください!
歩きに慣れて直ぐに追いつきますね」

名前が全力で首を横に振り二人を海へと見送った。
暫くその二人の足音を聞いた後、杖で砂浜をサクサクと突きはじめる。
ああ、なるほどな。
いつもカツカツ鳴らしてた音と感触がいきなり変わったから歩き辛くなってるわけか。
ここの砂浜は無駄にサラサラしてっから尚更やりづらいわけだ。
新八が助けに行こうと歩き出したがそれを止める。
とりあえず監視椅子にもたれながら手をパンパン叩いた。
名前が後ろを向いた。

「名前ちゃん此方、手の鳴る方へ」

自分で解決するっつーんだからそれを無下するわけにもいかねぇだろ。
俺の声に一瞬呆けた顔をしたが、直ぐに真剣な顔になり此方へ一歩踏み出した。
杖を強く突きすぎたからか杖が砂浜に深く沈み、ガクンと転けかける。
「あぶないっ」と新八が声を出す。
名前は立てなおし、杖の力加減と歩き方を試行錯誤しながら此方へ歩いて来る。
時々膝を付いたりしたが、最終的には少しずつ慣れて俺の元へやってきた。

「やりましたね苗字さん!直ぐに慣れたじゃないですか!」

「志村さん、ありがとうございます…おかげさまでコツが少し分かりました
坂田さんも、ありがとうございました
というかお二人のお仕事の邪魔をしてしまってすみません」

「いやいや、監視している僕達の所に来たっていうだけなんで、邪魔したわけじゃないですよ」

御礼と謝罪を言う名前の身体に張り付いた砂がパラパラと落ちる。
思わずそれをジッと見て返事するのを忘れていれば、目の前の女から名前を呼ばれた。
それに適当に返事をすれば神楽が駆け寄ってきて名前の手を掴んだ。
そして遊びに連行されて行く。
新八が「神楽ちゃんは程よく遊んだらお仕事してよー」と声をかけた。
それに神楽の元気すぎる声が返る。
まあ神楽もなんだかんだで真面目な奴だから程よく遊んだら戻ってくるだろうと頭を一つかいた。
波打ち際で楽しそうに遊ぶ四人を見つめる。
お妙が名前の手を掴んで少し海の方へ進むのが見えた。


監視椅子に座り、砂浜を一望する。
太陽が近くなったからかより暑くなった気がする。
あまりにも暑いので新八に飲み物を頼んだ。
直ぐに買いにいってくれるあたり持つべきものはぱっつぁんだ。
汗をかきながら砂浜に集まる人を見る。
とりあえず変質者はいねぇな。
ナンパしてる奴は除外だ。
海に来たテンションで頭のリミッター外れた性欲の塊が事前交渉してるだけだからな。
事前交渉してるだけ偉いよホント。
中にはしないクソ野郎がいるからね。

そんな事考えていれば、そのナンパ野郎がお妙達に事前交渉をしている。
あーあーよりにもよってその女達に声かけるかね、と溜息をつきながら様子を見る。
何かあれば駆けつけるつもりではいるが、あの男共運がない。

「うがぁぁあ!僕に触るなぁあ!」

ご愁傷様です。
九兵衛に気安く触るとこうなるんだよ。
会心の一撃で男共を海に葬った九兵衛が少し取り乱しているのをお妙がなだめている。
後ろの方で神楽と名前は呆けた顔で九兵衛達の方を見ていた。
何も無かった事に一つ溜息をついて椅子に深く腰掛ける。
新八が戻ってきてジュースを俺に渡す。
それを受け取り喉を潤した。
何か異常はあったかと新八に聞かれ、それにさっきお妙達がナンパされてたと伝えると新八は驚いた顔をした。

「姉上は!姉上達は大丈夫なんですか!?」

「おめーその姉上の近くにいる奴の事忘れてない?性欲の塊は全員もれなく海に散ってったよ」

そう伝えれば新八が何かを悟り安心したように溜息をついた。
本当シスコンだなこいつ。
視界の端に何か髪を掴み合いもめてる女共が見えた。
新八にそれを伝え神楽を連れて行って来いと伝える。
新八はそれに頷き、神楽を呼んで走っていく。
自分も行ってやりたいが、別に何か起きた時のために待機は一人いるだろう。
別に動きたくないとかそういう訳じゃないからね。
神楽が居なくなっても名前はお妙と九兵衛と楽しく海で遊んでいる。
よしよし溺れてねーな。
定期的に確認しねーとどうにも不安でならねえ。店長から金を貰ってるからちゃんと面倒見ねぇと背中を折られちまう。
どうやら九兵衛と一緒に泳ぐ練習をしているようだ。
目が見えねえ分水なんざ怖いだけだと思うのだが、楽しそうで何よりだ。
恐らくこの機会を利用して少しでも泳げるようになろうという魂胆なのだろう。
本当根性マシマシの女だな。

ジュースを飲みながら視界の端に天人二人組を捉える。今時は天人も海水浴旅行するものなのかとソイツ等をジッと見つめる。
その割には全然楽しそうには見えない。
むしろアレは。

「……」

ジュースを置いて監視椅子から降りる。
少し距離をあけて付いていく。
少しフラフラと歩いたかと思えば、一人の子供の後ろを付いて行き始めた。

今噂になってる人攫いってやつだろう。
ガキばかり狙うとは聞いたが目的が分からねえ。

子供が人混みを抜けて、岩陰で楽しそうに蟹を探しはじめた。
そこからは一瞬だ。

「すみませぇん、お二人とも迷子ですかぁ?」

天人二人組はガキの口を塞いでその体を持ち上げる…前に一体の天人の肩を掴んでそれを止めた。
振り向いた天人はチュパカブラみたいな外見をしている。うわ気持ち悪。
俺を頭の先からつま先まで値踏みしたかと思えば、もう一体が何処からか小銃を取り出して俺の腹に突き付けた。
ガキは俺らに気付かず未だに蟹を探している。
どんだけ夢中だよ、今お前の後ろで銀さんデッドオアアライブなんだけど。

「見逃してやるから此処から消えろ
俺らはこのガキにしか用がねえんだ」

「え?なに?蟹にしか用がない?
岩場にいる蟹そんなに欲しかったの?だったら交渉して分けてもらえよ
間違っても暴力で蟹を奪おうとすんじゃねーぞ」

「なんで蟹だ!!ガキだよガキ!!蟹じゃねーよ!!」

小銃を突き付けた一体が俺に言う。
どうせ見逃すつもりは無い癖に良く言ったもんだ。
ひでぇ口臭に吐き気を催すが、とりあえず情報を引き出すために肩に置いた手を離し、小さく両手を挙げる。

「そのガキどうするつもりだ?」

「攫うのさ、地球人のガキは高く売れる」

「…テメェ等、奴隷商か」

俺の言葉に天人二人は笑った。
消えたガキ達は宇宙のどこかで見知らぬ天人共に売られてるってワケか。
天人共は一通り笑った後、袋と口枷と縄を取り出す。
小さなガキ一人は入る袋だ。

「奴隷商なんかと一緒にすんなよ。
俺らはビジネスマンさ。
地球人のガキは金持ちに人気なんだぜ?
覚えが良いから芸を教え込めば直ぐ覚えるし、ペットとして飼えばちゃんと懐く。
後、肉が美味いって言って買う顧客だっている。
俺らは数年に一回、こうして高級商品を調達してるんだよ」

そう言って、蟹を探すガキの肩を掴んだ。
ガキを攫ってどうしてるのか良く分かった。
分かったなら後は一つだけ。
軽く挙げていた右手を小銃を突き付けていた奴に思い切り振り抜いて岩場に叩きつける。
その音に気付いた一体がガキから手を離して此方へ振り向いた。
それと同時に今度は左手でソイツをぶん殴った。

「自己紹介どーも。
お前らはただの岩場の蟹な。覚えとくぜ」

岩場に蟹のようにめり込んだソイツ等を見届けて、ガキに怪我がないか聞けば元気よく頷く。
さっさと母ちゃんとこ帰んねえと怒られるぞ、と伝えれば探していた蟹をバケツに入れて嬉しそうに走って行った。
ちゃんと蟹見つけてんじゃねーか。
警察が来るまでコイツ等縛っておかねぇとな。
気がつけば少し野次馬が集まっていて、奥から新八と神楽が現れる。
岩場にめり込んだ天人二人組を見つめて何があったのか聞いてくる。
それに事情を説明すれば、新八が慌てて警察を呼びに海の家へ行った。
神楽が天人二人を見つめている。

「最近、かぶき町でも人攫いのせいで何処かのパピーとマミーが殺されてたネ。
全部、コイツ等のせいだったアルか?」

「…さあな」

奴等が持っていた縄で奴等を縛りながら、神楽の言葉に曖昧に返事をした。
野次馬が段々とばらけて行き、お妙と九兵衛と名前まで現れる。
お妙に同じように何があったのかと聞かれ「子供を狙う変態がいた」と答えれば「まあ怖い」と口を抑える。
"人攫い"という言葉に顔を真っ青にした名前を思い出す。
あんな顔した奴の前で言うのは避けるしかない。

明らかに名前は人攫いに関係してる。
天人に付けられたであろう目の絡繰、死んだ両親、そして天人による人攫いへの過剰反応。
こんだけありゃもうほぼ確定だろ。
恐らくコイツは数十年前の被害者だ。
その目の絡繰だって攫われた時の枷として付けられたに違いない。
だったらあの家族写真で目が見えてる状態だったのも頷ける。

ただ分からねえのが二つ。
今こうして地球に戻って来れてるということと、源外の爺さんの所で絡繰が外せないと分かった時のあの明るい笑顔だ。

一人で考えていれば
名前が心配そうな顔で俺に近寄ってきた。

「その子は、大丈夫でしたか?」

「あのガキなら俺が真横で変態とドンパチやってる間も気にせず蟹探してたからね。アイツ大物になるわ。
つーか俺のことも心配してくんない?」

「あっ!ご、ごめんなさい!坂田さんがご無事で何よりです!」

心配した顔が一気に慌てた顔に変わる。
どうやら人攫いだとは気付いていない。
それならいい。
慌てる名前の肩をぽんぽん叩いて「腹減ったから飯でも食おうぜ」と声をかける。
それに名前が笑顔で頷いた。
少し感傷に浸るウチの怪力娘にも声をかけて、海の家に行ったであろう新八を追いかける形で向かう。

段々と暑くなる日差しに目を細める。
太陽は真上に来ている。





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