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衝羽根朝顔




「どーも、姉さん」

「…あっ、えっと」

とある日。
苗字は店に常備しているお茶菓子が無くなってきたのでそれを買いに外に出た。
帰り道に店長にお団子でも買って帰ろうかとお団子屋の前でその香ばしい匂いを嗅いでいればそこでかかる声。
この人は警察の人だと直ぐに分かったが、名前が分からない。近藤が下の名前を呼んでいたのは覚えているのだが下の名前でいきなり呼んでも良いものかと苗字が悩んでいれば「沖田でさァ」とフォローが入った。
有り難いフォローに安心し「お久しぶりです沖田さん」と頭を下げる。

「買い物ですかィ?
そんな目で良く買い物なんてできやすね」

「お店までは地図が頭にありますし、買い物は店員さんに頼んだり特徴的なパッケージであれば自分で買えますよ」

「へぇ、器用なもんだ」

沖田が頭から爪先まで彼女を見る。
自分が今まで見たのは着物姿だけだったので按摩店の制服に身を包んだ彼女を物珍しそうに見つめる。
目が見えないのにどうやって按摩なんてするのだろうと少し疑問に思うが自分には分からない世界なので聞くのをやめた。
顔を少し近づけ覗き込んでみる。
苗字は前を向いたまま沖田が近付いた事に気付いていない。
試しに音を立てないように苗字の真横にゆっくりと移動してみた。
すると彼女は移動したのに気付いたように少しだけスペースを空けた。

「今の分かったんですかィ?とんでもねぇや」

「僅かですけど足音がしたので」

「そういやァ土方さんや万事屋の旦那には匂いで気付いてやしたけど、俺には無いんで?」

「沖田さんにですか?」

それに肯定の返事をすれば、彼女は少し沖田に近づいて匂いを嗅ぐ。
それを微動だにする事なくジッとしていれば、彼女はゆっくりと離れる。
そして首を傾げた。

「沖田さん凄いですね…ほぼ無臭です。
こんな方珍しいです」

「なるほど、じゃあ姉さんの寝首をいつでも狙えるって事ですかィ」

「私沖田さんに殺されるんですか?」

沖田の言葉にクスクスと笑う。
土方ならココで怒鳴り散らしてきそうなものだが苗字は笑う。
まあ一般人なのだから殺すと言われても実感など湧かないだろう。
笑い終わった苗字がそういえば、と沖田に向き合う。

「沖田さんは何故私を姉さんと?
名前教えてませんでしたっけ?」

突然の質問に目をぱちくりさせる沖田。
勿論名前は知っている。
入院した際に散々聞いた名前だ。

沖田は本能的に相手を見て対応を変える。
逆らってはいけない相手、近藤や近藤の好きな女にはそれなりの対応をするし、認めてる相手、銀時にもそれなりの呼び方をする。

沖田は黙ったままだ。
目の前の苗字が返事をしない沖田の名前を呼んだ。
それに沖田は「なんとなく」と返事を誤魔化した。
「なんとなくですか」と返ってきてそこで会話が終わった。
苗字は団子を買って帰る事を沖田に伝える。すると沖田はそれに付いて行く。
足音に気付いたのか振り向けば、沖田が我先にと団子を注文した。

「沖田さんも団子買うんですか?」

「姉さんの奢りで」

「いつのまに奢る展開に…」

そう言いながら苗字は苦笑して自分も団子を注文し、沖田の頼んだ団子の代金と合わせて支払う。
出来立てのみたらしを沖田が受け取り、外に備え付けられた椅子に座り食べ始める。
マイペースだなぁと思いながら苗字が自分の分の持ち帰り用の団子を待っていれば沖田が「姉さんこっち」と声をかける。
それに反応して近づけば、椅子をコンコンと叩く音。
ゆっくりと座りどうかしたのかと声をかけた。
沖田は何も言わない。
ジッと苗字の顔を見つめている。
それに彼女が気付く筈もなく、首を少し傾げれば、ふいに沖田が口を開いた。

「姉さんは激辛せんべえ好きですかィ?」

「そうですね…激辛の度合いにもよりますね」

「へえ、じゃあ今度俺のオススメのせんべえあげるんで、食べてくだせェ」

「いいんですか?ありがとうございます」

笑った苗字に沖田は何も言わず団子を食べる。団子屋から持ち帰り用の団子が出来たと声がかかる。それに反応して立ち上がり受け取りに行く苗字の背中を沖田はジッと見つめる。
最後の団子の串を手に取った瞬間、それを取り上げられた。
ボーッとしてた事に気付き、取った相手を見ればそこには銀時。
気配が無いのも無理は無い相手に沖田が軽く挨拶をした。
銀時はそれに何も答えず奪った団子を口に入れ、沖田の隣にどかりと座る。

「旦那、それ俺の」

「うるせーよ、高給取りの癖に庶民に団子奢らせてんじゃありません。
お前の団子は俺のもの。名前が奢った団子も俺のものなんだよ」

「すげェや。映画版でも輝けねェ強欲さでさァ」

苗字が団子を抱えて沖田の所に戻ってくる。
カツカツと杖を鳴らし、その杖が銀時の足に当たった。
それに慌てて謝った苗字に銀時が「よお」と声をかけると安心したように笑う。
二人が並んで座っているのに気付き「仲が良いんですか?」と声をかける。
沖田が「旦那は唯一無二の存在なんで」と言うと銀時がしばいた。
団子を持った彼女がその言葉を聞いて関心したように頷く。銀時は沖田の言葉を否定してゆっくりと立ち上がり、苗字の荷物を持った。
その当たり前のように行われた銀時の行動に沖田が少し目を剥く。

「旦那達はどういう関係なんで?」

「名前はウチの神楽のオトモダチで俺はその保護者」

きっぱりと言い切った銀時の言葉に沖田は何も言わない。
苗字が銀時の保護者発言に「いつも迷惑かけてすみません」と困ったように謝った。

「あと名前いつも御礼くれっから」

「旦那それただのタカリです」

「違いますぅ、まごう事なき名前の善意ですぅタカってません〜」

銀時は苗字から団子も預かり、それを買い物した袋の中に入れた。
少し重さを確かめるように持ちあげてから当たり前のようにスーパーの袋を自分が持って苗字に「けーるぞ」と声をかけた。
苗字が自分で持つと声をかけるが銀時はそれを軽くあしらう。
銀時がゆっくりと歩き始めるのが分かったのか苗字は慌てて沖田に頭を下げて挨拶をして銀時の後を追う。

「へえ」

沖田は面白そうにそう呟いて二人の後を追う。
あの銀時が一人の女にやたら優しい。
これは面白いことになりそうだと思いながら二人に追いついた。
苗字を挟むように歩く。
追いついた沖田を見て銀時が嫌そうな顔をした。
苗字は沖田が追いついた事に気付いたのか足音のする方へ顔を向ける。
沖田が軽く挨拶をすると彼女は「沖田さん」と少し驚いていた。

「沖田くぅん、何?
お前まさか苗字が買った団子まだ狙ってんの?俺と同じ考え?本数減るから帰ってくんない?」

「いやいや、俺はただマッサージをしてもらいたくて付いていくだけなんで。
旦那と違って俺は毎日忙しくて色々凝って仕方ないんでさァ」

「誰が暇人だ。今だって仕事してんだよ俺は。
大体お前が仕事してる所なんて見た事ないんだけど。
どこが凝るの?どこがカチカチなの?お前の心?」

「旦那は頭がクルクルなんで按摩じゃなくて美容院行ってくだせェ」

「誰の頭がクルクルパーマだ!!」

二人のやり取りを真ん中で楽しそうに聞いている苗字をよそに、そのまま言い合いを続け店の中に到着する。
一人で行ったはずの従業員が何故か男二人を連れて帰ってきた事に店長は少し驚いた様子で彼女に「おかえり」と声をかけた。
銀時が荷物を受付の店長に乱暴に渡す。
沖田が「姉さん、マッサージ頼みまさァ」と声をかければ苗字が返事をしながら準備をする。
銀時が袋から団子を取り出して店長に食べて良いか聞き始めた。
それに店長は頷いて銀時を近くに呼び寄せる。

「なんであの小僧がいるんだよ万事屋!」

「知らね」

「あの小僧はあの子怪我させた張本人だぞ!
どの面下げてこの店来てんだアイツ!」

「あの面」

団子をもちゃもちゃ食べながら店長の言葉に適当に返事をする銀時。
店長がハラハラしながら施術ベッドに向かう二人を見つめる。居ても立っても居られないのか銀時の頭をしばいて、様子を見てろと命令した。
銀時は依頼人である店長の言葉を無下にするわけにもいかず、団子を食べながら二人が見える位置にまで移動した。
何を心配する必要があるのか。
沖田はベッドに横になり苗字はマッサージを始めている。
二人は何か二言三言会話を交わすと何も言わなくなった。
どうやら沖田が眠ったらしい。
そういえば自分もあの時気絶するように寝たな、と一人思い出す。
沖田が寝たのを確認して、その場から受付へと足を運ぶ。
店長に沖田が寝た事を伝えれば「そうか、流石だな」と一安心していた。
そのままもう一本団子を取れば、店長が再び小声で声をかける。

「…なあ、万事屋。
依頼してる俺が言うのもなんだが…
あの子と関わるのは、ほどほどにしてくれよ」

「…どういう意味?」

「どういう意味もこういう意味もねえわな。
程よい距離を保ってくれって言ってんだ。
お前さん等の破茶滅茶な馬鹿具合にあの子は先ず付いていけねえ。
あの目だぞ。あの兄ちゃんがさせた怪我を何回もしたらどうする。
あの子には平凡が一番合ってんだ」

店長の言葉に銀時は何も言わない。
あんな子鹿が自分等のようなゴリラに巻き込まれたらひとたまりもない事は分かってはいるが、どことなく引っかかるその物言い。
銀時は団子の串を咥えたままそれを揺らした。

暫くして施術ベッドから彼女が現れる。
ゆっくりと裏に向かって、毛布を取り出してきた。
そしてそれを持って再び施術ベッドに向かう。
それを銀時は何気無しに覗きに行く。
横たわる沖田に優しく布団をかける苗字が目に入る。
時がゆっくり流れているように穏やかだと感じた。
銀時がそれを暫く見つめて、せっかくだし沖田の寝顔でも見てやろうと少し近寄った。
瞬間、ベッドの人物が勢いよく起き上がって銀時に刀を向けた。それに銀時が木刀で瞬時にいなしながら叫び声をあげる。

「ちょっ、おまっなにしてんだ!!!?
いきなり斬りかかってくるって何!?お前は何処の抜刀斎!?」

「なんでェ、旦那ですかィ。
俺の後ろに立たねえでくだせェ」

「抜刀斎どころかゴルゴなんですけど!!」

沖田の横で毛布をかけていた苗字が何が起きたのか分からないと言わんばかりに目を丸くさせている。
金属音に驚いてベッドまでやってきた店長の叫び声が店の外まで響いた。




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