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藤空木




「人攫い?」


真選組屯所。
縁側で休憩中だった近藤が資料を見る土方の言葉を聞き返す。
土方はそれに頷いた。

「数十年前に同様の手口で数件起きてたんだが、最近また報告されはじめてる」

「ふぅむ…被害者は?」

「全員子供だ。
3歳から12歳まで。
変態の仕業か人身売買か…」

「そんな子供がか…」

近藤が辛そうに少し顔を歪める。
土方は手に持っていた資料を近藤に渡す。
受け取ったそれを読みはじめ、また少し顔を歪める。
それを見て土方はタバコを吸い始めた。


「へえ、子供だけ攫って両親は惨殺ですかィ。
通りで通報が遅いわけでさァ」


後ろにいつのまにかいた総悟が近藤の見ている資料を盗み見している。
頭に付けられたアイマスクを見て土方は眉間にシワがよった。
どうやら総悟は仕事をサボっていたようだ。
総悟の言う通りで、子供の両親は大体が殺されている。子供を攫う前に首を掻き切り、そして念の為と言わんばかりに複数回腹部を刺している。
明らかなオーバーキルだ。
中には子供だけ攫われているという報告もあるが、大半は夜中家に忍び込み親を殺してから攫うというものが殆ど。
犯行は慣れたものから突発的に行われたであろうものまで幅広い。
ただ慣れた方に関しては明らかに犯行の手口が成長しているのが分かる。
資料には最近人攫いにあった子供の名前などが書かれているが数十年前の事は書かれていない。
その資料を近藤が問えば土方は首を横に振った。

「どいつかは知らねえが資料にコーヒーこぼしてやがって一部しか読めやしねぇ、見つけ次第切腹だ」

近藤は資料を見てそれを土方に渡す。
そして眉間に皺を寄せ庭を見つめた。
子供が誘拐された時のタイムリミットは24時間だと言われている。
約7割がその24時間内に殺されてしまう。

犯人が何を目的として子供を攫っているのかは分からないが、警察としてそんな悪党を見過ごす訳にはいかない。
ましてや被害者は幼い子供。

近藤は気を引き締めて立ち上がった。







「人攫いねえ」

「ホームレスの間でも噂になってるぜ、最近また人攫いが起きはじめたってよ。
子供が標的らしいぜ」

公園のベンチで、銀時と長谷川がチューペットを咥えながら話す。
ホームレスだからか町の情報に強い長谷川が暑そうに手で顔を扇ぎながら銀時に教える。
犯人の目星は?と銀時が聞けば長谷川は首を横に振った。

「昔は辻斬りみてぇに場所も時間も見境いなかったんだけど、それなりに大きな事件になったからか手口を変えたみてぇでさぁ」

「それで家に忍び込んで…ってことか」

「そういやぁ昔、良く地球人の子供を荷物に紛れ込ませて出国しようとする天人がいたなぁ」

「いやもうそれじゃねーか。犯人捕まってんじゃねーか」

「いやそれが捕まえられないんだよ銀さん」

長谷川の言葉に銀時が咥えたチューペットを口から離す。
それを近場のゴミ箱に投げ入れ、長谷川の言葉を待った。
長谷川は当時の事を思い出すため若干上を向きながら話し始める。

「その星と地球とでは、犯罪者を地球で裁く条約が結ばれてなかったとかで、その子供を誘拐した犯人は自分の星に帰っちまった」

「オイオイ、何やってんだよ犯罪者野放しか?国民の税金で飯食ってんだからちゃんとしてくれよ」

「まあそこは入国管理局にいた俺の出番だって!
裁けなくてもそういう事をした天人はブラックリストに入れて入国禁止にはしてるから同じ犯罪は起きない筈…なんだけどなあ…」

「起きてるな。
長谷川さんの努力は無駄だったってワケだ」

長谷川が抗議するがそれを無視して銀時は何か考える。
礼を言って立ち上がり、長谷川に手を振って公園を後にする。

子供を誘拐。
神楽はギリギリ大丈夫かどうかという所だが、むしろ人攫いの方がかわいそうな目に合うだろうな、と銀時は歩きながら考える。
世の中物騒になったものだと暑い中かぶき町を歩く。
すると、とある電気屋から苗字が出て来るのが見えた。
にこやかに店の店長と話している。
店長が腰を抑えているところからまた出張で按摩でもしたのだろう。
その実力を知っている銀時が何気無く自分の腰を撫でた。
苗字は杖を鳴らしながらゆっくりと此方に向かってくる。
仕事の途中なら話しかけるのはやめておこうとそのまま彼女の隣を通りすぎる。

「あ、こんにちは、坂田さん」

「名前ちゃんさぁ、忍者にでも転職したらどう?」

「?いきなり何故転職の話を?」

恐らく、自分の匂いと足音で判断したのであろうと銀時は腕をあげて匂いを確認する。
話しかけられたなら対応しないワケにもいかず、何故引き止めたのか聞けば目の前の彼女は朗らかに笑う。
そしてゴソゴソと何か取り出して銀時にそれを差し出す。
それを受け取り、目を剥く。
まさかの焼肉一万円分無料券。
「マジで!?」と銀時から思わず声が出たのを苗字はにこやかに見つめた。

「先日、真選組まで迎えに来てくださってそのまま泊めてくださったから、その御礼です」

「え?いいの?マジで?貰っちゃうよ?遠慮なく貰っちゃうよ?」

「どうぞどうぞ、私も実はこれ按摩した方からの貰い物なんです。
店長と私で一万円分はキツイので…。
万事屋の皆さんで行ってきてください」

マジで名前と知り合って良かったと心の底から思った銀時は改めて礼を言って無料券を懐にしまう。
音でそれが分かった名前は再び朗らかに笑って頭を下げてその場を後にする。
銀時はそれに付いて行く。
足音でついて来ているのに気付いたのか顔をあげて音のする方を見つめている。
その顔を見つめ返しながら銀時は彼女の言葉を待った。

「??坂田さん?」

「そうです、坂田さんです」

「どうして一緒に…?万事屋は逆ですよね…?
あ、こっちにパチンコ店があるからですか?また玉の出方教えましょうか?」

「教えて欲しいけど遠慮しとくわ。
今は焼肉で頭いっぱいだから」

「そうなんですね、喜んでもらえて良かったです」

銀時の言葉に嬉しそうに笑う。
そのまま杖を鳴らし暫く歩く。
彼女は結局何故付いて来ているのか答えが貰えていない事に気付き、ハッとして再び銀時の方を見つめた。
一人で忙しいな、と思いながら銀時は彼女の言葉を待つ。
此方に用事でもあるのかと聞かれた銀時は頭を一つかいた。

「目の弱い子鹿がこのジャングルの中一人で歩くなんて自殺行為だろーが。
送り届けてやるからまた何か御礼ちょーだい」

「?、今まで一人で歩けているんですが…」

「どーにも最近人攫いが流行ってるらしいぜ?
まあ標的はガキらしいが名前も手のかかるガキみたいなもんだし大差ねーだろ」

その言葉に苗字が立ち止まった。
いきなり立ち止まった彼女に失礼な事言ったから怒ったのかと不安になった銀時が「おい?」と声をかけ振り返った。

彼女の顔が青ざめている。
その様子に銀時は顔色を変えて彼女に近寄る。
彼女は青ざめたまま動かず、見えない筈の目を忙しなく動かしている。
何がどうしてこうなったか分からず肩に触る。
肩に触った事への反応さえなく、慌てて彼女を揺らして名前を呼ぶ。
すると彼女がハッと意識を戻す。

「おい、どうした?
壊れた人形みたいにいきなり固まるんじゃねーよ。びっくりすんだろーが」

「す、すみません、熱中症ですかね?
少し眩暈がしてしまって」

未だに少し青ざめたままの彼女の肩は少し震えている。
熱中症ならそういう場合もあるが、コレは違うだろうと銀時は察する。
先程まで涼しい場所にいた女が突然熱中症になるなんて中々ない。
けど本人が隠す以上詮索も出来ない。
銀時は肩から手を離し、自分の着流しの袖の部分を彼女の頭に被せた。
頭に何か乗った事に気付いた苗字が目を数回瞬かせた。

「帽子とか水分補給しっかりしねーと干からびてお前んとこのジジイみたいになんぞ」

「!、店長干からびてるんですか?」

「あたりめみたいになってっからね。噛んでも味はしねーだろうけど」

その言葉に銀時の真下にいる彼女は面白そうに笑う。そして頭に乗っているものが何かを手で確かめる。
それが何か気付くと嬉しそうに笑った。
どうやら落ち着いたようで銀時も一つ胸を撫で下ろす。
このまま帰れば店長にまた背中を折られるのが確定していたのでヒヤヒヤしていた。
苗字は顔にかかる頭に乗った着流しの袖を少し掴んで顔にかからないように袖を捲る。
どうしても顔にかかってしまうが仕方がない、と銀時がそれを見つめる。
彼女はお礼を言って着流しの袖をゆっくり頭から外した。

「おかげさまで、落ち着きました」

「俺の匂いで?」

からかうように言った言葉に彼女が少し目を見開いた。
そして「バレてましたか?」と恥ずかしそうに笑う。
銀時はそれを見て暫く黙り、溜息をついて頭をかいた。

(とんでもない口説き文句って分かってんのかね)

彼女は積極的な女というワケでもない。
女の純粋な気持ちからの言葉に銀時はそこまで耐性があるわけでもない。
黙りっぱなしの銀時に彼女が名前を呼ぶ。
銀時は気を取り直して、「はいはい、坂田さんですよ」と言って彼女の手を掴み自分の腕に誘導した。
彼女が慣れている筈の道。
腕を掴まずとも大丈夫だと彼女は言えずそのまま銀時に付いて行く。

銀時の腕がいつもより少しだけ暑かった。



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