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紅吊舟




「"友達の家に泊まる"スタンプぺたー」

「えっと神楽ちゃんあのですね」

「これでスタンプがまた一個埋まったアル!」

「いや、それはとても嬉しいんですけど、ちょっと急すぎるというか坂田さんにもご迷惑ですし」

「別に銀ちゃん嫌がってないアルよ。
ねー!銀ちゃん!」

「臭っ!客用布団なんか臭っ」

時間にして22:00。
警察帰り。
苗字は何故か万事屋にいる。
帰り道、彼女を家まで送り届けようとしたが神楽が「今日怖い思いしたしウチにお泊りしたら良いネ」といきなり言い出した。
それにたまと新八は賛同。
「布団干してねーんだけど」と銀時。
苗字は首を横に振り遠慮した。
一度言い出した神楽を止めるのは中々難しく、抵抗むなしくそのまま万事屋に直行。
そして荷物からスタンプカードを取り出され神楽に名前を書かれているのが今の状況。
帰るという苗字の言葉に神楽が却下をした。
苗字は突然人様の家に手土産も無しに泊まるのは失礼だという理由からか一人申し訳なさそうに神楽に抗議している。
その傍らで新八がお客様布団を取り出し、銀時がそれの匂いを嗅いで鼻を抑えた。

「最近僕もここに泊まってなかったから、この布団全然干せてませんもんね。
仕方ない。
せめて消臭除菌スプレーでもかけて…」

「新八様、お登勢様のところから布団乾燥機をお借りしてきました」

「助かります!ありがとうございますたまさん」

銀時の横でいつの間にか現れたたま。
布団乾燥機を使い、せめて布団のダニを飛ばす。
その音を聞いたのか苗字が申し訳なさそうに寝室を覗き込んだ。
それにたまが気付き、苗字に近づく。

「苗字様何かお腹に入れては如何でしょう?
実は今夜、お登勢様からお店の余りモノをいただきましたのでお裾分けに行かせていただいておりました。
苗字様がお帰りになられていなかったのには少し驚きましたが」

「そうだったんですか…!?すみませんご足労をおかけしました…!」


苗字が頭を下げて謝罪すれば何か思い付く。
自分の手荷物の方へ行き、今日買ったオイルを取り出した。そしてそれをたまに渡す。
たまはそれを受け取り首を傾げた。
オイルの理由を話せばたまが少し微笑み御礼を言う。
その光景を新八が微笑ましく見つめ、そして立ち上がる。

「じゃあ、僕今日は帰りますね。
苗字さん、布団多分ちょっと臭いかもしれないです…本当すみません」

「いや、そんな!
というか今から志村さん帰るんですか!?
危ないですよ、送ります!」

「苗字さんそれ本末転倒しちゃってますから。落ち着いてください。
神楽ちゃんはともかく銀さんも家に泊まって良いって言ってますし、そんな堅くならずに泊まっていってください。
布団ももう用意しちゃいましたし」

新八のその言葉に苗字が言葉に詰まる。
そして少しの無言のあと「お世話になります」と全員に頭を下げた。
それに新八は安心したように笑い、玄関へ向かう。
苗字がそれに杖を鳴らしながら付いていく。
新八が草履を履き終わり、玄関の扉を開ければ苗字も無言で付いてきた。

「!、苗字さん、もうここで大丈夫ですから」

「い、今…夜遅いですよね、志村さん一人で何かあったらと思うと」

「大丈夫ですよ!このくらいの時間帯に良く帰っているので。
じゃ、僕帰りますね。また明日朝に来ます!」

新八が軽快に階段を降りていく、ふと上を見ると苗字が心配そうに階段の上にいた。
最初出会った時と逆になっている、と新八は苦笑する。彼女の事は家にいる人たちがいるから大丈夫だろうと、そのまま万事屋を後にした。
新八の階段を降りる音が聞こえなくなる。
するとそれを見ていたたまが声をかけた。
どうやらご飯を用意してくれたようで、それに苗字は御礼を言う。
たまに手を握られ部屋に戻り、居間のソファに座る。
居間では煮物とご飯があり、向かいのソファに座る神楽がそれを少し拝借して食べている。
苗字もせっかく用意してくれたものに手をつけないのは失礼だと思い手を合わせて食べ始める。

「では私はこれで。
残りの煮物は冷蔵庫にございますので。
名前様、オイルありがとうございました。
ありがたく頂戴いたしますね」

たまが一つお辞儀をすれば苗字は笑う。
「こちらこそ」と彼女が御礼を言えば、たまは嬉しそうに微笑んで万事屋を後にした。
「この煮物なかなか美味いアル」と神楽が皿から摘み食いするのを苗字は耳にする。
それに笑いながら神楽と煮物を半分こし、ご飯を平らげた。
せめてお皿を洗おうと神楽に炊事場まで案内してもらい、スポンジや蛇口の場所を教えてもらいながら洗い、食器を片付ける。
そういえば、と先程から銀時が居ないことに気付き苗字が音を探る。
何処からか水が流れる音がする。
恐らくお風呂に入っているのだろう。
そこで気付く。

「お風呂はともかく…歯磨きはしないと」

「あ、ウチ今予備の歯ブラシないアル」

「じゃあコンビニまで買いに行ってきますね」

「何言ってるアルか!
名前は今日コンビニで酷い目にあったネ!
トラウマになってるところにワザワザ行く必要ないヨ!
行くなら私が行くアル!」

神楽のその言葉に名前はじゃあ一緒にと提案するが神楽は駄目の一言。
それを暫く続けるが神楽は折れず。
しかし苗字も子供である神楽を夜歩かせたくない一心で折れず。
そこに銀時が風呂から出て来る。
甚兵衛姿で頭をタオルで拭きつつ二人の会話を見ながら冷蔵庫へ向かった。
そして戻ってきた手にはイチゴ牛乳と新品の歯ブラシ。
それを苗字に渡し、隣に座った。

「あ、新品!予備あったアルか銀ちゃん!」

「なんか買い物したときオマケに付いてきたやつだけどな」

「いただいて良いんですか?」

「え?なに?金くれるなら貰うけど?」

「がめつい野郎ネ、タダなら普通にやれヨ」

神楽のその言葉に銀時は「いいから風呂いってきなさい」と告げると、神楽は渋々立ち上がり風呂場へ向かった。
銀時はイチゴ牛乳のパックをラッパ飲みすると、机にそれを置く。
苗字はその音を隣で聞いている。

「お前も風呂入った方が良いんじゃねーの?」

「!いえ、替えのものが無いので」

「ほれ」

銀時のふいの言葉に遠慮すれば、今度はまた新しく何かが手渡される。
苗字が手探りでそれがなにか確かめる。
何かジップロックのようなものに入った新品のなにか。
正体がまだわからないのを悟った銀時がそれを手から拝借し、ビリッと破り中味を取り出してそれを再び渡す。
苗字はそれを再び確かめる。

「!、男性用の下着ですか?」

「当たり〜。
新品ボクサーパンツやるわ。
俺トランクス派だから。
あ、甚兵衛も着る?
その着物ままってのも堅苦しいだろ?」

遠慮の言葉が出ない。
苗字は正直、着物を脱ぎたいし、身体を洗いたくて仕方がなかった。
このままでいると、あの男の感触がまだあるようで身体が緊張しっぱなしなのだ。
銀時はボクサーパンツを握ったまま言葉を探す苗字をじっと見つめる。
彼女の言葉をじっと待つ。
目の前の彼女は暫く悩んだ後、意を決したように銀時の方を見つめた。

「おかり、して、いいですか?」

「へいへい」

銀時はそう言って立ち上がり、自分の甚兵衛をもう一枚持ってきた。
それを彼女に渡す。
彼女は笑顔で銀時に御礼を言った。
今日コンビニで起きた内容から風呂には入りたい筈だと銀時は何処と無く察していた。
それでも彼女なら遠慮しそうなものだが、借りると言ってきたあたり余程気持ち悪かったのだろう。
苗字は渡された甚兵衛を丁寧に畳んでいる。
銀時はそれをじっと見つめる。
綺麗に畳んだそれを見て見えないのに器用なモンだと感心した。

「この甚兵衛、もしかして坂田さんのですか?」

「え、嫌だった?嫌だった感じ?」

「いいえ、落ち着く匂いだったのでそうなのかなぁと」

「…名前ちゃんさぁ、そういうの下手な男の前で言っちゃ駄目ですからね」

銀時が真顔でそう言えば「すみません、匂い関係のことまた言ってしまいました」と彼女が謝った。
いやそうじゃない、と銀時は口に出そうになるがそれを飲み込む。
この娘、これを純粋な気持ちで言っているのだから恐ろしい。
どんな育ち方をすればこの汚い町でこんな純粋な娘が育つんだと疑問しか浮かばない。
下手な場末のバーで言えばタダの口説き文句でしかない。
似たようなことを言われたのは今回2回目。
まあ心を許してくれているという意味だろうと銀時はソファに背中を預けた。

実は以前、彼女を利用してパチンコ店に行った次の日あたり。
銀時は個別に按摩店の親父に「彼女を気にかけてやってくれ」と月12万で依頼を受けた。
何故たかが店長であるジジイが一従業員である彼女をそこまで気にかけるのかは分からないが、それ以来彼女の事を気にかけて何かあれば様子を見に行ったりするようになった。
なんかジジイの掌の上な気がするが、金がもらえるなら何でもやるのが万事屋だ。
文句は言うまい。

「名前って人の顔とか分かんの?」

「なんとなくは。顔を触って形や位置を確かめたりします」

「ふうん、じゃあ俺も触ったらわかるわけ?」

「!触らせてくださるんですか?」

顔が何故か一気に綻ぶ。
それに少し銀時はたじろいだ。
その勢いに負けて「え、う、うん、まあいいけど」と思わず答える。
曰く、人と話す時、顔が分かると表情が想像しやすくなるらしい。
苗字は立ち上がり、台所に向かう。杖をもたずに行くからか身体を壁にぶつけたりしている。
そして少し経って再び戻る。
どうやら手を洗ってきたらしい。
いやもう顔触らせるしかねーなと銀時が面倒臭そうに頭を一つかいて顔を少し近づけた。
苗字が恐る恐る手を出し、顔との距離感をゆっくり詰めている。
それがまどろっこしく、銀時は手を掴んで自分の頬に誘導した。

苗字はそのまま銀時の顔を触っていく。
ゆるりと頬を撫で、頬骨を確かめ、鼻を触り、眉を触りそして唇を撫でる。
優しく行われるそれに銀時は直ぐに後悔した。

(あっこれ駄目なやつ
コイツが按摩師なの忘れてた!
すっげーエロい気持ちになるやつ!!!!)

苗字が按摩師だからか、その触り方に首の後ろから背中にかけてゾワゾワとする。
銀時は、如何にこれを早く終わらせるかに思考をシフトチェンジした。
葛藤する銀時を余所に真剣な顔で銀時の顔をじっと見つめながら触り続ける苗字。
銀時はグッと表情筋を抑え堪えるしか出来ない。
苗字が頭を撫ではじめた。
嬉しそうに顔を綻ばせる。

「すごいふわふわですね!」

「誰の頭がふわふわパーマだ!」

「パーマ…たしかに、パーマですね!
ずっと触っていたくなります、素敵です」

「いやずっとはやめてくんない!?
ほんと今銀さん必死だからね!?
こういうのご無沙汰だったから!めちゃくちゃ敏感になってるから!
耳やめてぇ!やめてください!お願いします!!!」

その言葉に苗字が手を離す。
銀時が手で顔を抑えた。
そんな姿が見えるワケもない苗字は嬉しそうに微笑んでいる。

「坂田さん、少し気怠げでかっこいいお顔立ちだったんですね。これでお話しするときお顔が想像出来ます」

「たたみかけるのやめてくんない!?
ほんとっ、もっ、純粋って罪だわ!なんも言えねーもの!俺が男前なのは認めるけど!!!」

「す、すみません?」

苗字は申し訳なさそうに笑う。
銀時は顔を隠してた手をゆっくり外し、眉間に皺を寄せた顔で目の前の女を見つめた。
銀時は瞬きを一回。
苗字の真後ろに、天井から逆さまにぶら下がる怒りに顔を歪めた眼鏡の女。

「………………」

銀時はそれを見て、苗字の肩を抱いて少し自分の方に引き寄せてから、目の前にいる女の眼鏡越しに目潰しをした。
女の叫び声が響く。
その声に苗字が身体を思い切り跳ねさせた。

「大丈夫。ただのゴキブリだから」

「銀さん!!!!!その女誰よ!!!!私というものがありながら!!!!」

「ゴキブリはゴキブリでも人型の化け物の方だったわ」

目潰しされながらも起き上がった女忍者、猿飛あやめが目から血を流しながら銀時に詰め寄る。
いきなり現れた人間に苗字はびっくりしたまま動けない。銀時が彼女の肩を抱いたままの姿に猿飛が何かに気づく。

「なるほどコレはそういうプレイね!?
NTRね!!?流石は銀さんだわ!いいじゃないノッてやろうじゃない悪くないじゃない!
私が銀さん以外の男に抱かれるつもりは一切ないのを見越して自分が別の女に手を出してるのね!?私がヤキモキする姿を見て楽しみたいのね!?」

「いやもうそれただの浮気だよね」

「目が悪い女を選んでる辺り流石銀さんね!!
ほかの女といても私という存在を忘れられない証拠だわ!!」

「いやお前の事忘れてるから他の女といるんだけど」

銀時の腕の中で状況が一切飲み込めない苗字は二人の会話を聞くことしか出来ない。
どうやら銀時といきなり現れた女性はそういう仲らしいというのが何となく分かり、サーっと血の気が引いていき、慌てて苗字が銀時の腕から離れる。
そして慌てて銀時と言い合いする猿飛に謝った。
その謝罪に二人の会話が止まる。


「あ、あの私今日変質者に会いまして、万事屋さんのお宅に居るのも、このまま一人家に居るのは怖いだろうと神楽ちゃんに誘っていただいたからで。あ、あと、先程坂田さんのお顔を触ってたのは私が目が弱いのでご厚意でどんな顔かを確認させていただいてまして。
つまり何が言いたいかと言いますと、私と坂田さんはそんな関係ではなくてですね。本当つい最近知り合って」

「名前、それ銀ちゃんのストーカーアルよ」


苗字の謝罪に風呂からでた神楽が一閃。
その言葉に謝罪が止まる。
神楽が三人に近付き、苗字を立たせる。
そしてソファに置いてあった甚兵衛とボクサーパンツを見つけ、それを拾い上げそのまま苗字を風呂場に連れて行った。
「す、ストーカーってなんですか!?」と時間差で驚いた声を出す苗字の声が響いた。
銀時が風呂場の方を見つめていると猿飛が銀時の胸元へ擦り寄ってくる。
それを見た銀時は「とっとと帰ってくんない?」と告げて再び猿飛の目を潰した。




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