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大霍香薊





仕事帰り。
買うものがあったため、店員さんに商品を持って来てもらうように頼む。
最近はたまさんが週二、三回は私の生活の補助をしに来てくれるようになった。
とても有難い反面、申し訳なさすぎて御礼をするためにお登勢さんに聞いてたまさんの好きなオイルを買う事にした。
そのオイルを買うために今ホームセンターに来ている。
万事屋さんもお世話になりっぱなしなのでお金を渡そうとしたが「いや、貰った」と言われた。覚えが一切ないのでまた持って行かなくては。
快く引き受けてくれた店員さんをレジの横で待つ。


「………あ」


男性の声がする。
買い忘れか何かだろうか。
私も良くあるから気を付けないとと思いほかに買うものは本当にないか改めて頭の中で思い出す。


「…耳は治ったのか?」

「!えっ!?」


耳という単語にビックリして勢い良く振り向けば「うおっ!?」と相手も驚く声。
それに思わず謝れば、相手からタバコとマヨネーズの匂いがした。
直ぐにだれか分かり「警察の方!」と声をかければ「そういやぁ名乗ってなかったか…」と少し反省する声色。

「真選組副長、土方十四郎だ。
先日は部下が無礼を働いた」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。
おかげさまで耳も良くなりましたので、お気になさらず」

掌での口調とは全然違うそれに思わず笑ってしまう。
普段喋る時はこういう喋りなのか、声も喋り方も覚えておこう。
笑う私に咳払いを一つされ、思わず顔を引き締める。
今日は一人なのだろうか、それを聞けば肯定の返事。
どうやら今日は非番らしく、屯所にある蔵の扉の滑りが悪いのでそこに挿す油を買いに来たようだ。

「アンタこそホームセンターに何の用だ?」

「私はお世話になってる方にオイルを。
どうやらオイルがお好きなようなので」

「飲むの?そいつオイル飲むのか?」

相手は絡繰だと言えば土方さんはなんだと力を抜いた。
そして会計してくると言ってその場を後にする。私はそれに頭を下げて挨拶をし、店員さんを待った。
「お待たせしました!」の声とともにやってきた店員さんに御礼を言って会計を済ます。
袋に入れ、明日にでも渡しに行こうと杖を鳴らし入り口まで向かう。
自動ドアが開けばムアッとくる熱気。
今日も暑いと思いながら、つばの広い帽子を被り家までの一歩を踏み出した。









(どうしよう)

困った事になった。
今コンビニで商品棚を見ているのだが、非常に困った事になった。
ホームセンターから誰かがずっと付いてきている。
最初こそ気のせいだと思った。
しかし同じ足音がずっと聴こえて少し不安になり、コンビニの音が聞こえたところで慌てて入ったのだがどうやら後ろの相手も付いてきているらしい。
不安が確信に変わる。
今も少し歩けば私に付かず離れずの距離で付いてきているのが足音でわかる。
店員さんに助けを求めるため、適当な商品を持ってレジへ進む。
目の前から足音。
男の人の息遣いが目の前から聞こえる。知らない人だ。
この人だ、と瞬時に悟りなるべく慌てないように横を向いてしゃがみこみ商品棚を見るフリをする。
道を阻まれてレジまで辿り着けない。
きっと道を変えても阻まれてしまう。
どうしよう。
電話、店長は足が悪い。
そうだ神楽ちゃんに電話しようか。
いや無理だ、今日は依頼が入っていると言っていた。
たまさん、たまさんに電話しよう。
しゃがんだまま少し震える手でスマホを取り出した。
するとその手を掴まれた。
上擦った声が出る。

「……誰か呼ぶ気だな?」

「は、はなして」

「だまれ」

小声で知り合いのように私の隣にしゃがみ込んでくる。
口を手で塞がれた。
男は私のスマホを取り上げた。
そして腕を掴んで無理やり立たせる。
私の手から商品を奪い、適当に商品棚へ押し込んだ音が聞こえた。
そしてどこかへ誘導しようとしている。
それに足を踏ん張って抗うが抵抗虚しくそのまま引っ張られる。
叫びたくても叫べない状況。

「すみません、妻が吐きそうなんでおトイレお借りします」

それに背筋が凍る。
私をトイレに連れて行くのが分かった。
店員さんに分かってもらうように暴れるが抑え込まれ微動だにしない。
涙が溢れる。
怖くて怖くてたまらない。
ドアが開く音がしてその中に押し込まれる。
勢いで頭を打った。
そして便座に無理矢理座らされ、服の間から手を差し込まれる。

「大丈夫、直ぐに終わるからよ」

「テメェの人生がな」

聞こえるはずのないもう一つの声に、私は耳を疑う。
そして何かを殴った音とドアが壊れた音。
もう一つの声が誰か分かった私はそちらをジッと見つめる。

「17:35分。
婦女暴行及び強姦未遂で現行犯逮捕」

土方さんの声。
知った相手の声と匂い。
「山崎、強姦魔捕まえたから迎えに来い」と何処かに電話している。
そして私に近寄ってきた。

「悪いな、暫くぶち込んでおくためには泳がせておく必要があった」

「は、い、はい」

「…立てねぇなら手ぇ貸すが、いるか?」

それに数回頷けば土方さんがゆっくり手を掴む。そして立たせようとするが、足に力が入らない。腰が抜けている。
それに気づいた土方さんは再び便座に座らせ、代わりに伸びている男を別のところに引きずっていく。
気を遣ってくれているのが分かった。
数分して、足音がして再びトイレに戻ってきてくれる。
そして何も言わず側に立つ。
それがとてもありがたかった。
暫くそのままでいれば「副長!」と知らない人の声。
側にいた土方さんが少し動くのが分かった。

「変態はバックヤードで縛ってある、連行しろ。パトカー二台で来ただろーな」

「はい、勿論です。
じゃあちょっとバックヤード行って来ます」

バタバタと足音が消えて、再び土方さんと二人になった。
もうそろそろ立てるだろうかと杖を手探りで探し掴む。
ゆっくり立ち上がれば土方さんが「いけるか?」と声をかけた。
それに頷けば「事情聴取のために屯所まで来てくれ」と足でドアの破片を蹴っている音が聞こえた。
私が危なくないように道を作ってくれているのが分かる。本当に気をつかわせてしまって申し訳ない。
土方さんの足音と匂いについて行く。
比較的ゆっくり歩いてくれているのか、あまり力が戻ってない足でも付いて行けた。
パトカーのドアを開ける音が聞こえ「入れ」と言われたので手探りでパトカーに触り入っていく。乗り込めば土方さんが私の荷物も一緒に置いてくれる。
御礼を言えば土方さんが助手席に乗る。
運転席の人を待つようだ。
ふと、何故土方さんがコンビニに居たのか気になった。
それを聞いてみる。

「そもそも俺が先にコンビニに居たんだよ。
そこにお前が焦った顔で店に来た。
それだけの話だ」

「そう、ですか。
土方さんが居なかったら今頃どうなってたか…ありがとうございます」

御礼を言えば運転席に人が乗り込んだ。
「山崎、さっさと出せ」と土方さんが言えば車が出発する。
手探りでパトカーの窓を触る。
僅かに感じる光を見つめる。









事情聴取は一部始終俺が見ていたこともあって早めに終わる。時間は21:12。もう夜だ。
目の前の女は少し力なく笑いながら此方に礼を言って立ち上がった。
事情聴取の内容を書き取っていた山崎が慌てて荷物を持ってくる。
女は礼を言ってそれを受け取った。

「あの、すみません、ここの住所を教えていただけませんか?
場所が分からないので帰りようがなくて」

「!、あー…そうだったな、いや、良い。
パトカー回してやる」

「えっそんな良いです」

迎えを呼ぼうにもコイツに頼れる身内がいない事は入院した際に調査済みだ。
本当ならパトカーで家に送るなんて事はしないが時間が時間だし、夜のかぶき町なんざコイツは格好の獲物だ。
ライオンの群れに子鹿が飛び込んでいくようなもんだろう。
何かあって警察の事情聴取の帰りと報道なんざされたらコッチに矢面がたつ。
遠慮する女の意見を無視して山崎にパトカーを回すように伝えればバタバタと走っていく。
玄関まで行くぞと声をかければ、女は申し訳なさそうに杖を鳴らしはじめた。
壁に手を添え、伝いながら歩いていく。
取り調べ室に行く時もそうだったが、病み上がりだから歩くのが遅く感じる。
廊下に出ると、向かいから近藤さんと総悟がやってくる。
二人とも俺の隣にいる女に少し目を丸くした。

「これはこれは!苗字さん!
お久しぶりです、近藤です!あれから耳の具合は如何ですかな?」

「!、近藤さん…!あの時はお見舞いに来てくださりありがとうございました。おかげさまで耳の調子も良いです」

「それは良かった!しかし何故また男所帯のこんなむさ苦しい所に?」

近藤さんの純粋な疑問に俺が軽く答えた。
女は気まずそうに笑うが、近藤さんは眉間に皺を寄せ眉を吊り上げる。
総悟は一切表情が変わらない。

「けしからんな!
こんなか弱い娘さんに暴行を働く男がいるとは!」

「でも土方さんが助けてくださったので。
本当にありがとうございます」

そう笑顔でいう女の言葉に近藤さんが満足そうに頷く。「トシは頼りになる男ですから!」と俺を褒める。やめてくれ、小っ恥ずかしい。
タバコに火を付けて吸う。
すると総悟が女の顔を覗き込む。
コイツ何回同じ事してんだ。
女は総悟に気付いていない。
俺や万事屋や近藤さんには匂いで反応していたが、どうやら総悟には特徴的な匂いがねぇようだ。

「姉さん、また事件に巻き込まれたんですかィ?ほんとどんくせェや」

「こ、こら!総悟、その言い方は失礼だろう!苗字さんは巻き込まれたくて巻き込まれた訳じゃないんだぞ!」

「すみません、もう一人誰か居たんですね、はじめまして苗字名前です」

「はじめましてじゃありやせんぜ」

総悟の言葉に女がどういう事だと訳が分からない顔をしている。
そりゃそうだ、女が総悟に会ったのはまだ耳がまともに聞こえてねえ時だ。
匂いも分からねえ、声も分からねえとなれば誰か分からないのも無理はない。
女に助け船を出す。
そうすれば「ああ!あの質問された方!」と変な覚え方をしていた。
質問された方ってなんだ。

「で。姉さん、耳も目も聞こえないってどんな惨めな気持ちでした?」

「そうですね…凄い自分が無力に感じましたね…」

「へえ、なるほど。んじゃあ今耳聞こえてる状態で変態に会ってどんな気持ちでした?」

「えっと、とても気持ち悪くて怖かったです」

「えっなんでこんな失礼な問答続いてるの?おかしいって思う俺がおかしいの!?
苗字さん!いいから!!このドSの質問に答えなくていいから!すみません!」

総悟と女の間に入って止める近藤さん。
俺は総悟の失礼さに頭を抱えるしかない。
普通犯されかけた女にそんな質問するか?
女は止められた事に顔をきょとんとさせた後、笑いはじめた。

「すみません、普通に取り調べの続きかなって思って答えてました、違うんですね」

この女のツボが良く分からん。
どうやら自分の勘違いに笑っているようだ。
総悟も真顔で「ほら見てくだせェ近藤さん、これがドS殺しです。暖簾に腕押しってやつでさァ」と女を指差した。
人の顔が見えねぇ分、言葉の意図を汲み取るのが少しズレているのか、それともコレが素なのか。
するとドタバタと玄関の方から山崎が走って来た。


「あ!こんなところに!副長!
玄関に、玄関にたまさんが来てます!!!!!!!!!!!!あと万事屋の旦那達も!」


山崎が廊下を走ってるのは後でしばくとして、その言葉に思わず「ゲ」と口に出す。
少し早足で玄関に向かう。
今歩いている廊下を曲がれば玄関だ。
そこに呑気な面をした万事屋達ともう一体絡繰。
チャイナ娘が怒りの顔をしている。
こりゃ面倒臭ぇことになりそうだ。
俺の姿を見るなりそのチャイナ娘が「コルァ!!テメェ等名前にまたなんか酷い事したアルか!!!」と指をさしてきた。
俺の後からやってきた近藤さんと総悟。
その総悟にチャイナ娘が蹴りかかる。
それをシカトして万事屋が首をかきながら口を開いた。

「いやウチのたまが今の時間になっても名前が帰ってないっつーもんだからかぶき町中走り回って情報集めてここに辿り着いたんだけどさあ。お宅等と関わると本当名前酷い目にしか合ってなくない?警察がなにしてんの?」

「その警察が今日はあの女を助けたんだよ。文句言われる筋合いは無ぇ」

イラっとしながら答える。
横で総悟とチャイナ娘が殴り合いしているが全員それを無視。
すると絡繰が周りをキョロキョロし始める。
どうやら女を探しているようだ。
迎えが来たなら良い、パトカーで送る手間が省けたと女に迎えが来た事を伝える。
そこに女は居ない。
「あ?」と声が出た。

「苗字さん居ないんですけど。土方さん」

「いやさっきまで居たんだよ玄関に来る前まで」

「あー…なるほどね。
ハイちょっとお邪魔しますよー」

俺の言葉に万事屋が靴を脱ぎズカズカと上り込む。それに待ったをかけるが相手は廊下をずんずん進んで行く。
廊下の曲がり角を曲がる、すると目の前にあの女。
慌てて万事屋と俺は立ち止まる。

「おー、いたいた。
名前お前また冒険心だけで行動してんの?」

「!さ、坂田さん、どうしてここに」

女は壁に手を付いた状態で驚いたように顔を上げた。
万事屋は慣れたように女の手を自分の腕に誘導する。
それに気付かされた。

(見えねぇやつが初めての家なんざまともに歩けるワケねぇ)

そりゃ歩くのも遅くなる筈だ。
分からない場所なのだから壁に手を置き、杖で前方を確認しながらゆっくり歩くしかない。
万事屋が俺をからかうように汚ねぇ笑顔をこちらに向けた。それに青筋が走る。

「あれあれ〜?
フォロ方十四フォローともあろう人が女の扱いも分かんない感じ??」

「黙れ!そもそもテメェ等が来なかったらそれぐらいの事気付いてたに決まってんだろ」

「ちょっと!銀さん!土方さん!喧嘩しないでください!」

言い争っていれば万事屋の眼鏡が此方に近付く。万事屋の腕を握っていた女はそっちに向かってお辞儀をした。
それに気がそがれたのは両方で、喧嘩に口を閉ざし廊下を歩いていく。
総悟とチャイナ娘の喧嘩は近藤さんが何とか納めたようで、近藤さんがぼろぼろになっていた。
チャイナ娘が女を見て顔を綻ばせるのが分かった。
どんだけ仲良いんだコイツら。

「名前無事だったアル!良かったネ!」

「ご苦労様です、名前様
コンビニでの件お聴きしました。良くご無事で」

「いつもご迷惑をおかけしてすみません、ありがとうございます」

万事屋の手を掴んだまま申し訳なさそうに謝る女。
普通すぎる。
何でこんな馬鹿な奴等とつるんでいられるのか謎すぎる。
玄関で騒ぐ奴等が煩くて「とっとと帰れ」とそう告げれば「言われなくとも出てってやるよ」と憎まれ口をたたいて万事屋が靴を履いた。
ゾロゾロと出て行く奴等を横目で見て、とんだ非番だったと溜息をつく。
近藤さんと総悟も歩き出していて、それに続こうと足を踏み出した。

「土方さん」

玄関から響く帰った筈の声。
そちらを向けば苗字。
閉めた筈の扉を手で止めた状態で自分がいるところとは少し違う空を見ている。
何事かと思い「なんだ」と声をかける。
一応まだ此処にいるという意味合いを込めて。
俺がそこに居るのが分かったからか少し安心した表情になれば、朗らかに笑う。


「今日は本当にありがとうございました」


警察として当然の事をしたまでなのだが、この女は何回礼を言えば気が済むのだろう。
思わず心の中でそう突っ込めば、女は一つお辞儀をして扉を閉めた。
「いや〜やっぱり苗字さんは良い娘さんだ」
「つまんねェや、拍子抜けしまさァ」
近藤さんと総悟の声が耳に入る。
その通りだ。
人間離れした馬鹿ばかりの中、あの女は普通すぎてどう扱って良いか分からねぇ。





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