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七竈




照り返す太陽。
その中を歩く。
ジリジリと太陽が身体を焦がす感覚がする。
女なら必死こいて日焼け止めやらシミ対策やらに奔走するだろうが自分は男だし対して気にしてもいないので特に何もしない。

今日は退院日だ。

数日前、病院から帰ってきた神楽から名前の目の事情を聞いた。
新八は驚いていたが、俺はさして驚きもせずそれを聞いた。
目が回復する可能性があるなら万々歳じゃねーかと思ったからだ。

そして神楽は勝手に源外のジジイを連れて病院に行こうとしたが「そんな繊細なモン見るための道具持っていけるわけねえだろうが」とはねつけられ、退院するまで待ったわけだ。
そしてその退院する日が今日。
按摩店のジジイは足が悪いので、代わりに迎えに行ってくれとの依頼を受けた。
因みにジジイには目の事を伝えてはいねえ。
それは本人から伝えるべきだろう。

神楽は勿論、新八とたまも共に病院へ向かう。
これだけいれば自分要らなくない?と思ったが「男手はいるだろーが!」と神楽に殴られた。
俺より力強いゴリラが何言ってんの?ほんと。

病院に到着し、クーラーの涼しさを堪能しながら病室へ向かう。
ノックして部屋を開けたら病室の住人だった女が荷物を片付けながら此方を向いている。

「!万事屋さん達にたまさんですか?」

「正解アル!もう耳の調子も完璧ネ!」

神楽が名前に駆け寄った。
ほんといつの間にこんなに仲良くなっていたのやら。子供ってのは距離感ほんとバグってんな。ベッドの上にある荷物は少ない。
俺が持ってきた紙袋と、真選組の奴等から弁償されたであろう私物が入った袋だ。
やっぱり俺要らなくない?

たまと新八も近付き、自分もそれに続く。
新八が「荷物持ちますね」と一声かければ申し訳なさそうに遠慮している。
本当謙虚な娘なこって。今時珍しいモンだ。
俺らの周りの女は神楽を含め馬鹿とゴリラしかいないってのに名前は子鹿だもんな。
人間の罠に簡単に引っかかって死ぬタイプの子鹿だもんな。
結局荷物を持たれた子鹿は困ったように笑って御礼を言っている。

「名前!
退院したら源外の爺さんのところに行くアルよ!絡繰なら何でも来いの爺さんネ!きっとその目の絡繰も取ってくれるアル!」

「…はい、ありがとうございます」

神楽が名前の腕を持って今からの予定を告げる。自分も新八もはじめて聞いたその予定に一つ溜息をついた。
ふと気付く、なんかおかしい。
名前がやたらと杖をカツカツと鳴らしている。そして少しソワソワしている。
前見たときこんなんだったっけ?

「おいおい、どうしたよ」

「!、坂田さん、なにがですか?」

「いや杖カツカツカツカツめちゃくちゃ鳴らしてんだろ。そんなリズム刻んでたっけ?なに?トイレ?それでソワソワしてんの?」

そう聞けば、目の前の娘は恥ずかしそうに目を伏せる。
あ、今のいいな。
いやいや違う違うそうじゃなくて。
少しだけ目を伏せたかと思えば、顔を上げて恥ずかしそうに笑った。
なんでも、数日間音を頼りに歩いていなかったので感覚が鈍っていて歩きづらいのだそうだ。それが言い出せずソワソワしていたところを気付かれ、恥ずかしくなったらしい。
たまが「それは大変です、お任せください」と近づいて、自分の腕を差し出した。
名前はそれを掴み俺とたまに礼を言う。
そのまま病室を出て廊下を進み、エレベーターに乗り込む。
一番下の階に降りて、エレベーターの入り口が開いた。
順々に降りれば、名前は顔を上げて少しキョロキョロとしている。
受付があるからか周りが騒がしい。
それが気になるのだろう。

「苗字さん、音の聞き分けは出来ますか?」

「はい、なんとか」

新八の問いかけに朗らかに笑う。
まあ勘を取り戻すには時間もかかるだろう。
退院手続きをするためカウンターの方へ向かえば名前はたまの腕から手を離す。
御礼を行って、自分で手続きをしはじめた。
少し時間がかかり、名前がカツカツと杖を鳴らしながら俺達の元へ戻ってくる。
「おー、終わったか?」と聞けば少し安心した顔になって「はい、お待たせしてすみません」と笑った。
たまがまた腕を差し出すが、神楽がすかさず自分がやると手を挙げた。
神楽が腕を差し出せばそれをゆっくり掴む。
確認した神楽が歩きはじめた。
そして名前がコケた。
それを見た神楽が慌てて駆け寄る。

「名前がコケたアル!」

「ご、ごめんなさい神楽ちゃん」

「神楽ちゃん歩く速度前と同じじゃ駄目だから!名前さん病み上がりだからね!」

また再び神楽の腕を掴み歩き始める。
今度は慎重になりすぎて亀のようにしか進まない。
1か100しかねーのかウチの怪力娘は。
見かねて神楽に近寄り頭をしばく。

「もー代われ。
お前に任せてたら日が暮れるわ」

神楽に抗議されたが、さっさと終わらせて帰りたい俺は名前の手を自分の腕に誘導する。
結局どうすれば良いのか悩んでいるのか、名前は暫く腕をソワソワさせた後観念したように俺の腕を掴んだ。
「コケさせたら交代ネ」の神楽の声に「お前と一緒にすんじゃねーよ」と言えば名前が謝罪と御礼を言った。
今から歩くと一言かければ腕を掴む手が少し強くなる。そしてゆっくり歩きはじめる。
名前は杖を鳴らしながら歩きはじめた。







暑い道を歩く。
いつもならもう少し早く歩けるが隣を歩く名前の事を考えるとそうもいかない。
それにしても暑ぃなホント、太陽は俺を殺す気か。

「銀時様、名前様」

たまの声がすると途端に出来る影。
一気に暑さが和らいだ。
どうやらたまは日傘を買ってきてくれたようで、それを自分達に挿してくれている。
こいつは助かる。
一言礼を言えばたまは笑った。

「本当すみません、私のせいでご迷惑ばかり」

名前もそれに気づいたようで少し気まずそうに謝罪をした。
こちらとしてはコレは依頼だし、仕事だ。
店長から月額として金をもらってる。
謝罪は要らない。
まあコッチの絡繰には謝罪より礼の方が良いと思う。
たまは「いいえ、これも絡繰の本懐ですから」と笑った。
もうすぐで源外のジジイのいる店に到着する。
それを伝えれば隣の女は御礼を言った。
神楽が駆け足で俺達を追い越し、店の前で待つ。マイペースに神楽の後に続けば、中から源外のジジイが出てきた。
神楽から事情を聞いていたからか、俺の隣にいる名前を見て「入れ」と一声かけた。
それに従い中に誘導し、用意されたヘンテコな絡繰の中心にある椅子に名前を座らせる。
機械音や色々な匂いがするからかキョロキョロと忙しない。

「名前様、大丈夫です。
源外様の腕は私が保証します」

「!……ありがとうございます」

たまには不安になっているのが分かったのか、優しく声がけをしてやっている。
源外のジジイにどうやって調べるのか純粋に気になって聞いてみた。
「アレだ、レントゲンみたいなもんだ、心配しなくとも最初は撮るだけだから痛みはねぇよ」と絡繰のコードを弄っている。
爺さんの言葉を聞いて名前が安心したように顔が綻ぶのが分かった。
別に心配してねえんだけど、と否定する気にもなれなくてとりあえずそこら辺の椅子に座って待つ事にする。
源外のジジイが名前の目に何かゴーグルみたいなものとイヤホンを装着して調べる。
それをジッと見つめる。
隣でたまもそれを見つめる。

「銀時様は、名前様にお優しいですね」

「仕事だからな」

「なるほど、身体だけが目的と。
データに書き加えておきます」

「リセットボタン連打してやろーか」

たまの言葉にイラッとすれば、くすりと笑われた。ほんとなんなのコイツ。
すると新八がたまの意見に賛同してきた。

「銀さん以前苗字さんの言葉に照れてたんですよ」

「ドSで甲斐性なし天然パーマの銀時様がですか?」

「今それ関係なくない?」

もう勝手に盛り上がってろ、と新八とたまが話すのをシカトする。
するとジジイが名前から絡繰を取り外し始めた。一番近くで見ていた神楽が取れたかどうかジジイに聞く。
ひと通り絡繰を外し、名前が御礼を言った。
目は見えてるのか神楽が確認するが首を横に振った。

「俺は外せねェ」

「爺さんでも取れないアルか?」

神楽が少し落ち込んだ声でそう問う。
爺さんは絡繰を隅に寄せて、腰をたたきながらゆっくりと立ち上がった。

「外せねェのは責任が取れねェからだ」

「どういう意味アルか?」

「聞いてねぇぞ俺は。
目が見える筈の娘から絡繰を取れだなんてよぉ。
元々目の見えねえ奴からなら取ってやったさ。
だが、その絡繰を取る事で見えるかもしれないとなると話は別だ。
それを取る事で視神経に傷がついて本当に見えなくなるかもしれねぇ、取ろうとすれば絡繰が目に何か悪さをするかもしれねぇ。
だから責任が取れねぇって言ってんだ。
頼むからこのジジイにそんな業背負わせてくれるなよ」

その言葉に神楽が黙る。
新八もたまも俺も何も言えない。
すると名前が椅子から立ち上がる。
源外に頭を下げて御礼を言った。
そして神楽に近づいた。

「神楽ちゃん、色々とありがとうございます。
お気持ち、とても嬉しかったです」

「名前…」

「私、目が悪いのには結構感謝してるんです。
この状態じゃないときっと、神楽ちゃんや皆さんに会えなかったと思うので」

神楽がギュッと抱きついた。
明るい笑顔で神楽を抱き締め返す名前を黙って見つめる。
思い浮かべるのは家にあった親子写真。
親の声も匂いも、忘れているだろう。
声も匂いも人より感じる事が出来るのに思い出せない。
ならせめて、顔だけ見てもバチは当たらねぇだろうに。
自分にはそんなもの居なかったから気持ちなんて分からない、分からないが。

椅子から立ち上がり店の入り口に向かう。
新八が声をかけてきた。
それに振り向く。

「取れねぇって分かったならけーるぞ。
按摩店でジジイが待ってんだろ名前」

「!、はい」

その言葉に神楽と二人手を繋いで入り口に歩いてくる。
自分には家族なんてもの居なかったから気持ちなんざ分からない。

でも、とりあえず、今の家族のところに戻してやる事は出来る。

たまが日傘をさして名前に腕を掴ませる。
そしてそのまま歩き出し店を後にした。
ここから按摩店まではそう遠くない。
ゆっくりと道を歩く。
いつものビルへたどり着き、階段をのぼる。
店の扉を開ければ受付に居た店長が顔をあげた。
名前が「ただいま戻りました」と声をかける。

「おう、おかえり」

店長が目を細めてそう言った。




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