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夏白菊




仕事がお休みの今日。
私は美容室に来ている。

私には見えないが人が不快に思わないくらいには身嗜みを整えるべきだからだ。
髪を軽く梳いてもらい、自分には出来ない眉毛の手入れもしてもらう。

「髪の毛いつも同じ感じですよね?たまには変えてみませんか?」

「いえ、寝癖とか付いてしまったら分からないので、結べる方が良いです」

「あー、そうか、そうですよね」

他愛ない会話をしながら全部終える。
いつも通りに仕上がったと言われ、私はそれに御礼を言った。
会計をして、店を出る。
スマホを触って音を出し、時間を確かめる。
どうやらまだお昼にもなっていないようだ。

どうせだし、何かしてから帰ろうかな。

杖を鳴らし、いつものように歩く。
良い匂いがする、これはコロッケの香りだ。
あのお肉屋さんのコロッケは美味しいので後で買って帰ろう。
青い匂いもする、こっちは八百屋さんだ。
じゃがいもの匂い。触ってみれば土が沢山ついている。
ふと、いつもにはない匂いを感じた。
顔を上げて匂いがどこから来ているか探る。
耳をすますと変な音も聞こえる。
そもそもこの匂いは何だ?
何か火がついて焦げたような。
八百屋さんにどこか火事になってないか聞けば首を横に振った。
ここから離れた方が良いかもしれない。
八百屋の店長さんに「焦げた匂いがするので気をつけてください」と伝えれば店長さんは「そりゃ大変だ、ちょっと色々調べてくるわ」とバタバタと近所の店に走る音。
さあ、私も家に帰ろうと杖を鳴らし歩き始める。

「か〜〜〜つ〜〜〜らァァア!!!!」


何処からか聞こえた声と近づく匂い。
そして何かが飛来するような音。
嫌な予感がして咄嗟に頭すべてを手で覆ってしゃがむ。
それと同時に目の前で起きた爆発音。
そして私は意識を飛ばした。







「おう、トシ」

「……近藤さん…総悟が民間人また巻き込んだのか」

「人聞きが悪ィでさァ。
俺ァただ桂捕まえるためにバズーカぶっ放したらそこに人が居ただけです」

「それを巻き込んでるっつってんだ!!
お前今月入ってこれで何件目だ!
今まで民間人が大きな怪我してねえから良かったものの本来なら訴えられてもおかしくねえんだよ!」


大江戸病院。
とある個室の前。

真選組の局長、副長、一番隊隊長。
一番隊隊長、沖田によるバズーカのせいで町の一部の店が吹き飛んだが、奇跡的に怪我人が一人しかいなかった。

その怪我人がいる病室の前で謝罪のために局長と副長が集まった。
土方の手には高級菓子折り。
今は先生に診てもらっているらしく病室からしめ出されている。
病院だからタバコも吸えず、イライラしている土方に近藤がどうどうと落ち着かせる。
すると病室の扉が開き、先生が出てきた。

「えーっと…警察の方ですね。
とりあえず、爆発による火傷も少しだし痕になる事はないんですが、耳の方がね。
咄嗟に頭を庇ったのが良かったのか鼓膜は破れてないんだけど、暫く日常生活に支障をきたすぐらい耳鳴りが酷いと思いますよ」

それに謝罪しながら聞く近藤。
土方もそれを聞きながら、素知らぬ顔で後ろにいる原因を作った本人を睨みつける。
先生の話をひと通り聞いて、近藤と土方を先頭に病室に入る。
先生とそれに付き添っていた看護師はその後ろ姿をジッと見ていた。

「あの先生…あの患者さん、目が元々見えないって事も伝えた方が良かったんじゃ」

「あーいいのいいの、ここ最近真選組のせいで勤務時間増えてるでしょ?
少しぐらい反省してもらわないとね」

はははと笑いながら離れていく先生と看護師の考えなどつゆと知らず、真選組の三人が個室の窓際にあるベッドへと近付いた。
ベッドに座り、窓の外を見ている彼女は此方の様子に気付いていない。
耳鳴りのせいだろうと思い、土方は近藤に菓子折りを渡し、マットレスを少したたいた。
窓の外を見ていた彼女はゆっくりと顔を向ける。
近藤が菓子折りを取り出して、差し出しながら今回の事を丁寧に詫びた。
土方も後ろで総悟の頭を掴み無理矢理頭を下げさせた。


「あの、そこに誰かいるんですか?
先生…じゃないですよね、薬の匂いしないし…なんかタバコの匂いがする…」

「え?」


土方と近藤が同時に声をあげた。
そして滝汗をかきながらゆっくり顔を上げる。
目の前のベッドに座る彼女は頭を下げる自分達に目を下げることもなく、空を見つめている。
滝汗が止まらない。
もしかして、もしかすると。
耳鳴りだけだと思っていたが。

近藤が慌てて、土方と総悟の肩を組み円陣を組む姿勢に入る。
その顔は青くなったり白くなったりして目が座っている。

「いやいやなあトシ、嘘だよな。
もしかして彼女視力失ってない?何も見えてなくない?やっちゃった?これもしかしてやっちゃった?」

「いやいやいや落ち着けよ近藤さん、先生は目については何も言ってなかったじゃねえか。
ありゃきっとかなり怒ってんだよ、それで俺たちの姿が見えないフリしてんだよきっとそうだそうに違いない」

「いやいやいやいやあれは見えてやせんって。
だってあれ見てくださいよ、土方さんが叩いたマットレスのとこ手探りでボスボスやってまさァ。
あれが演技なら世界狙えます」

「お前なんでそんな呑気なの!?
人一人の視力奪ったかもしれない人間がなんでそんな呑気なの!?」

どうするどうすると顔を青ざめさせる土方と近藤を余所に、沖田が小さく溜息をついた。
そして音も無く彼女に少し近づき、カチンと音が鳴った。

刹那の抜き。
沖田がいつのまにか抜いた刀の切っ先が彼女の目の前に突きつけられている。

それを青ざめた顔で見つめる近藤と土方。
刀を暫く突きつけた沖田は彼女を観察する。
刀に動じる事なくマットレスを触っている彼女を見て、ゆっくりと刀を納めた。

「目ェ見えてやせんね」

「何やってんのお前!!!??」

土方の大声のツッコミにベッドの彼女がびくんと跳ねた。
それに近藤と土方が反応する。
耳鳴りのせいで声や音は聞こえづらくなっているが、どうやら大声は分かるらしい。
ベッドの上の彼女は目の前に誰かいるのが分かったらしく、怯えたように少しずつベッドの端へ移動した。
それを見て近藤が慌てる。

「お、おい!トシ!どうしよう!
怯えてる!彼女めちゃくちゃ怯えてるよ!子鹿のようだよ!」

「近藤さん!大声だ、大声出して警察だって伝えろ!」

「大声なんて駄目に決まってるでしょう!
彼女耳を怪我してるんですよ!」

スパーンと病室の扉が開き、看護師さんが現れる。
どうやらベッドの彼女はいつのまにかナースコールを押したらしく、慌ててやってきた看護師が近藤と土方を止めた。
彼女に近寄り、落ち着かせる看護師を見つめ土方と近藤はどうしようと顔を見合わせた。
そして看護師がやってきた扉から再びコンコンとノック音がし、ゆっくり開いた。

「…………何してんの?おたく等」

近藤と土方がその声にゆっくり後ろを振り向く、もじゃもじゃ頭がそこにいた。







病室に真選組と銀時。
お互い見つめ合っていたが銀時の横を看護師が通り過ぎ「あとはお願いします」と出て行った。
彼女が此処に運び込まれた際、彼女の持つスマホは壊れ何処に連絡すれば良いのか分からなかった、先程の看護師が彼女の持ち物から万事屋の名刺を見つけ連絡を取り付けた。
看護師を見届けて銀時が真選組の横を通り過ぎゆっくりと苗字に近づく。
ベッドの横に備え付けられている椅子にどかりと座る。
ベッドの端で怯えた様子だった彼女はぴくりと身体を反応させた。

「さ、さかた、さん?
坂田さんの匂いが…
坂田さん?そこに、いますか?」

「おーいるいる…つっても耳今聞こえづらいんだったな…どうすっか」

銀時が頭を一つかいて、とりあえず彼女の足を布団越しにポンポンと叩く。
そうすると怯えた彼女は少し表情を和らげ、笑った。
それを見た銀時は彼女の手をツンツンとつついた。それにゆっくりと差し出された手を銀時が握り、掌に文字を書き始める。
「くされぽりこう?……くされ?ん?」と彼女から声が漏れた。
銀時がなんて伝えたか分かった土方の顔が引きつる。
とりあえず、自分達が謝る対象と知り合いという事が分かっただけ少しは前進した。


「おい万事屋」

「んだよ、今名前にお前等が誰か教えてんだよ黙ってろよ」

「お前腐れポリ公って教えてただろーがしょっぴいてやろうか」

「あれあれー?警察ってのは民間人に怪我させて良いものなんですっけー?さっさとそこの高級菓子折り持って謝ってくれません?
俺に」

「なんでテメーだ!!!?
どういう流れでお前に謝らなきゃなんねーんだ!!
そっちの娘だ!俺等が用事あんのは!!!」

「何言ってんだ、善良な市民である俺に今さっき逮捕してやろーかって脅しただろーが。
傷付いたよ俺は。全治1カ月の大怪我だよ」

「旦那ァ、旦那の馬鹿は全治1カ月で治るもんじゃねーですぜ」

「誰が馬鹿だ。
大体なんで民間人傷付けた張本人は平気そうな面してんの?
お前の心どうなってんの?入院すれば?」


銀時が掌に文字をかきながら真選組と言い合いしている。
苗字は銀時からある程度の事情をその掌から汲み取った。
つまり自分は真選組と攘夷志士の人たちとの大捕物に巻き込まれたらしい。
爆発はその時のもので、しかもその爆発は真選組が起こしたものだと。
そして銀時が来る前に病室にいた人物はその真選組なのだと。
掌を走る指が止まる。
暫く待つが動かない気配に苗字は不安になり目の前にいるであろう人物の名前を呼んだ。

「さ、坂田さん?」

「!」

言い合いで指が止まっていた銀時が掌に「坂田さんですよ」と再び指を走らせると彼女は安心したように肩の力を抜く。
土方はその様子をジッと見る。

(万事屋の動きに迷いがないな)

本来目が見えているのであれば、躊躇わずスムーズに掌で状況を伝えることはしない筈だ。
目が見えない事に動揺しそうなものだがそれが見られなかった。

「その娘、元から目が見えねえのか?」

「お前等に教える義理はありませーん」

銀時のその答えに土方はイラッとしたが、ここは病院だと心を落ち着かせる。
すると病室の扉が再び空いた。
それと同時に沖田に跳ぶ蹴り。
ガシャァン!と窓まで沖田が吹っ飛んだ。
その音に苗字が思い切りびっくりして、銀時が足をぽんぽん叩いて宥めた。

「てんめー!腐れドS!
名前に何したアルか!!
ぶっ飛ばしてやるネ!!」

「なんでィ、チャイナ娘の友達かよ。
ならもう少し痛め付けとくんだったぜ」

華麗に着地を決め指をさし怒りの顔で猛抗議する神楽。
それを気にも留めない沖田は火に油を注ぐ発言をした。神楽はそのまま沖田に飛びかかり喧嘩が始まった。
後から遅れて、按摩店の店長をおんぶした新八が現れ喧嘩をする二人に「ちょっと何してるんですか!」と声をかける。
慌てて近藤が間に入り止めるが、近藤に拳が飛びはじめた。
何が起こっているか状況が掴めない苗字の掌に「神楽と新八とジジイがきた」と文字が走る。
それに顔を上げれば、手が顔に触れる。
皺々でゴツゴツの手。
いつも足に貼っている湿布の匂い。
苗字はそれが店長だと分かり、安心したように笑った。
その顔を見て少し安心したような表情をした店長が、新八から降りて一人突っ立っている土方に向き合う。
土方は少しだけ姿勢を正した。

「ウチの従業員はなぁ、目が弱い。
日常生活は耳と鼻が生命線なんだわ。
どうしてくれる?」

いつもより少し低いその声に土方は謝罪をする。
それを見たボロボロの近藤が沖田を引っ張り店長の前に現れ頭を下げた。
沖田もそれに合わせて頭を下げる。

店長はそれをジッと見る。

「誠意が見えねえな
出るとこ出ても良いんだぜ」

その言葉に土方と近藤がピクリと反応した。
とりあえず元々彼女の耳の治療費、病院代は此方で持つつもりだったのでそれを土方が伝えたが店長はまだ足りないと言い切った。
何を望んでいるのかが分からないからか、近藤が素直にそれを聞く。

「あの子の杖。壊れたんだろうが。
新しいの寄越せ。
後、あの子の駄目になった荷物の弁償。
特にスマホだ。特別なもんだから直ぐに用意しろ」

それに近藤が全て頷いていく。
それを万事屋がジッと見つめている。
銀時が掌に今の状況を伝えると、目の前の彼女はどうしようとワタワタしはじめた。
「大丈夫アルよー」と神楽が苗字を撫でれば、彼女はそれが神楽と分かったのが嬉しそうにそちらを向いた。
「お医者さんが火傷の痕は残らないって言ってましたよ」と新八が万事屋二人に告げると神楽
が安心したように笑った。

「後、あの子のアパート。
今住んでるところの家賃、治るまで払え。
後ついでにあの子が休む事でウチの店は大赤字だ。その保証もしろ。
あと俺の治療費も寄越せ。
あと金寄越せ」

「待って待って待って!最後あたり金の事しか言ってなくない!?お金欲しいだけじゃんこのジジイ!」

「やかましいゴリラ!貰えるもん貰おうとしとるだけなんだがな!金寄越さんかい!!!!」

次々と出てくる要望に流石に待ったをかける近藤。それに逆ギレする店長。
ぎゃーぎゃーと言い争う真選組と店長を万事屋と苗字はジッと見つめていた。




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