ふわふわと浮いている。 気持ちがいい。 ああ、ここはなんだろう。 顔にふわんと何かが触れた。 これは雄っぱい枕かな…。 だとしたら、私、幸せだー。 「落ち着くんだ流子君!僕はこの子に何もしちゃいない」 「うっせぇ!!服着てから言え!服着てから!!」 んん、周りが騒がしい。 一体なんなんだ…私は今雄っぱいを満喫しているというのに…。 だんだんとやかましくなる周囲に、思わず目を開けた。 すると目の前は 乳首でした。 ![]() ![]() ![]() ![]() 「乳く、いってぇ!!?」 「おお!?目が覚めたのか!?」 「見たまえ、流子くんが騒がしくするから目が覚めてしまったじゃないか」 「てめぇが真っ裸でその子を抱き上げてたら騒がしくもなんだろーが!」 え、何この状況。 私なんで今先生に抱き上げられてるんだ。 乳首目の前なんだけど。ちょっと乳首眩しいんだけど。なにこれ。 状況が飲み込めなくて、とりあえず乳首から視界を外して周りを見渡すと、乳首の光で良く見えないがそこには可愛らしくも顔を赤く染めた流子ちゃんがいた。 ここは、流子ちゃんがテニス部の子にやられた時に運ばれた部屋…!?生で見るとより汚いな…。 掃除したい…あ、やば、職業病だこれ。 いや違うそこじゃない。主人公が目の前にいる! わ、私みたいな汚い人間をこんな可愛い子に見せるワケには…! 慌てて動くが、その瞬間にズキンと身体が悲鳴を上げる。 ああ、そうか、さっきまで死にかけたんた私。 「ソファは流子君が占領していたし、かといってこの子を床に寝かせるワケにもいかないだろう」 「だからって何でテメーが真っ裸で抱き上げる必要があんだよ!降ろせ!その子を!つか、何しやがったその子に!」 流子ちゃんの訴えもあってか私は無事ソファに座らされた。 私を庇うように流子ちゃんは先生を威嚇する。まるで獣のようだがとても可愛い。 先程まで間近に乳首の光を見ていたからかとても目がチカチカする。 今現在も乳首が眩しすぎて視界がチカチカする。 乳首が発光するとはどういう現象なんだろうかと、ふと冷静に興味が湧いたが調べる勇気もないので大人しくしておく。 身体に寒気が走った。 そういえば水でビショビショだったのを思い出して服の様子を見ようと下を見る。 何故私、毛布一枚なんだろう。 思わず固まった。 この事実に向き合いたくなくて思わず毛布の中の自分の身体を見る。 そこには私の身体を纏うべき物が一切なかった。 「は、はだかっ!?」 「ああ、君の服はそこに乾かしてあるよ。勿論、下着もね」 「ぎゃぁあ!?」 当たり前のようにハンガーと洗濯ばさみで干されている私の汚らしい服を指指され羞恥で爆発しそうになった。 慌てて服と下着を取り、かけられていた毛布を頭まで被る。そして体操座り。 やばい、やだ、お肉だらけの身体見られた。 こっちに来てからロクなもの食べてないから痩せてきてはいたものの、だからといってスタイルが良いとは言えないこの身体を!!見られた!!! 羞恥で真っ赤になる顔。 もうお嫁にいけない。 目の奥が熱くなりながら服の乾きを確認して、慌てて毛布の中でもぞもぞと着替える。 服の破れは帰ってから修繕するとして、 よくよく身体を見れば綺麗な包帯や、絆創膏が貼られていた。 治療してくださったのだと気付き、尚更裸になった現実を叩きつけられ死にたくなった。 着替え辛かったが何とか全て着用し、毛布から顔を出す。 「あ、あの、怪我の治療ありがとうぅお!?」 先生は生まれたままの姿だった。 先程から流子ちゃんが裸裸と叫んでいたが本当に真っ裸だとは思ってもいなくて、思わず目を覆う。 真っ裸の男性に抱き上げられていたかと思うと更に羞恥で死にたくなった。 いろいろ合間って恥ずかしくて仕方なくなり顔を伏せる。 もう本当私お嫁に行けない。 「テメーもいい加減服を着ろ!変態教師!」 「流子くん、君は僕が好きで裸になったと思っているのかい?」 「思ってるよ!!!」 二人の会話を耳に目を伏せる。 いや、雄っぱいは好きだけれど下半身はまだ耐性がないんです私。 雄っぱいは好きだけれど。 「僕の服はね、裸のその子を抱き上げたと同時にバラバラになったんだよ」 「やっぱりただの変態じゃねーか!!」 ベシンとそこらへんにある毛布を先生に叩きつけて流子ちゃんは立ち上がる。 そして私の手を掴み「行くぞ」と部屋から連れ出した。 身体は痛むが、なんとか歩けそうだ。 流子ちゃんも良く見れば傷だらけで、とても痛々しい。 しかし、足取りはとてもしっかりしていて、普段から怪我をする事に慣れているんだろうと感じた。 強い子だなぁ。 この子こそ天涯孤独なんだもんなぁ。 私はここには家族も誰もいないが元の世界に戻ればちゃんと家族も友達もいる。 今、流子ちゃんにはマコちゃんやマコちゃんの家族がいるのだろうけど、それまでは一人で頑張ってきたのか、と考えると涙が出そうになった。 流子ちゃんに連れられるがままに学校の廊下を歩く。 汚らしい壁を見て、仕事を放り出して来た事実が頭をよぎる。 一気に顔が青ざめて血の気が引いていくのが分かった。 言い訳を、考えよう。 「…事実、なんだけどなぁ」 静かになった部屋で一人、美木杉愛九郎は呟いた。 顔に叩きつけられた毛布を軽く畳みソファにかける。 そして、ゴミ箱に捨てた自分の服の残骸に目をやった。 文字通り、彼の服はバラバラになっていた。 理由はわからない。 ただ、裸の彼女を抱き上げた瞬間、服はバラバラになった。 バラバラといっても破れる、裂ける、そういうものではなく、まるで砂のようにチリとなったのだ。 今、この世界における衣類において、リボテックス社のものではない衣類はないといっても過言ではない。 勿論、自分の着ていた服もそれだ。 リボテックス社の製品には全て生命繊維が織り込まれている。 その服が、バラバラになった。 「暫く、観察する必要がありそうだね」 「私は纏流子ってんだ。あんたは?」 「わ、私は苗字名前と、言います」 廊下を歩きながら可愛い流子ちゃんが笑顔で自己紹介をしてくれる。 可愛い。スタイルもいいし、性格もいいだなんて。こんな完璧な子いるんだな。 流子ちゃんは「よろしく」と笑いかけてくる。 その笑顔が眩しくてただでさえ伏せている顔を更に伏せてしまった。 やばい、本当に可愛いんだけど何この子。 廊下を並列して歩く中、流子ちゃんにトキメキながら私は仕事をサボった言い訳を必死に考える。 「そういやぁ、名前は制服着てないんだな?」 「あ、私、ここの生徒じゃないので」 「そうなのか?じゃあ何でここにいんだ?」 「お仕事です。今勤めてる清掃業社が、本能字学園の清掃を頼まれてて」 流子ちゃんは「若いのに大変なんだな…」と少し同情した目で見つめてきた。 いや、私君達より年上だからね。 大学生だからね、と言えるワケもなくアハハと苦笑してその場を流した。 どちらかというと貴女の方が苦労しているだろうに。 流子ちゃんは、こんな汚い私にも笑いかけて来てくれるとても優しい子だと改めて実感した。 笑った笑顔は年相応で、こんなまだ成人にもなっていない子がこれから生死をかけた戦いに挑もうというのだから、この世界はなんて残酷なんだろう。 私の空気が一気に暗くなったせいか、流子ちゃんが「大丈夫か?」と私を気遣う。 本当に優しい子だ。 「りゅっうっこっちゃーーーん!!!」 「がふっ!」 「名前ーーーーー!!!」 いきなり飛んできたフライングクロスチョップが私の頭に見事クリーンヒットした。 ゴロゴロと廊下を勢いよく転がり壁にぶち当たる。 何これ超痛い。 傷も合間って超痛い。 中々立てないでいると流子ちゃんが慌てて私を起こしに来てくれた。 何この子、ほんと優しいし可愛い。 「マコ!ほら、謝んな!」 「うん!ごめんねごめんね!マコ流子ちゃんに狙い定めてたんだけど外れちゃったんだよー!フライングクロスチョップじゃなくて次は普通に飛び付くだけにするね!ごめんね!」 「マコ、謝る所が違えよ…」 ま、マコちゃんだ…!!! す、すごい可愛い!!お目々クリクリ! 昨日見たのと全く一緒!!! 私は思わず正座をして大丈夫アピール。 流子ちゃんもマコちゃんも良かったと言わんばかりに顔を綻ばせて私に微笑みかけてくれた。 ああ、私、可愛い子に囲まれて幸せです…!! 「ここにいやがったか苗字!!!」 「ぎゃああ!!先輩うわああ!!」 「てめぇ!何サボってやがる!!こっちに来い!!仕事量倍に増やしてやるぁ!!」 「ぎゃああ!!もうトイレは!トイレは嫌ぁあ!!」 幸せと同時に舞い降りた地獄によって私は再び現実に戻った。 先輩によって襟元を持たれ引きずられる。 視界には流子ちゃんとマコちゃん。 苦笑しながら手を振る流子ちゃんとは相反してマコちゃんは笑顔で元気よく手を振ってくれる。 ああ、もう、あのコンビほんと可愛い。 最後に視界に入った癒やしを焼き付けて、私は地獄へ向かった。 back |