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「くそ、まさか校庭も掃除だなんて」


トイレとの戦いは無事終わり、
まさかの残業です。

流子ちゃんがめちゃくちゃにした校庭を綺麗にしろとの生徒会長鬼龍院皐月様のご命令が降りました。
勿論拒否権などなく、我々清掃スタッフは残業しています。

何で油が大量にあるんだ。
地面に染み込んで吸い出すのに凄く時間がかかるが、やるしかない。

やり方はとても簡単。
清潔な布を油で濡れた地面の上を覆う。
少しトントンと叩き、後は布が油を染み込ませるのを待つだけ。

油を吸い出す間に掃き掃除。

結局遠目からしかキャラ達を見る事が出来ず少ししょんぼりではあるが、まあ、仕方ない。
見れただけでも良しとしよう。


「おい。苗字!」

「あ、はい」

「後は吸い出した布を取り替えては捨てるの繰り返しなだけだからよ、よろしく頼むわ」

「へ?え!?」

「じゃあな、おつかれー」


ゾロゾロと帰っていく仕事場の先輩達に
バイト如きの私が何か言えるワケもなく。
私、何時に帰れるのだろうか…。

今、時計は18:30。

溜息をついて肩を落とし全くと言っていい程片付いていないグラウンドを見渡す。そしてまた溜息。
溜息をついた所で掃除が終わるわけでもなく。
何か違う事を考えて掃除することにしよう。

お腹すいたなー。今日の晩御飯は何にしよう。

大きなゴミ袋を広げて油を吸い出した布を片付ける。そして変わりの布を置く。
ベトベトして気持ち悪い。

完璧な状態のグラウンドに戻るまで、
その作業をひたすら繰り返してたら
見事に日を跨ぎ、心身共に疲労困憊。

ご飯とかもういい。
帰って寝たい。
明日も朝一からここの掃除だ…。

フラフラになりながらゴミ袋を持ち上げ
処分場所へ持っていく。
そして、その足で家へと帰った。




2





「クソ眠い、雄っぱい枕で寝たい」


目の下の隈が私の丸顔で不細工な顔を更に不細工にしている清々しい朝。
納期の日まで後、六日。

私は学生が登校するまでの間、雄っぱいに思いを馳せながら校庭の掃き掃除をする。

それがここ一ヶ月の日課になりました。

ただ、早朝出勤を押し付けられただけなんだけれども。

箒で地面をはくたびに髪の毛がぴょいんぴょいんと揺れる。
昨日帰ってお風呂適当に入って頭も乾かさずに寝たから寝癖が凄いのだ。
此方に来てから伸びっぱなしで手入れされていない私の髪の毛は、私の目を隠し、丸顔でだらしない輪郭を覆い、見事なまでの不清潔感を醸し出している。

その髪が今は寝癖で見事なイメージチェンジを遂げているのだ。
例えるならば王子様カットのような外ハネたっぷりヘアーと言った所だろうか。

女の子として終わってる。


まあ、元々外見にそれほど気をつかってなかったけれども。
化粧っ気もなければ、お洒落でもない!
アニメグッズに金が消えていく、そんな日々を過ごしていた根っからのヒッキーヲタクでした。



「はあ、朝は冷える」


髪ボサボサの私の格好はこっちに来た時の部屋着の格好のまま。
その日のうちに洗って乾かすの無限ループをしている。

まあ、上はロンTで下はジャージだし、掃除には持ってこいだから重宝してる。

まず、服買うお金がないのが一番の理由だけれど。

因みに足はそこらの落ちてた皮と板を繋ぎ合わせて作った簡易的なスリッパ。

人間とは恐ろしい物で、否が応でもその場の状況に慣れていく。
買えないなら、作ればいい。
それが無理なら、拾えばいい。
住めば都とは良く言ったものだ。
この世界、もとい、私が今住んでいる地域は満足な食べ物もないらしく、最初、売られていた食材を見て絶句したものだ。
カエルやらミミズやら、食べられればそれで良いとでも言ったような物ばかりが店に陳列していた。
空腹には叶わず、今ではそれがご馳走に見える私は、本当に逞しく成長していると思う。

今日の晩ご飯に思いを馳せながら、
掃き掃除で出たゴミをチリトリで集めてゴミ袋にまとめる。
これを焼却炉に持って行けば朝の掃き掃除は終わりだ。


焼却炉にゴミ袋をぶち込んで、箒とチリトリを回収しに再び校庭に戻る。
そこには我が目を疑う光景が広がっていた。


「これは驚いたな。昨日の天ぷら油が綺麗に吸い出されているだなんて」

「へえ、今回の清掃業者、中々根性あるじゃな〜い」

「うむ、これは見事なものだな」

「あれだけの量を一晩でやるとはな。驚いたぜ」



あ、ぁああ…!

が、蟇郡さんがいる!!!!!!

す、凄い!ガチムチだ!!雄っぱいだ!!!雄っぱいが飛び出してる!!!
い、癒し!昨日の掃除の疲れがあの雄っぱいにより一気にぶっ飛んでしまった!
恐るべし雄っぱい!


目の前に広がる光景を見て、真っ先に浮かんだ言葉。
ガチムチ。
根っからのガチムチ好きな私には蟇郡さんは最高の萌え対象。
鼻息が一気に荒くなり、口をついて出そうになった叫び声を先程の心の声に変換させ、暴走しそうな身体をギュッと抑え込み、校舎の影に隠れた。

今の私は明らかに変質者だが、しばらくは雄っぱいの余韻に浸りたいじゃないか。

直ぐにでも蟇郡さんの近くへ行き、その素晴らしい豊満ボディを舐め回すように拝見させて頂きたいのだが、そこはコミュ障。出来るワケがない。
なにより、私不清潔な格好だし、不細工だし、四天王の皆さんもこんな汚いの見たくないだろうし。
ゴミ屑ほどの乙女心が私にもまだあったんだと思うと少し泣きたくなる。

泣きたくなった心を落ち着かせ、冷静になり時計を見た。
後、10分後に仕事が始まる時間だ。
せめて五分前には集合場所に居ないと、先輩に怒られてしまう。

しかし、箒とチリトリは回収しなければならない。
あれは私の商売道具。あれがなくては仕事にならない。

大股で5歩ぐらいの距離にあるが、ここで出て行けば私は彼等に私の姿を見られてしまうだろう。
それも、嫌だ。
我儘だと思うが、この複雑な乙女心を察して頂きたい。

あれこれ悩んでいるうちにそろそろ先輩達も来る時間だ。
このままあそこにいられると私は遅刻してしまう。
怒られるのは嫌だ。


「あん?なんだ、あそこに箒とチリトリがあるぜ?」

「あら、ホントね。業社のかしら?」

「後片付けもせず帰るとは!!!清掃業社が聞いて呆れる!!」

「この一ヶ月、どうやら女が一人早朝から今の時間帯まで校庭の掃き掃除を行っている。その箒とチリトリも今使っていた物だろう。
大方、今は焼却炉にでもゴミ袋を捨てに行ってるんじゃないかな」



全部当たってるよ。
何あの人超怖い。私一人でやってる事に気付いてくれたのは嬉しいけれども!

ふと、私は思った。
彼の名前は、何だっただろうか。
四天王は蟇郡さんに夢中だったからまだ名前完璧覚えれてない事に気が付いた。

えっと、あの人は猿だっけ犬だっけ?
確か女の子は蛇だった記憶が…。

これはヤバイ。
雇い主の側近の名前わかんないとかヤバイ。
尚更、前に出れないではないか。
姿を目撃されれば、会話イベントが発生する。
その会話イベントの中にもしかしたら相手の自己紹介イベントがある可能性があるが、もしかしたら私の方が先に相手の名前を答えなければならない会話もある可能性があるのも事実。

どうしたものか。

メガネの人は浸すらPCをカタカタやって何かを調べては画面を四天王の皆様に見せている。



「へえ、本当に一人でやってんだな」

「そのようだね。監視カメラにもその女の姿しか映っていない。
おっと、どうやら昨日の油を吸い出す作業も、彼女が一人で残って行なっていたようだよ」

「はあ?何それ?
つまり、その女しか働いていないって事でしょ?清掃業社としてはダメダメじゃな〜い。褒めて損したわ」

「しかし、皐月様の踏まれる地面が綺麗であることに変わりはない!!」




努力って、報われるんだね。
見てくれてる人はいるんだね。
ありがとう!メガネの人!犬か猿かどちらかの人!

嬉しいけれども、
このままだと本当に遅刻してしまう。
仕事の先輩に仕事倍押し付けられてしまう。

ダッシュで行けば姿見られずにいけるだろうか。
それかコッソリ行くべきか。
四天王の皆さんがメガネさんのPCに集まってる今がチャンスなんじゃないだろうか。
や、でも、四天王の皆さんだし、直ぐ気付かれそうだし。

頭の中にいろいろ考えが巡る。
どれが一番最善の策なのか足りない頭で一生懸命考えるが、どれも駄策ばかりで溜息が漏れる。
せめて私の格好が清潔でまだ見れる状態であれば頭を下げながら箒を取る事も出来るのだが、今の私は本当に汚いボロ雑巾のようでとても人前には出れない。
この姿が仕事で虐められる原因の一つでもあるのだ。
最上級の位置にいらっしゃられる方々が、そんな姿の私を見て不快に思わないワケがない。
両手をギュッと握り一つ溜息。
また暗くなってしまった。
明るく行かねば。


「因みに、今そこの校舎の影に隠れているのが彼女だ」



………はい?

両頬に気合いを入れようとした瞬間聞こえた声。

台詞に違和感を覚え、影からコッソリ見ればメガネさんのPCに目線が行っていた他の御三方の視線が一気に此方に向いた。

ヤバイ。

咄嗟に顔が見られないように頭を下げ、そのままの勢いで箒とチリトリをダッシュで回収して焼却炉の方へとダッシュで戻る。
今、私、風になれた気がした。

とりあえず、焼却炉の近くにあるトイレの窓から校内に入って先輩達と合流しよう。


「…おい、今のがそうか?」

「ああ、彼女がそうだね」

「なにあれ、女とは思えない汚ったない格好ね」

「蛇崩、彼女は清掃業者だ。服が汚れているのは当たり前の事だろう」

「あー、はいはい、蟇くんは本当真面目ねー」


全速力で窓からトイレに潜り込み、座り込んだ。
酸素を求め忙しく動く肺にゆっくりと空気を与え、激しく動く肩を落ち着かせた。

ヤバイ、顔見られただろうか。
不快に思われたかもしれない。

溜息が一つ零れた。
ふと時計を見ると時刻は仕事開始五分前。
走って赤くなった顔が一気に青ざめ、再び全速力でトイレを後にした。

先輩達と合流して案の定怒られた私は、仕事を倍押し付けられた。

どうやら、今日一日トイレ掃除らしい。
瞬間、某トイレ神を歌ったヒット曲が頭に流れ、再び溜息。
幾らでも綺麗にするから、どうか私のこの姿を綺麗にして欲しい。

そんな事を祈っても綺麗になるはずもなく。
そもそも綺麗になるというのは容姿の話ではないか、と一人ツッコミを入れ掃除道具を担ぎ、掃除場所へと向かった。

蟇郡さんの雄っぱいを思い出して、今日も一日頑張ろうと思う。



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