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「…え、え?」

「やあ、名前くん。この姿では一日振りかな?」


目が覚めたら


目の前が乳首でしたパート2。








9







目の前に乳首、そして、私の毛布に手をかけるイケメン先生(ほぼ全裸)。
混乱した頭は瞬時に身の危険を悟り
とりあえずビンタをお見舞いした。

ガシャン!と尻餅をつき、いろいろ机にぶち当たる先生を他所に、乱れた毛布を慌てて直す。

落ち着け、落ち着け私。
とりあえず昨日は夜、四天王の人と話した後ひたすら掃除に没頭して廊下をピカピカにした。その後直ぐに家に帰って、服と下着洗って、干して、風呂入って、裸で毛布にくるまって寝た。
よし!ちゃんと覚えてる!!

なのに、何故!目が!覚めたら!
目の前が乳首で、更には裸にひん剥かれたあの忌々しいソファで寝てるんだ!

まさか、先生が私をここまで連れて来た?
いや、まさか。そんなわけがない。
だってあくまで教職員だ。公務員だ。
謂わば、生徒に正しい道を指し示す聖職者なのだ。
そんな人が誘拐紛いの事をするわけがない。



「すまないね、勝手に連れて来させてもらったよ」

「誘拐だーー!!!」



咄嗟にその場にある物を手当たり次第先生にぶつける。
教職員が変態だ!誘拐犯だ!流子ちゃんとマコちゃんが危ない!
早く警察!警察に言わないと!
私の頭の中にある、変質者に会ったときのマニュアルを総動員する。
まずは自分の安全を確保せねばと思い、慌てて立ち上がる。

手当たり次第物をぶつけ終わったので、出口へダッシュ。
追って来ないか心配になって後ろを見ながら走っていれば、全身を覆っていた毛布の首元を思い切り引っ張られた。思わず変な声が出る。
喉なんて鍛えてるハズもなく、いきなりの衝撃に浸すらむせた。
その場に項垂れれば、頭上から低く、とても良い声が耳を刺激した。



「二つ、良い事を教えてやろう」



聞き覚えのある声に若干の恐怖を覚え、身体が動かない。



「一つ、走る時は前を見て走れ」



目の前に足が見えた。
ああ、見覚えのあるゴツいブーツだ。

空を飛んだ記憶がフラッシュバックする。
喉の痛みが何処かへ消えた。



「二つ、お前はまだ帰さない」



その台詞は好きな人に言われたかったな。
彼氏なんざ出来た試しないけど。ヲタクで干物女だったもので。

そもそも、何故この方がここにいるのだろう。
先生のお知り合いというのは分かってはいるのだが、何故こんな深夜の時間にここにいるのか。
私を誘拐したのに噛んでるとしか思えない。

今や立派なトラウマの一つの原因を作ったお方。紬さんを見つめる。
ガチムチで本当にたまらないのだけど、やっぱり恐怖には勝てない。
目が合った瞬間、音速を超える勢いで目を逸らすぐらいには怖い。

何故なら、私は、以前、彼を殴った。

あの行動を冷静になって考えてみたのだけど、紬さんは爆発場所に私が居たことになんて知らなかった。
そこに私が勝手に頭突っ込んで勝手に飛んで勝手にキレて殴ったワケである。
紬さんからしたら初対面の人にいきなりビンタかまされるってなんだよって状況になる。
八つ当たりって言われるはずだ。


「前は殴ってごめんなさい…!」


謝ろう。
謝り倒す。


謝る事で何かしら罪は軽くなるならば、私はいくらでも謝ろう、そう思い手慣れた土下座をする。

土下座して謝っているので紬さんが今どんな表情をしているか全く分からない。
しかし、彼に対して謝罪の気持ちがあるのは事実だ。
許して貰えるまで謝らなくては。


「やあ、紬。来てくれたのか。例の物は持ってきてくれたかい?」

「ああ、ここにある」


私の土下座はどうやら無視され、後ろから追いついてきた先生に向かって足音が響くのが聞こえた。
私の謝罪は届いていないのだろうか。
もしや、とてもご立腹なのだろうか。

謝るしか能のない私がこれ以上の事を望まれたらどうしたら良いのか。
少し顔を上げて二人を見やり溜息をつく。
二人は、どうやら話し込んでいるようだ。

これは逃げるチャンスなのでは?

そう思った私は、ゆっくり立ち上がり、二人か気付かないよう忍び足でその場を立ち去ろうと歩みを進めた。


「さて、名前くん、少し時間をもらっても構わないかな?」


私の脱出劇はものの30秒で終わりを告げ、ゆっくり振り向けばそこには微笑む先生が佇んでいた。
相変わらず乳首は光ったままだ。
先生の隣には紬さんが口を真一文字に結び腕を組み此方を見つめてくる。
ああ、とても怖い。


「え、いや、あの、早朝の掃除が、あるので」

「今は深夜の3時だ。今からお前は掃除をするのか?」


選択肢ないじゃん。

紬さんに首元を再び掴まれ、私はあの忌々しいソファまで戻されてしまった。

もうこのソファ座りたくない。
顔半分まで毛布でくるまり、なるべく相手が見る面積を少なくするように努める。
隣に紬さんが座り、いよいよ逃げ場はない。
なんでこんな事に。
思わず溜息を一つついた。

そんな落ち込む私を他所に、目の前の窓枠に先生がもたれかかる。
手には紙袋。
先程、紬さんから預かった物だろう。


「新入りくん、これは分かるかい?」


先生が袋の中に手を突っ込む。
そこから出てきたのはこの学園のセーラー服。
マコちゃんが着ているのとは少し違うデザインのようだ。
マコちゃんのは上下とも分かれているタイプのものだが、先生が取り出したのはワンピース型。

何故先生がこれを持って来たのか、ひたすらに謎で、思わず首を傾げてしまった。


「え、え、これが、なにか?」

「一つ星極制服。これを今着て欲しい」

「へ、変態だーー!!!」


思わず叫んでしまった。

これはだって仕方がない。
誘拐されたあげく、その誘拐した人間に制服を着ろだなどと、変な性癖の方としか思えない。
もし、それを着た後は私はどうなるんだろう。想像したくもない。

拒否の意思を示せば、先生はどうしても私に着ろと言って聞いてくれない。

そういう性癖を差し向けるなら、私みたいな汚い女に言わなくてもいいじゃないか。
私より可愛い子は腐る程いるだろうに。

怖くなって、慌てて立ち上がり再び出口へ走るが、
案の定紬さんに首元を掴まれて再びソファに無理矢理座らされた。

もう首は限界です。


「君はただこれを着てくれればいい。そうすれば今日の所は家に帰そう」


嫌がる私に先生はいつも以上に優しく声をかけてくる。
真剣な顔でそう言われ、泣きそうになるのをグッと堪えて小さく頷いた。
いや、頷くしかなかった。
何故なら、今の言葉の意味は着ないと返さない。そういう意味合いだったからだ。

差し出されるパリッとした制服を私の汚い身体で汚したくなくて、毛布に手を包んで受け取る。
その毛布を頭からすっぽり被る。

また毛布の中で着替えなくてはいけない日が来るなんて…。

制服がワンピースタイプのもので助かった。
上からすっぽり被ればそれで終わる。

それにしてもセーラー服だなんて、中学生以来だ。
高校はブレザーだった。懐かしい。
しかし、今の私が着たらただのコスプレだ。

そんな事考えながら一瞬で着替え終わり毛布から出る。


「これで、いいですか…!?」


出た瞬間二人から無言でガン見される。

え、なに、着せといて感想なしかよ。
泣くぞ。いよいよ泣くぞ。

もう脱いでやる、そう思い再び毛布に潜ろうと決めた。

その瞬間、

着ていた制服が消えた。



「…へ?」


自分の身体を見る、触る。
先程まであった制服は確かにそこにはなく、あるのは自分の肌。


「見たか?紬」

「ああ」


瞬間、自分の今の姿を理解し、
顔が一気に熱くなる。


「うわぁあああ!!!!!」


隣にいる紬さんと目の前の先生に
グーパンチをくらわし、毛布を纏い泣きながらその場を後にした。






「…紬、これで分かってくれたか?」

「…ああ、確かに、アンタの言うとおり服がバラバラになったな」


殴られた頬を撫でながら美木杉は黄長瀬を見る。
黄長瀬は殴られたダメージが対してないのか平然としていた。

そして、時計を見た。


「時間にして約30秒」

「!、流石だな紬。バラバラになる時間を計っていたのか」

「確か、アンタの服は直ぐにバラバラになったんだったな?」

「ああ。生命繊維10%の一つ星極制服が30秒なのだとしたら、僕の服はせいぜい1秒と言ったところかな」


紬が座るソファの横へと腰をかけた。

憶測にはなるが、二つ星は1分、三つ星は1分30秒。
そして神衣は5分、ということになる。

しかし、これでハッキリした。


彼女には生命繊維の活動を停止させる力がある。


それが何故なのかは分からない。
しかし、力を持っているという事だけは事実。

そして更にわかった事が二つ。
発動条件とそれに伴うデメリット。

発動する条件は「生命繊維を直に肌に触れされること」。

大きな力だがそれ故にデメリットもある。
それが「織り込まれた生命繊維の量に併せて時間が発生すること」。

非常に大きなデメリットだ。
しかし、そのデメリットに見合う力なのは確か。

これが生徒会の連中に知れたら一大事だ。
彼女は捕まる可能性が高い。

それだけは、阻止せねば。

奴等の野望を阻む手は、より多いに越した事はない。


「…紬」

「…言いたい事は分かってる」


紬は黙って立ち上がり、この場を後にした。
学校では自分が監視出来るが、本能町での監視は流石に出来ない。
その監視を変わりに頼もうと思ったのだが、自分の意図を汲み取り何も言わず引き受けてくれたようだ。

本当に頼りになる。


「さて、これから忙しくなるな」


再び学校で会うその時間まで、
ソファに寝転がり仮眠をとることにした。



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