ただ、"好き"なだけ
ED1手前、捏造
「じゃあなお嬢、また明日!」
そう言って別れたのはまだ10分も前のことだった。自室に戻って服を着替えて、ふぅ、と息を吐き出した瞬間。ああ、またお嬢に会いたいな…なんて思ってしまった。気付けばいつもそうだ。ふとした瞬間、いつもいつも脳裏に浮かぶのは、愛らしいお嬢の微笑みとか、唇を尖らせて怒った横顔とか、俺の名前を呼んで駆け寄ってくる姿とか。とにかく、お嬢のことばかりが浮かんでどうしょうもなかった。 こんなのは生まれてはじめてのことで、それが意味することをイマイチ理解できてないけど。
ただ今、解るのは。 今すぐにでも会いたい、これだけで。
「…明日まで待てないとか、何なんだよこの気持ち」
自分の小さな声が静寂な世界で響いた。 生まれてはじめての感情だけど全然嫌じゃなくて。それどころか、あの微笑みとかを思い出すとまるで浮き足立つみたいなフワフワした気持ちになって、心が、あったかくなった。 さっきまで会ってたのに迷惑かもしれない、なんてことを一瞬考えたけど自分の気持ちには嘘をつけなくて、気付いたら部屋を飛び出してお嬢の部屋へと走っていた。
(人目、見るだけ)
(さっき、"おやすみ"って言ってなかったし)
そんな言い訳を心の中で唱えて思わず笑ってしまった。 着いたお嬢の部屋の前で息を整えて、軽くドアをノックしてみるともう聞きなれてしまったソプラノがドアの向こうから聞こえてきて。顔も見てないのにそれだけで、ドキドキしたりなんかして。「お、俺だけどっ」と、上擦った声が出てしまった。
「リベルタ…、どうしたの?」
「え、あ、いや…っ!」
「……?」
「その、えーっと…まだ、言ってなかったから、さ!」
「え、なにを…?」
「お嬢に、その、"おやすみ"って…」
「……………」
素直に"会いたくて"なんて言えるはずもなくて。心の中で唱えた言い訳を思わず口にすると、お嬢は呆気に取られたように少し驚きながら俺を見上げていた。 何だよその言い訳、バカじゃん俺! そんなことをやっぱり心の中で突っ込んでしまいながら、乾いた笑みでアハハ…と笑うと。急に来てしまったことを後悔した。やっぱ迷惑だったかもしれない。夜遅くに、しかもたかが"おやすみ"を言うために部屋にまで来るとかウザいとか思われたかもしれない。とにかく失敗した!と内心頭を抱えた俺に、お嬢は次の瞬間、ふんわりと微笑んだ。
「わざわざ言いに来てくれたのね、ありがとう、リベルタ」
「…へ?あ、…いや、うん、……てかお嬢、迷惑じゃ、ないのか?」
「なんで迷惑、なの?」
「だってさ、"おやすみ"言い忘れたくらいで部屋まで押し掛けちまったしっ!」
「驚きはしたけど、迷惑なわけないわ」
「…っ、そ、か! うん、ならいいんだけどさっ!」
前言撤回! やっぱ来て大正解だったな、俺っ! ガッツポーズを決めてしまいたいくらい一気にテンションが上がった。 ついヘラッと緩みきった笑みを浮かべた俺にお嬢はクスリ、と小さく声を漏らすとさらに俺を喜ばせる発言をした。
「さっきまで会っていたのに、またリベルタに会いたいな、って…思っていたから嬉しい」
「っな、っ、!!」
嬉しさと驚きがごちゃ混ぜになって声が出なかった。今、何て言ったんだ?"会いたいなと思った"って言ったか?なんだよそれ、これ夢?願望?なんて意味の解らないことをグルグルと働かなくなった真っ白な思考の片隅で考える。ヤバイ、…すっげえ嬉しい。今すぐにでも、抱き締めてしまいたくなるくらい。 けどそんなことしたらルカに何されるか解らないから思い止まる。そのかわりに、俺の素直な気持ちを言葉にした。
「俺も、お前に会いたくてさ。おかしいよな、さっきまで会ってたのに!でも、お嬢に…会いたかったんだ俺も」
「そうなんだ、…私だけじゃなかったんだ」
はにかむように笑うお前がすっげえ可愛くて。 ああやっぱ抱き締めたいな、なんて思う。 ルカに何されてもいいから、今すぐ、触れたいなって考えて。…やっと俺、わかったんだ。この気持ちが、なんなのか。 答えはこんなにも、簡単だったんだって。
それは、うまれたての「恋」だったんだ。
別れた瞬間会いたいなんて (、お前(あなたに)恋してたんだ)
Thanks:Largo
>>>あとがき
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