ただ、"好き"なだけ



月華繚乱、侘助のモノローグ的な過去捏造
ヤンデレで壊れ気味注意





それは些細な切っ掛けだった。俺にはそれはもう目に入れても痛くないほど可愛がっている妹がいた。名前は、なずな。名前の意味は聞いた話だが"なでたいくらい可愛い"という意味があるらしい。
全くその通りで、兄である俺が言うのもなんだがなずなはとても可愛くて可愛くて仕方がなかった。
それこそ、誰にも奪われてしまわぬように箱の中に閉じ込めてしまいたくなるくらいに、だ。



中学に上がったばかりの頃。なずなとツーショットの写真をいつも離み離さず生徒手帳に忍ばせていた。いつでもアイツの姿を目に焼き付けられるようにするためだった。そんな俺に、ある日友達が言った。その言葉が、引き金になるなんて思いもしなかったが…ああそうだったんだと納得もする自分がいたんだ。



「なあ、侘助」

「んー?なんだよ」

「……お前それってヤバイんじゃないか?
要は妹が好きってことだろ、"女"として、さ…」



云いにくそうに、けど確信しているような口振りでそう告げた友達に、一瞬だけ思考が真っ白になる。俺が?妹だぞ、なずなは。それを女として好き、なんて。そう心の中で否定してみたが、それはあっさりと覆った。ああそうか、俺は好きなんだ、なずなが女として。そう考えればピッタリと自分の中でしっくりときた。考えるまでもなかったのだ。誰にも触れさせたくないという独占欲。メチャクチャにしてしまいたいと思う支配欲。それはもうアイツが俺の妹になったあの日から、ずっと感じて、思ってきたことだったからだ。
けどそれを肯定することなんか出来やしない。
もしここで肯定したら、きっと俺はなずなから引き離されて一生会えなくなるかもしれない。それだけは避けなければ。



「ハハッ…んな訳ないだろ。確かにアイツは可愛いし好きだけど、それは妹としてに決まってるじゃないか。まあ、シスコンってのは認めるしかないけどさ」



このときからだ。
俺は人を欺く術を覚えた。
アイツのよき兄として振る舞うことを覚えることが兄妹としてアイツにしてやれる最善だと思ったからだ。
何処までも爽やかにスマートに。それなりに完璧な兄を演じてさえいればアイツだって俺を大好きなお兄ちゃんだと慕うだろうし、俺はそれに漬け込んでアイツをめいっぱいに可愛がってやれるし愛してやれる。多少過剰なスキンシップだって仲がいい兄妹だと思われる程度だろう。
俺が何を考えて何を思っているか、なんて。


―――…誰も、気付くわけがないんだ。

















「お兄ちゃん、恥ずかしいよ…」

「なんで?
これはデートなんだから手を繋ぐくらい普通だろ?」

「そう、かも…しれないけど…わたしたち兄妹なんだよ?」

「…兄妹、ね…」



なずなが転校してきて。
変な倶楽部に入ることになったときは自分の不運に呆れもしたが…今となれば幸運だった。何故なら俺は兄としてではなく、デートの相手としてお前に触れられる。それがたとえ、恋愛の真似事なんだとしても。それでも良かった。手を握って学園内を歩けば、なずなはソワソワとして視線をさ迷わせている。微かに紅潮した頬を見れば兄であるはずの俺を意識しているのは一目瞭然で。自然と俺の口許はニヤリと綻んでいた。



妹に恋愛感情を抱いていると自覚してから気持ちは冷めるどころかますます好きだって気持ちが増すばかりだった。一日の大半をなずなのことを考えて、なずなをどうやって手に入れるか。俺のことを好きになってもらうにはどうしたらいいのか。そんな浅ましいことを考えてばかりいた。そして悪化した今では。
なずなにキスをしたい、抱きたい、メチャクチャにして啼かせて喘がせて…俺の手で女にしてやりたい、そんな汚い欲望すら抱いている。
他の女なんて要らないし、触れたくもない。
なずな以外はすべてが真っ黒で俺にはなんの意味もない。けど、もし、なずな…お前が手に入るなら。


きっと俺は、他の女をいくらでも抱くしキスもするし酷い男になれるだろう。
俺にとって他人の評価なんかどうでもいい。
なずなさえ、手に入るなら…俺は最低な奴にだってなれるし、極端な話、誰を殺したって構いはしないんだから。



「なずな」

「なあに、お兄ちゃん」

「お前は、お兄ちゃんが好きか?」

「…え…、あ、…当たり前だよ…どうして、そんなこと聞くの?」

「別に、意味なんかないけどさ。ただ、確認したかっただけだよ」



兄想いの優しくて聡明で可愛い俺のなずな。
優しくて爽やかな俺をお前は信じてくれているんだろう。でも、ごめんな。
俺は爽やかでも優しくもないんだ。心の中は泥のような汚い感情でいっぱいなんだ。けど、お前なら。
どんなに汚い俺でも、受け入れてくれるよな?


だから。
もうそろそろ仕掛けようか。お前に手を出す奴を片っ端から排除して、そして…お前を俺でいっぱいにしてやる。心も、躰もぜんぶ俺にしか感じられないくらいに。
く。



―――としてやる。
俺と同じところまで早く堕ちて、…俺の。
……俺の愛しい、なずな。






(堕ちたお前を俺は喜んで受け入れてやるよ)



お題拝借:コランダム




>>>あとがき







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