ただ、"好き"なだけ



ノヴァED1から一年後。
リベルタ→→お嬢で悲恋





今日も快晴が広がるレガーロ島の市場で俺好みの面白い仮面を見つけた。斑模様で少し不気味な色合いをした今まで見たこともない仮面だ。
仮面を集めるのが趣味である俺は少しばかり値が張ったけど、もう今買わないと手に入らないと言い切った店主が高らかにそう言うもんだからその誘惑に見事負けてしまい今俺の手には不気味な仮面があるわけだ。血迷ったか…と若干後悔もしたが買ったものは仕方がないし、ダンテに見せればまた呆れられるんだろうなと想像できてしまうが、お嬢だったら呆れつつも、「良いもの買ったね」と言ってくれる気がして、意気揚々とレガーロ島を走り抜けて館を目指した。


館に着いてお嬢の居場所を従者であるルカに訪ねてみたところ、どうやら部屋にいるらしいと聞いた。手に持っていた仮面を見たルカは引き吊った笑みを浮かべて、「またすごいものを買いましたね…」とやっぱり呆れ気味だったけど俺にはそんなのどうでも良かった。ただ早くお嬢に見せたくて、何より俺が早く会いたくて目当ての部屋の前まで来てみたら、中からお嬢と誰かの声が聞こえた。
聞き覚えのある声の主は、ひよこ豆のノヴァだ。
お嬢の部屋にノヴァがいるのは不思議なことじゃないし、聖杯の仕事のことでも話しているのかもしれない。堂々と部屋に入っていけばいいのに…俺はその場に立ち竦んで動けなかったんだ。


二人の会話が、聞こえてしまったから。




「フェル、明日の約束…覚えているんだろうな?」

「もちろん、覚えてる。
……付き合って1年の記念すべき日だもの」

「なら、いいんだが。
…お前は時々、危なっかしくて抜けてるからな」

「そんなことないわ、最近じゃドンナとしてしっかりしてきたってルカも誉めてくれるんだから」



楽しそうな会話。
いつも誰に対したって常にクールな態度を崩さないノヴァが唯一穏やかに優しく話す声。そして俺は思い出した。ああ、そっか…お嬢とアイツは付き合ってたんだってこと。一年前のアルカナ・デュエロで優勝したお嬢はドンナの地位を、ノヴァは…そんなお嬢の恋人になったんだってこと。グッと唇を噛み締める。解りきっていたじゃないか。何で俺は、忘れたりしてたんだ。あまりに毎日が穏やかで楽しくて幸せで。お嬢もアイツも普段は普通だから忘れてた。俺の入り込む隙間なんて、何処にもあるわけが、なかったんだってこと。
ぎゅうっと、痛み出す心を抑えようと服を掴む。
痛くて苦しくて息が出来ない。それを必死にただ、ぎゅうっと、すべての痛みを吐き出すように息を吐いて耐えた。



(カッコ悪いよな俺、)


(なんで、大事なこと忘れてたんだよ)


(今ごろ思い出すなんて、バカじゃん…俺)



最悪だった。
バカみたいに浮かれてこんな仮面買ってお嬢に見せようだなんて。見せたところで今更、俺とお嬢の距離がこれ以上深まるなんてこと、あるわけないのに。
ぼんやりと立ち竦んで動けない俺は、部屋から出てきたノヴァの気配すら気づけなかった。



「…何、やっているんだお前は…」

「……あ、い、や…」

「フェルに用があったんじゃないのか?」

「あー…まあそうなんだけどさ!まさかひよこ豆がいると思わなかったから部屋に入りそびれちまってさ」


「……ひよこ豆と呼ぶな、バカが。それに僕はずいぶんと背も伸びたんだ!
いいか、今度そう呼んだら…容赦しないからな」

「へいへい…悪うございましたー!」



最悪なタイミングで出てきたノヴァに悟られまいといつものように振る舞う。
確かにこの1年で随分と身長が伸びて俺とほぼ同じくらいだ。くだらないやり取りの会話をしていると中からお嬢が顔を覗かせた。あの頃よりずっとずっと綺麗になったお嬢。俺の、大好きな女の子。



「…リベルタ?」

「あ、お嬢!」

「何してるの?
用があるなら部屋に入っていいよ?」

「あー…別に対した用じゃないんだけどさ!
……やっぱいーや、また今度にする!俺、お邪魔虫みたいだし!んじゃ、またあとでなお嬢!」



ひよこ豆もまたなー!
と、明るくいつものように笑う俺は滑稽で。
バカみたいに必死に取り繕う自分を想像して心ん中で自嘲した。バカだ、ほんとうに俺はバカだ。手に持っていた仮面を地面に叩きつけてしまいたかった。けど汗水垂らして稼いだ金で買った仮面をそう易々と壊せはしなくて。コレクションがまたひとつ増えたことは嬉しいけど。この仮面を見るたびに今日感じたこの痛みを思い出すんだと思うと、粉々に砕いて壊してしまいたかった。





(君を好きでいるかぎり、
ずっと、いつまでも)




>>>あとがき







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