ただ、"好き"なだけ



終夜帰還ED10年後
終撫←←←理一郎、ネタバレ





今日は朝からワイドショーが騒がしかった。
いつもより少し遅く起きた朝、習慣になった動きでテレビのリモコンを入れてみたら。まるで世界の一大事とでも見紛うほどにワイドショーはただただ騒がしい声と動きを映し出していた。
テロップには、"大人気タレント・時田終夜結婚""相手は九楼財閥の令嬢・九楼撫子さん"とデカデカとあった。
一瞬、息をするのを忘れそうになった。
アイツが、撫子が結婚する。数ヶ月前、確かに終夜から結婚すると言う報告はもらっていた。けどそれは、まだ先のことだろうと思っていた。
けれど、画面に映るのは結婚記者会見を開いたらしい映像が流れていて、そこに映る撫子もそして終夜も幸せそうで。



(ああ、とうとうこの日が、来たんだな)



凍りつくような思考の片隅でそんなことを思う。撫子と終夜が付き合い出した10年前。あの時は、まだ何処かで思っていた。俺にも、まだ入れる隙くらいある。薄汚い、感情だ。友達として、幼馴染みとして二人を応援しているフリをしながら俺は、そんなことを考えてた。幼い頃からアイツのとなりには俺がいて。殺伐とした意識でも、俺は、撫子のとなりにいて、アイツは俺のとなりで笑ってて…いつか、幼馴染みじゃなく恋愛感情で俺を意識してくれるだろう、なんて思っていたりもして。
なのに、撫子が選んだのは終夜で。



「……まだ大学生じゃないか、結婚、なんて早いだろ」



天を仰ぎ見ながら、そんなことを呟いていた。その声はいつになく覇気もないし弱々しい。自分で言うのもなんだが、俺のガラじゃない声だ。報告を受けてから気持ちの整理はつけたつもりだった。でも、まだ先だと思ったから…急すぎて思考が追い付かないのも事実で。大学はどうするんだとか。この時期に結婚するのは妊娠したからなんじゃないのかとか。頭の中がただ、グジャグジャでどうしたらいいか、わからなくなった。
終夜はいい奴だし、アイツを大事にしてくれている。それは認めるしかない、けど、現実を受け入れることが俺にはまだ出来なくて。
これ以上映像を見ていられなくなってテレビを消せばやっと静けさが戻ってきて、やっとの思いで息を吐き出した。



祝福してやらなきゃならないことくらい、ちゃんと頭では理解してるんだ。それこそ10年も前から。でも、まだ、「おめでとう、幸せになれよ」なんて心から言ってやれることが今の俺には出来ない。いや違う、言えるわけがないんだ…それはもう永遠にアイツが…俺のものにはならないと認めてしまうことだから。なんて俺は女々しい奴なんだろうと自嘲気味の笑みが零れた。好きな女の幸福さえ願えないなんて。俺は何処まで心が狭くて腐っていて最低なんだろうか。
幼いあの頃はアイツの幸せが一番の願いで、アイツが微笑んでいるその表情を見ることが俺の幸せで、それは大人になっても変わってはいないはずなのに。
壁に飾ってある写真立てには照れくさそうな表情を浮かべた俺と、撫子の小学校の卒業式に写した写真が色あせることなくそこにあって。泣きたくないのに、思わず泣きそうになった。
その時、ふいに携帯の着信が鳴ってハッと息を飲んで、ディスプレイを見てみたら鷹斗からの電話だった。



「…もしもし」

「あ、理一郎?おはよう。
今、ワイドショーで撫子と終夜の結婚のが流れてて、」

「……知ってる、今見てた」

「あ、そうなんだ。
なら話は早いね、それで寅之助や円や央とも連絡とって話したんだけど二人の結婚祝いのパーティ開こうかってなったんだけど…理一郎も参加するよね?」

「……………」

「…えっと、ごめん」

「なにが」

「うん、…理一郎の気持ち、僕にも少しは分かるから、かな」

「なんだよ、それ…」

「僕だけじゃないよ、きっとCZメンバーの誰もが、理一郎と同じ気持ちだと思うんだ。
それでも、僕たちが祝福してあげないと、さ」

「…参加、するよ」

「無理はしなくていいよ、…でも、そう言ってくれて嬉しいよ。
やっぱり、CZのみんなでお祝いしてあげたいから」



鷹斗はあの頃からなにもかわってない。
お前だって、アイツが好きなくせに、それでも撫子の幸せを一番に考えてる。俺と、違う、俺はお前みたいに強くはなれない。日時は決まったらまた連絡する、そう言って電話を切った鷹斗に俺はもう一度、天を仰ぎ見た。小さいころから流していなかった涙が今度こそ雫になって流れてしまった。



(言えない、)

(おめでとう、なんて、言えない)(けど、お前が幸せになるのは、俺の願いだ)



これから先も、ずっとずっとそれだけは変わらないもの。
だから、まだ心から祝福してやれることは出来ないかもしれないけど。
それでも俺は、撫子、お前に言うよ。



―――誰よりも幸せになれ、って。





(俺が、幸せにしてやりたかったけれど)




>>>あとがき







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