13番目の、(3) | ナノ


13番目の、(3)


「―――で、散々殴って蹴って? 最後はあの大人数で輪姦して? 朝になったらそのまま放置したんだっけ? …ねぇ、先に裏切ったのは貴方達でしょう?」

「………っ」

「ふは、なんですかその顔。それで赦されると思ってるんですか?」


そんな、痛みを堪えるような顔。今していいのは、この場で唯一、俺だけだろう?


「…ナギ……」

「………」


総長が搾り出すような声で俺を呼ぶ。
ナギ。
総長が、夜の俺にくれた名前。何事にも動じない静かな瞳が、まるで凪いだ海のようだからと。
その名前は、確かに俺の誇りだった。
だけど、


「……『13番目』で構いませんよ、総長」


あの日、あの時、貴方が俺を『13番目』と呼んだ瞬間に、


「俺は今日、謝罪を求めに来たんじゃありません」


きっともう二度と『ナギ』には戻れないと、


「真実、ユダになりに来たんです」


貴方を慕っていた『ナギ』ではいられないのだと、気づいてしまった。

微笑んだまま、更に彼らに近づく。

かつり、かつり。

どんどん顔色が悪くなる幹部と、盾をなくして一人うずくまる青の天使。そして、漆黒の双眸で俺をじっと見つめる総長。
さようなら、『ナギ』の居場所。

動けずにいる総長の前に膝をつき、目線を合わせる。
久々に間近で見た彼はやっぱり綺麗で、そんなことを考えた自分に苦笑してその頬にそっと手を添える。


「…――――――、」

「………!!」


総長だけに聞こえるように囁いた言葉に彼が瞠目した瞬間、その唇に自分のそれを重ねる。
幹部達は言葉をなくし、青の天使はぎゃあぎゃあ喚いているけど、邪魔しないでほしい。これは、神聖な裏切りの儀式なのだから。


「―――へェ、そいつかァ」


ふいに背後から響いた声。唇を離せば、後ろで呆然としていた幹部の一人が口を開いた。


「なんで…"カーム"のリーダーが此処に…」


"カーム"は数ヶ月前に結成されたチーム。圧倒的な力とカリスマ性で、今やこの辺りのトップだ。
そしてそのリーダーは、


「…兄さん」

「よぅ『ユダ』、お話は終わったかァ?」


タバコをふかしながら近づいてきたリーダー…もとい俺の実の兄に、美形大好きな青の天使はすぐさま反応した。


「た、助けて下さい! 僕、何もしてないのに、そこの平凡が…っ」

「…平凡、だァ?」


お得意の上目遣いと猫撫で声で兄さんに擦り寄ったあいつはしかし、俺を平凡呼ばわりした瞬間に横にぶっ飛んだ。否、正確にはぶっ飛ばされた。
その一撃で気絶したらしい青の天使の頭を踏みにじって、兄さんはイビツに嗤う。


「誰が平凡だって、あァ? こいつが世界一可愛いに決まってンだろーが、その節穴な目ェ刔ってやろうか」


何故か盲目的に俺に執着する兄さんは、半年前の事件を機に留学先から帰ってきて、"カーム"を作り上げた。この日、このたった一日のためだけに。
カーム――calm。すなわち、"凪"。


「――まァいいか。おい、連れてけ」


その一声で倉庫の中に続々と"カーム"のメンバーが入って来る。総長や幹部達がいくら喧嘩に強いといっても、多勢に無勢。抵抗虚しく彼らは外に連れ出された。今から、兄さん主催の制裁が待っている。―――俺が口づけで示した総長には徹底的に。


(これでいい、)


謝罪なんてさせてやらない。
彼らが呼んだ通りの裏切り者になって、十字架を背負わせたまま苛んでやるんだ。


「気分はどうだァ、『ユダ』?」


人気のなくなった倉庫に兄さんの声が反響する。俯いていた顔を上げれば、自分とはまったく似ていない綺麗な顔が、昏い悦びに歪んでいた。
するりと頬を撫でられ、身体が震える。


「取引内容、覚えてるよなァ? オレは『30枚の銀貨』を払ったぞ? 解ってるだろォ?」

「………」


俺は何も言わず、目の前で嗤う兄さんの首に腕を回した。







13番目の、裏切り者
(それは喜劇の幕引きの言葉)
(『愛してました』、)







終了!!
最終的には兄×弟で。
30枚の銀貨=復讐の手伝い、みたいな…
手伝う代わりにオレのもんになれ的な取引をしたんだと思います。
ユダのイエスに対する裏切りをなぞってみたんだが分かっていただけたかしら。
サイト名にも係る話だったので楽しかったです。
お付き合いいただき感謝!!



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