◎ 13番目の、(2)
※暴力表現注意
いつも通りの夜だった。
放任主義な家を抜け出してお気に入りのPC片手に溜まり場に向かい。
まだ人気のない倉庫、その隅に作られた幹部専用のスペースでPCを開いて、メンバーが揃うのを待つ。
それは、いつも通りの夜の、はずだった。
たん、とエンターキーを叩いて顔を上げる。
…今日は、なんだか騒がしい。誰かが大声を出している訳じゃないけど、溜まり場に来たメンバーはずっとざわざわしてる。…遠巻きに俺の方を見て。
(俺なんかしたっけ…?)
首を傾げると同時に、倉庫の入口がけたたましい音と共に開いた。
目を向ければ、総長と自分以外の幹部が全員揃っていた。
珍しいこともあったもんだと思いつつ、とりあえずあいつがいないことを確認する。
あいつ。数週間前に突然現れた少年。青の天使と呼ばれ、うちの幹部を尽く骨抜きにした猛者。
俺からしたら、あいつは自分勝手な正義を振りかざすただの我が儘なガキだったし、正直素性も怪しかった。それでもあいつについて何も調べていないのは、あいつを連れて来たのが他でもない総長本人だから。
俺は総長を誰より信頼している。なぜなら、自分も総長に信頼されているという自負があるから。
それなりに大きいこのチームの情報を俺一人に任せてくれるのも、その証拠だと思ってる。
そんな総長がいつになく険しい表情をしている。嫌な予感がして反射的にPCの電源を落としたと同時に、総長の後ろから副総長が顔を出した。
「…よくもまあ、平気な顔して居座れるもんだねぇ」
「はい…? 何言ってんスか副総ちょ、」
「しらばっくれても無駄だよぉ。オレらはぜーんぶ知ってるんだからぁ。ねぇ…『13番目』」
「!?」
13番目。その裏切り者の代名詞を使われる理由が解らなくて思わず固まった俺を、他の幹部が掴み上げる。
「裏切り者には――制裁だ」
―――それからは、ただひたすら、暴力の嵐だった。
もともと戦闘要員ではない俺が抵抗できるはずもなく、殴られ蹴られるままでいるしか道はなかった。
朦朧とする意識の中、俺をひどく詰る幹部の言葉から分かったのは、どうやら俺は数日前の情報漏洩の犯人だと思われているということ、そしてそれを吹聴したのが青の天使だということ。
謀られたと気づいても時既に遅く……もう誰のものかもわからない蹴りが腹を刔った。
「ぐ、ぁ……っ」
「立てよ13番目、この裏切り者!!」
「お前がそんな奴だとは思わなかったぜ!」
「……は…っ、げほ、…っ」
漏れる喘鳴を抑えて首をもたげる。視界の隅にあの人を捕らえて、俺は動かない身体を叱咤してはいずり始めた。
(総長……そうちょう)
他の誰に疑われても罵られても構わない。ただ貴方には、貴方だけには信じていてほしい。
俺じゃない。俺はやってない。あいつが、総長が連れてきたあいつが―――
「そ…ちょ……」
痣だらけになった腕を必死に持ち上げる。
届け、届け。
この手をとってくれなくったっていい、ただ、届きさえすれば。
貴方が与えてくれた居場所を他の誰かに奪われたくないんだ。
「そう、ちょ…っ」
縋るように伸ばした手は、
いとも簡単に、振り払われた。
「触んじゃねぇよ、13番目」
その言葉が、全てだった。
「おい、全員聞け。参加したい奴はしろ。あとは――好きにしていい」
メンバー全員に向けられた総長の指示に、倉庫全体が妙な熱気に包まれる。
その空気の中、総長は踵を返して去っていく。
彼の後ろ姿を見つめる。
自分に向かって伸ばされるたくさんの男の腕を逃れる術などない。
貴方の背中は、遠かった。
13番目の、独白
(それは絶望よりずっと深く)
終わらなかった…
過去編みたいになってしまった。次で終わります
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