ビューティフルデイズ | ナノ


ビューティフルデイズ



なんてことない日常が、
ああこんなにも、美しい。



◇ ◇ ◇



誰もいない放課後の教室。
机に頬杖をついてぼんやりと外を眺めていると、ふいに扉ががらりと開いた。


「わっりぃ悟、遅くなった! 委員会なかなか終わんなくて…」


言いつつ教室に入ってきた康彦に、立ち上がって応える。


「気にすんなって。俺も担任に呼ばれてたし…とにかく帰ろう」

「おう!!」


嬉しそうに笑って、康彦は俺の隣に並ぶ。

委員会であの後輩がこんな馬鹿なことを言っただとか、隣に座ってた女子に消しゴムを貸してもらっただとか、今日の授業で先生がしたモノマネは全然似てなかっただとか、どうでもいい、日常的な些細な出来事。
それでも康彦がそれを語っているのを聞くのは楽しくて、帰り道は二人でいつも笑い合っていた。
そしてそれは今日も同じ。


(……楽しい、なぁ)


ふとそう考えて足が止まる。


「ん? 悟、どうした?」


振り返って笑う康彦。
その後ろでちょうど夕日が沈もうとしていて、


(綺麗だ、)


春に染めたばかりの茶髪が光を受けてきらきらと透けるようで、「美しい」ってこういうことなんだと納得してしまう。





『――しっかり養生してこいよ、杉下。それでさっさと戻って来い』

―――無理だよ、先生。

『俺も、クラスの皆も、待ってるからな』

―――俺はきっともう、学校に戻れない。





「おーい悟? さと…ってお前泣いてんの!?」

「うっ…せ、馬鹿。夕日が目に染みただけだっての」

「ぶ…っ、おま、それどんな青春漫画だよ!!」


けらけら笑うその頭をはたいて、もう一筋、涙が流れるのを感じた。

ああ、康彦。
俺、お前ともっと、「青春」したかったよ。



◇ ◇ ◇



三ヶ月前、自分が病気にかかっているのを知った。全身の筋肉が少しずつ動かなくなって、やがては呼吸も止まるんだそうだ。
体力的に学校に行けるのはあの日が限界だった。担任にだけ事情を話して休学扱いにしてもらった俺は、今はこうして病院の個室で天井を見つめている。

友達には誰にも教えていない。同情されたくなかったし、弱っている姿を見られるのも嫌だった。担任にも口止めしたからこの病院に訪ねて来ることはないだろう。

ゆるりと首を回して窓の外を見た。夕焼けを映した橙色の空に、あの日の風景を鮮やかに思い出す。

夕日に溶け込んでいたあいつの笑顔。


(…康彦、怒ってるかな)


親友のあいつにすら何も言わなかった。感情表現が豊かなあいつのことだ、怒るにしても泣くにしても思いっきりやるんだろう。


(きっと、もう、会えない)


最近は起き上がるのさえ億劫になった。家族や看護師にどれだけ励まされようと、自分が弱っていっていることは自分が一番理解してる。

ああ、最期のときも、こんな夕焼けを見たい。

そんなことをふと考えて、窓を隔てた世界に広がる色が滲む。


「……やす、ひこ…」


何より大切なお前に似たこの色に看取られたいなんて、

あまりにも、贅沢な望みだけど。







Beautiful Days
(お前と二人、過ごした日々)






これはBLなのか…?
いやでも友情でもいいと思う。
一応康彦×悟です



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