◎ 13番目の、
かつり、かつり。
わざと靴音を響かせながら近づけば、視線の先の彼らは怯えるように、はたまた威嚇するように身構えた。
「…てめぇ、13番目。何しに来やがった? ここにてめぇの居場所なんざねぇんだよ」
「………」
『13番目』。
それは、このチームにおいて裏切り者に与えられる名称だ。数代前の宗教カブれの総長が呼びはじめたのだと聞いた。
そして俺は、半年前にその名を負ってこのチームから追放されたのだ。
全ての原因はそう、あいつ。
俺を睨む総長の腕の中で身体を震わせる、あの男。
「ふは…何しに来たかって? 愚問ですよ総長、解っているんでしょう?」
殊更丁寧な口調で話せば、総長は不快そうに眉を寄せた。
そりゃそうだ、あの頃の俺ならこんな話し方はしなかった。
かつり、かつり。
ゆっくりとした足音は、さぞ彼らの恐怖を煽ることだろう。
そうだ、怯えればいい。
あの日、全てが敵に回った俺のように。
「やっと怪我が完治したんです。大変だったんですよ? 三ヶ月はベッドから出られなくて…」
「な、何しに来たの…!?」
恐怖に耐えられなくなったのか、引き攣った声であいつが叫んだ。
嗚呼、なんて耳障り。
男のくせして無駄に甲高いあの声は、いつだって俺の神経を逆なでる。
健気で気丈な美少年――を気取ってるあいつは、カラコンで青くした目を潤ませて、きっとこちらを睨んできた。
そしてその姿を気遣わしげに見つめる総長以下美形の幹部数名。まったく、あいつのハーレムごっこは未だ続行中らしい。
「―――ねぇ、知ってます? ユダってね、13番目の使徒じゃないんですよ」
「な、に言って…」
「貴方達は裏切り者の代名詞に『13番目』を使っているようですけど。イエスを裏切ったユダは12番目の使徒で、彼が死んで空いた使徒を埋めるために同行者からマティアが選ばれ、合わせて13使徒になったんです。だから、裏切り者にその呼び方は相応しくありませんよ」
「意味わかんない…っ、それより質問に答えてよ! また暁達を傷つけるの…!?」
「天使……」
淡々と事実を述べた俺、喚くあいつ、それを恍惚とした目で見る幹部達。はは、すごいカオス。
そもそも「青の天使」って通り名からしてイタいんだよ。外見に騙されて内面を見ようとしないからこういうことになるんだ。
さて、この茶番もそろそろ終わらせようか。
「貴方達のチームのメンバーは表で仲良く伸びてますよ。今後の処遇は俺次第…ああ、ご心配なさらず。貴方達はこの場で裁きますから」
「ふっ…ざけんな!! 裏切り者の分際で…っ」
「裏切り者、ねぇ…」
総長、貴方はもっと、物事の大局を見極められる人だと思ってたよ。
「それは本当に俺かな? 俺以外に、あの日その場に居なくて、情報を流せた奴は…?」
「は? そんなの…」
「ぼ、僕じゃない! 僕は悪くない!!」
「…天使?」
ああ、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまで頭が悪いとは。
今そんなことを言えば、自分が犯人だと自己申告するようなものなのに。
―――半年前、敵対するチームと抗争があった時、こちらが不利になるような情報がいくつか流れた。俺がどうにか工作して事なきを得たが、それは情報担当の俺の仕業に仕立てあげられた。
本当の犯人は青の天使――敵チームから送り込まれたスパイだとも知らず。
「情報提供のご褒美に、向こうのリーダーに抱いてもらったんでしょう?」
「な、なんで知ってっ」
「はいビンゴ」
「……!」
周りの取り巻きは驚愕に染まった顔であいつを凝視する。
残念、しまったって顔しても手遅れだ。
「じゃあ…13番目は…」
恐る恐るこちらに顔を向けた幹部に、俺はとびきりの笑みを浮かべる。
13番目の、告発者
(裏切り者はお前らさ)
うおお消化不良…!
続編書きます、これ
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