魔術、なんて面白いのだろうか。
初めて魔術というものを知った時の第一声。
いつの頃かは忘れた。だがそれまでの過程は今でもはっきりと覚えている。
父親が遺したものたちは、幼き自分の手に語り継がれたのだ。

彼は、魔術師になろうとした端くれだった。
何故端くれ等というと、それは彼がそんな血筋や家系の者ではなかったから。
魔術、というものは真理。それであって真実。
そう、頭の中で成ってはいても、それを生み出す"土台"を彼は持っていなかったのだ。

昔は魔術師や錬金術師などは幾多に溢れかえっていたのだろう。――きっと、廃れたこの町も。
しかし一人前の魔術師になる絶対条件。
それは、"血統"。
悲しいかな、彼は生まれつきそんな家庭や血筋にも恵まれていなかった。人生という行路の途中、偶然たまたま見つけたのだ。そして、叶わぬと分かっていて魅せられた人間なのだ。




空は、しずしずと暁に呑み込まれていく。
だが彼の子供は不運なのか、それとも幸運なのか。魔術ではないが、特殊な能力を得てしまったのだ。
現代人にはもう忘れ去られた、古来から伝わる能力。
それが、瞬間移動(テレポート)。
自身を瞬時に別の場所に転移を可能とし、そして他の物体さえも操る力。
上手く使いこなせば、脳で判断した物体を操ることさえも可能にする。そして他人の脳内さえも切り開かぬでも握りつぶせる。
ある意味、死神の力ともいえよう。

それを知った幼き日の自分は、好奇心でこんなことを思ってみたりもした。
"これがあれば、たくさんの人を目下における。世界だって征服できるかもしれない"
端から見ればなんと幼稚な考え。
しかし私は現在その好奇心だけで動いている。その純粋な思考でこれほどの人間を目下に置いてきた。殺してきた。邪魔なのは消した。


「研崎様」

心地の良いアルトボイスが聞こえた。
思い当たる人物、愛しき人間を宙に描く。

「どうぞ」

そう言えば、ドアを抜け、入ってくる彼。

水銀の髪を靡かせ、紅の瞳は何を見る。
巷で言えば、"美人"と類される少年は最近自分達の仲間となった人間。
銃の扱いも上手い、かといって他の道具の扱いにも手馴れていた。

「どうしたのです?」

「例の者たちが見つかりました」

初見では少女に見間違われそう中性的な顔が、そう告げる。
愛らしいその全て。
研崎竜一は彼に会う日まで、こんなときが訪れるとは思いもしなかっただろう。

死神が女神に恋煩いなどをするとは。

――ほんとうは彼の全てを知っている。彼が此処に加入した真意、彼のほんとうの出身、……全て、全てを知っている。
それならば、貴方は孤児出身と言いますが、その血はどこから来ているのか分かって居るのですか?ええ、私は勿論知っています。貴方はこの魔術が忘れ去られた時代、数少ない大魔術の血筋だと。貴方の家族などはもう居ないのも、貴方が孤児になった理由だって知っていますよ。

「そうですか。――では、早速お目にかかりましょうか。」

嗚呼、愛しき者よ。

血で血を洗うこんな浮世に舞ひらり、咲き誇る浅葱の華よ。

貴方は私を、蝕んでいく。

貴方が私を枯らせていくのならば、私は其れを静かに見届けましょう。

いつか、共に朽ち果てるまで。



その存在をころしたいほど愛してみようではないか。





(死神の愛しき戯言)