※スパイでマフィアな二人。風丸さんがちょっとキツいです。流血表現有、魔術とか出てくる



どたっ、

重苦しい音を立て、倒れていく。一人、二人、三人……数えている間にも増えていく。
発砲音が何個か宙を舞うが、どれも空振りで。
「っ!?」
気づいた頃には意識さえ宙へと飛んでいる。

からん、と床に落ちる銃。
拾上げたそのフォルムは、一見そこら辺にある銃と同じだが、よくよく見ると魔術刻印が。
足音がして、また一人屍の候補者が。
ひとつ、好奇心と実験心が湧き、現在手に取っているこの銃を試したくなった。

近づいてくる。
500cm、450cm、320cm、210cm、100cm、89cm……。
黒いスーツに黒サングラスの男が自分めがけて至近距離で同じ銃を構え、引き金を引く。
しかし、それよりも早く引き金を引いたのはこちら側で。

高々と誇らしげに音を鳴らす魔銃。
そしてその代償として大きな紅い水溜りが。
じじ、横たわった"さっきまで動いていたモノ"が微かに電流を弾けだしていた。
「……なんだ、ただの電磁砲を弄っただけのか」
そう呟いて、ちらり。たまたま自分の服に眼がいった。
べったりと部分部分赤い絵の具に塗れた服。元々が黒かった為それは更に、優雅独尊と威風堂々と咲き乱れる花。
視線を落としてみれば、水溜りに映る自分は赤に塗りなおされていて。
特に同じ色の瞳は清清しくこの風景を見渡していた。
幾何学的でゴシックな廊下。

目標まであと、この数m先の扉を開くだけ。
――そう、それだけ。

そう言い聞かせながら奔る青風を、足元の絵の具に映る彼が嘲笑っていた。




自動ドアとはまあたいそれたモノで。
「――豪く分かりやすいな」
開いた瞬間厳つい奴等が。
まあこの展開は予想範囲内なので直後3発、彼らの人数分頭にくれてやった。
ばたりと身体を仰向けに寝転んだら、やっと開くほんとうの扉。
そして、迎えたのは自分の目標。期待している表情で、奥の中央赤い椅子に腰掛けているその、顔。
何事もなかったように、
「おや、風丸君ではないですか。今日はどうしたのです?」
言ってくる、その唇。
その瞳、その首、その髪、その腕、その足、その――コヤツ自身。
自分が一番嫌いなもの。この世で、一番消したいもの。
スパイに心などが盛ることはほとんどないだろう。いや、あるかどうかさえ分からない。
しかし、この男だけは、何故かよく分からないが見るたびに腹ただしい。
この存在を消そうとするたび、浮き出てくるこの存在が。
「そろそろ、自分の立場ぐらいわかるだろ?」
カチャリ、リロードは既に完了した。
後はさっさと弾を撃ち込むだけ。気が晴れるまで奴を撃ちまくるだけ。
「そんな物騒なもの、何処から拾ってきたのです?」
「さあな。お前の部下にでも聞いたらどうだ?――いや、全部死んだか」

パァン

全てリセットされるような音がして、気持ちが良かった。
―しかし、肝心の的には当たっていなくて。
「おやまあ、狙いが定まっていないようですね」
「っ!?」
再度確認すれば、撃ったはずの場所は大きな窪みと煙を上げているが、其処は肝心のヤツからは離れていて。
糞……、取り乱したか………!
軽く舌打ちをし、もう一度撃とうとする。が、気づけば其処にその憎い顔は無く。
「駄目です。こんなものは」
「な……ッ!」
もう直ぐ目の前に存在が。そして持っていた右手に圧力を掛けられ、落とす電磁砲まがい。
ダンッと鈍い痛みを感じれば、床に落ち、転がる自分。
そう、自分は彼に押し倒されたのである。
即座に抵抗しようとすると、それ以上の力で抵抗され、最後には塞がれる唇。
熱が、温度が予兆もなしに急上昇する。
仕舞いには舌が入ってきてその熱は温度を更に増す。
「ふ…ぅあっ」
抜け出そうにも、抜け出せない。
なんて、無様で滑稽。
遥か底、隅で声が聞こえる。知らない知らない。ああ、今の俺はなんて無様だろうね。スパイの端くれかもしれないな。
そう、もがいてみても、力は気づかぬうちに自分は弱くなっていると思いはせる。
理由なんて分かるも同然。わからない方がおかしい。
どろどろに自分が溶けているのだ。色々な意味で。
彼の行為は不覚ながら自分でさえ手に負えない。
始まったら気が済むまでやらかす、それは自分が一番知っているだろう。
今日まで潜り込んで、傍に居たなら分かるだろう。目を逸らすな。
また、自分の声が聞こえる。
――しらないしらないしらないっ!!

無理やり唇を離して、言の葉を、開放の合図をぶちまけた。
「SWING!」
叫んだ瞬間、弾ける音。
研崎は、身をとっさにテレポートで移動してかわしたが、そして見えた景色。
風丸の左腕が服越しからも見えるほど、青白く光っている。
いや、詳しく言うなれば、幾何学な線青光りしているのだ。
そしてそれは指の先まで連なっており、その左腕を突き出す彼。
研崎は一瞬驚いたりはしたが、直ぐ様状況を理解し、納得という風にしていた。
「"魔術刻印"ですか……。驚きました、今ではあまり見かけなくなりましたが」
「――」
じろり、朱の瞳が憎悪を燃やしながら彼に向けられる。
肩を上下に揺らしながら、彼は言う。
「………たかがお前のようなマフィアのボスに見せるつもりも無かったがな」
「ふふ、私は嬉しいですよ。風丸君がどんどん私に心を開いてくれる事が」
「だれがいつ、心を開いたってんだ」
「――そうやって、魔術刻印のような"秘密"を見せてくれているじゃないですか。」
笑みを浮かべながら、そう言う相手。
ふざ、けるな……!!
だから狂うのだ、的が、当たらない。当てたくないという、邪心が脳裏を過ぎるのだ。
そうやって、笑顔を見せてくる度、口付けを交わしてくるたび、その身体と触れるたび。

だからどんどん、自分というものが壊れていくのだ。


「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔――邪魔!!」
ばんばんばんばんんばんんばんばん、音を靡かせても、彼に当たることは無く。いや、当てることは無く。
――ホントウハ、コレ以上愛セナイトイウ程愛シテイルノニネ。
自分の奥、真実を云う自分が居る。それでも、真実や事実だとしても、認めてはいけない。
認めたら、自分が自分で居られなくなる。

「全て、外してますよ。」

外れている、のではなく、外している。

きらいだ。こんな人。きらいきらい、きらい。
どんなに、何をしたって、あたまのなかでついてくる。
こんな人きらい。すき、だいすき。きらい。だいきらい。
こんなにも、くるしくなるこんな人なんて、だいだいだいきらい。

彼と彼との距離は、僅か数m。
走ったら何秒かの、距離。
こころの距離は、どれくらい掛かる?
ころすのと、そばに居るの、どちらが簡単?


あたたかい、温もりが0mで0cm。
ねえ、ほんとうは全部分かってる。
貴方と俺の間の距離も。
すべて、わかってる。
あっけないだなんて笑ってしまうような終わり。

「ほんとうに、貴方は愛らしいですね。風丸君」

甘い、麻酔。

こんなんじゃ、仲間に顔向け出来ない。
ならば、ころすぐらいはしないとだめだか。
お互い、堕ちた弾丸という名の愛を歌って。
ソラゴトを並べているんだ。


これ以上、これ以上貴方を愛せないから


もう、終わりにしようか。



(Yes,I'm a spy)