それは、突然の電報だった。

FFIの為ライオコット島に居る俺へと、日本に居るマックスからの知らせであった。

窓の外を見れば、広く淀みなく澄み渡った空。
まるで貴方とは相反していて。
海は宝石を散りばめたようにきらきらと輝いていて。
濃いブルーに白い光が揺らいでる。

悲しいほどのお別れ日和で。


今となっても、貴方のことは全く知らない。
その意思の強い瞳の奥にあった闇を、
どんな想いで貴方がこの髪を撫でたことを、
貴方が心から、ほんとうに俺を愛していたかも、
全て、ぜんぶ分からないのです。


「………」



白いカナリアが、高らかに空を舞う。
とある賛美歌を謳いながら。


想えば貴方は、あの頃何時も俺の傍に居ました。
幾度も貴方が俺に触れようとも、貴方の心までは触れられなかったのでしょうか。
貴方は俺達が知らない所で、どんな想いをあの石に込めたのでしょうか。
しかし、その答えは分からずじまいになってしまいました。

そういえば、貴方はあの日仰っていましたね。この世界は醜い、と。
ならば開きかけた扉から見えますでしょうか、この、世界を。
たくさんの幸せにあふれて、
たくさんの悲しみにあふれて、
たくさんの憎悪であふれて、
たくさんの喜びにあふれて、
たくさんの、愛にあふれた世界を。
今なら、見えるはずです。今まで見えていなくても、其処からならばちゃんと見えるはずです。


貴方は俺と触れるのが好きだったようで、よく何も言わずに抱きしめていましたね。
甘い、薔薇の香りがしていて。

貴方が今までどんな道を歩んできたかはもう、知る術は無い。
俺にだって、知る権利も、知ろうとすることも無いでしょう。
その代わり貴方も、俺の想いを知ることは無かったのです。
なんて、整ったふたり。


こぼれおちる、ひとしずく。


それでも、こんな俺にも願いがあるのです。

廻り続ける魂は再び、この世に戻ってくる。そして新たな人生を歩む。
だから、また貴方と再び出逢えますように。再び逢った貴方が愛をたくさん知れますように。

それまでは、貴方の煙から成った雲を眺め、その雨に濡れましょう。



……そろそろ、扉が閉じる音がする。

すこしだけ、離れ離れだけれども、此処で待っています。
その前にひとつ。


ありふれた人生を、紅く色付けるような恋を ありがとう



――Ordinary day, yes it was,
and then you colored my black and white life to red.
It was such a small graceful love,
yes; it was a small graceful love. ――



(さよなら)