ざわざわり、木々が窓の向こう言の葉を散らしていく。
ちりん、海豚がぶら下がった風鈴が歌を歌う。
くぁあ、鳥が大きく欠伸をして、またそれが隣周りへ伝染していった。
はろはろ、手を振りさよなら雀の兄弟。

外は眩しいほどに青い。ぎんぎらぎんに輝くお日様は今日も絶好調らしい。いつも見えていた白いもこもこ雲は何処へ行ったんだろう。
カーテンの隙間から終わったはずの桜の花弁がちらり、隙間風に乗って床へ着陸した。そうだ、そうだった。最近夜も暑くなってきたから窓を開けて寝ていたのだっけ。
カーテンを全開しようか。あぁ、でも眩しくて鬱陶しいからやめようか。ベットの上で意味も無くごろんごろん。寝起きはあまりよろしくないのです。了承願います。
手探りで携帯電話を拾い上げた。あ、危ねぇ……ベットと壁の隙間に引っかかっていた。こりゃ危機一髪だっただろう、お疲れ様でした。それでも所詮他人事。
いざディスプレイを開いてみると、目覚まし時計のシルエットと時刻が朝一番に顔を見せた。そして、右上にちびっこく主張している現時刻と比べてみた。ついでに日付も確認する。

「寝過ごしたぁああああッ!」

あぁあああぁ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ!
よりによってこんな日に。外は文句のいいようがない晴天。せめてこんな日には気持ちよく早起きでもしてみたい。――あったかいからきっと気持ちよく寝過ごすのがオチだろうけれど。

ぶるるるるるるっぶるっるるるる……――突如携帯が鳴り出した。嗚呼ほんとうごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいうああぁしにたくなってくる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ」
『えぇ、おはようございます。今日も天気がいいですね、風丸君』
「ほっほんとごめんなさいごめんなさいすいませんごべんなさぁっ」
『そんな謝らなくていいのですよ、こんな日はずっと布団に潜ってみたいものですし』
あと、噛んでますよ。
楽しそうに電話越しの彼が笑う。……あぁヤダヤダ、なんだか今日はついてないなぁ…。星座占いはどうだったんだろうか。いや、此処は誕生月占いだろうか? そんなくだらないことを考えながら急いで支度を済ませる。途中目覚まし時計が落っこちてガァンと大きくくぐもった音を鳴らした。

「今、出ますッ」
さて、今からだと待ち合わせ場所までどれくらい掛かるだろうか? 場所は記憶が正しければ3駅程隣だろう。改めて時計の針を睨み付ける。そして再び盛大な罪悪感と焦りが背中にずどんと乗っかるのだ。
部屋のドアを蹴り開けて玄関へと向かう。速さだけが取り柄なのだ、自分は。
そんな矢先、あてがったままの携帯電話からやさしい音がふわり飛んできたのだった。
『風丸君、そんなに焦らなくてもいいですよ』
「っでもっ!もうこんな時間……!」
ばたばたばたばたばた―――……階段を翔け飛び降りそのまま真っ直ぐ直行すれば我が家・風丸家の表玄関だ。そんな時、彼は可愛いというように笑った。何がおかしいのだろうか、だなんて想っていたら再び声がそう、歌うように嬉しそうに楽しそうに言葉は繋がっていった。

『だってもう、私はあなたの家の前まで来てしまっているのですから』

玄関の重い扉を開けると、そこにはあなたが嬉しそうに微笑んでいた。



(愛し過ぎて、あなたを待つ事さえ罰のように感じられていたのです)