「痛っ・・・」
茜に染まる夕日が照らしだしたのはつうと輪郭をなぞる赤い糸。
ある日の放課後であった。
「わっ!?風丸お前血ぃ出てんじゃん!!」
「別にこれくらいどうってこと――」
「これくらいじゃないだろ!保健室いけ!」
目の前にいる幼なじみは心配して自分を無理矢理にでも連れていこうとする。――嗚呼こうなったら誰も止めれないんだよなあ。
確かに地味に痛むし、傷口から菌等が入り込んでカノウでもしたら後々面倒なので、ここは素直に降参して保健室へと向かった。


*


「失礼します――」
上履きを脱ぎ、薬独特の香りをただよわせ、目を向ければポスターや装飾があったが、不思議なことに清潔感に満たされた室内には誰の姿形影さえあらず。その証拠に電気が切れていた。
出張だろか?そんなことを思いながら先ずは水道に行き、蛇口を捻る。
流れだした水に傷口をさらけだす。
「痛ッ……」
無論の如く痛みが走る。
これでいいだろうと蛇口を今度は逆に捻る。かすかな鉄が掠れる音が鳴った。

手際良くティッシュで水滴を取り除く。
元々仮にも選手たる者手当ての方法など心得ている。――ましてやサッカーなどただでさえ怪我が多いスポーツなのだから。

と、重要なことに気がついた。
「そういえば絆創膏って、何処だ?」
生憎今まで保険委員会等には入った事がないし、部活中に怪我をしてもある程度の手当てを出来るよう救急箱が備えられていて、基本的それで間に合っていた。
なのでそういえば保健室に訪れるのはいつぶりだろうか、――3ヶ月……いや、半年かもしれない。


と、風丸が思考回路を巡り廻っていた時。

ガラガラ、
戸が開く音がし、振り向いた。
すればその人物は先生でもなく、見慣れたツンツン頭であった。
「あ、豪炎寺…」
「…風丸か」
ちらりと豪炎寺がその指先に燗づくと、突然、切ったのか?と尋ねてきた。
それに頷くと、そうかとまた返事が返ってきた。
「消毒は?」
「した。で、今絆創膏探してた」
そういえば豪炎寺は風丸に制止の声をかけ、棚を探り出した。

――一見冷たい印象を受ける豪炎寺は意外に暖色系が似合う。いや、先ず仮にも炎のエースストライカーを伊達に名乗っているワケではないし、私服も何だかんだ暖色系の色が多い。あと、口数が少ないだけで根は優しくて熱い(まあそこが円堂と気が合うのだろうけれど)少年である。

茜に照らされるその姿はとにかく、綺麗であった。
――ならば自分はどうだ?一見寒い印象の自分の長い髪にしても、このくすんだ赤い瞳も、
(何もかもこの茜には似合わない――)
「おい」
「………うぇっ、え、あ」
差し出された絆創膏を見て本題を思い出す。
ありがとう、と手を出して絆創膏を取ろうとしたら、ひょいと持ち上げられてしまった。
困惑している風丸に豪炎寺が口を開いた。
「お前、今何考えてた」
「え、」
予想外な質問に一瞬あっけにとられる。
「え、あ、いや……。ただ、豪炎寺は暖色系が似合うな、って」
何だか呂律が上手く回らない。そのせいか、口から落ちていく言の葉は腑抜けた発音しかしない。ああ、焦れったい
「だからどうせ自分には似合わない、なんて思ってたんだろ」
お前は超能力者か――思ったが口にはしない。
ふわり、と頭に感触がした。
「お前は其のままで充分だ」そう、笑顔で


そんなの、不意討ちだ



(傷口は気付けばいつまでもあたたかった)