流れる空は清々しいほど蒼く。絵の具の原色をそのまま誰かが悪戯に塗りたくったような。光が眩しく反射しては、思わず顔をしかめた。

「あ、まだ咲いてるんだな」

ふと目に映った黄色の円。大きな大輪を広げるその姿はさながら太陽にも似ている。

「もう夏は終わったっていうのに。」
「一応まだ暑いからな。向日葵の咲きやすい気候が続いていることもあるだろうな」

ふーん。そう相槌を打ってはまじまじと向日葵を見た。
西校舎近くの花壇に植えられているのは2・3本からして誰かが後から植えたのかもしれない。高さは自身の身長さえ越しており、思わず感嘆の声を漏らした。確か聞いた話では、その高さは裕に3mを越すという。流石、こんなに高いわけだ。

「でも誰が植えたんだろうな。園芸委員が植えるにしてもなんか……」
「なんか?」
「雑っていうか……、他の花と若干バランスが悪いような………」

他の花たちはそれほど身長も無く、青やら紫の色がほぼを占めている。そんな中、ひとつつん抜けて堂々と咲き誇る彼等は余りにもこの雰囲気の中では浮いていた。せめて朝顔でもあったらバランスは良かったのかもしれない。花の知識に関しては人並みの思考がそう構想をめぐらせた。

「まあ綺麗だしいいんじゃないか?」

そう言ってかすかに笑う彼。それもそうだな、なんてまた自分も笑って見せた。







確かにそれは、偶然の一種だったのかもしれない。
たまたま知り合いに向日葵の種を貰った事がきっかけだった。

正直、家で育てても良かった。自分で言うのもあれだけれども、家の敷地面積であれば向日葵畑を作るだなんて容易いものだ。
それでもあえてこんな、しかも学校を選んだのは少し理由があった。
ひとつめは、たまたま担任であり園芸委員担当の教師に許可を貰った事。それと、とても其処は見栄えがよかったから。
ふたつめは、いつも君が通る道。桃色の髪を揺らし、空色の瞳が弾む誰かの人影。気づけばいつも通り過ぎている。

春の頃に植えたその種は、今ではもう立派な日輪を咲かせていた。残暑がまだ頬を掠める初秋となっても尚、未だ其処に咲き続けていた。

「あ、まだ咲いてるんだな」

君がふと、呟いた。もう夏は終わったっていうのに。感心気にまじまじとその大輪を見上げていた。秋空へと変わり行く昼頃。燦々と太陽の光を浴びたその姿は、とある神話を思い起こさせた。恋焦がれた少女の話。

誰がこんな所に植えたのだろうか。はてな、首を傾げる彼。考えてみれば、そうだ。こんな色合いに塗れた花壇に、一際頭突きんでた幾つかの黄色。園芸をしている人間ならこんな所には向日葵なんて植えて育てはしないだろう。まあ、綺麗だからいいじゃないか。おもむろに言い訳なんてものを口先で揃えてみた。それでも、意外と君は納得そうに感嘆を放った。

「――そういえばさ、向日葵にはとある言い伝え……伝説みたいなのがある」

たまたま向日葵に関して調べていたら、見つけたもの。神話に関するものだという。

「ん、向日葵に伝説って初めて聞いた」
「柘榴とかアネモネとか有名所みたいに、向日葵にもあるんだ。」
「柘榴って、確か"どっかの女神が地獄の果実を食った"って話か?」
「あぁ。そのせいで冬が来たっていう話」
「じゃあ、向日葵はどんなのだ?」

傾げる君と眩しいほどの黄色が交差する。思わず胸が詰まって、震えた。
嗚呼、やっぱり彼には敵わないや。降参して、ひとつ花弁に触れた。

「神様に恋焦がれた少女の化身」

さて、君がこのことに気づくのはこの花が繰り返し咲き続けるいつ頃だろうか。

(貴方だけを見つめてる)