からん、
音が弾ける。
空には雲ひとつなく、未練さらさらもなく。
アスファルトに転がった花。運良く其処に在る。
深い藍色に染まった空。まるで、深海のようで。
ならば星たちは小さな魚。大空という名の海、漂っているもの。
だったら、季節外れだけれども彼は何だろう。
人ごみの中、白い息が残留して、君が居て。自分がいて。そしてまた一人、いて。
「あ、いたいた!円堂くんに風丸くん、ほら。ジュース買ってきた。」
赤い流星が降ってきた。所々跳ねた髪は自分でもかわいらしいと思う。
「お、ヒロトさんきゅ!」
「基山、有難うな」
「いいよ、ほら、そんなことより見ようよ、アレ!」
この気持ちを悟られないようにして、彼が持ってきてくれた温かい缶ジュースを手に収め、その指が指す場所を見た。
周りの人間たちが時計をちらちらと見始めた。そして、わんさかとコールが始まった。
「3、2、1……!!」
わあああああ、と外いっぱいに反響する大勢の声。雑踏、雑音。
「あっけましておめでとー!」
そう三人で縮こまって乾杯をする。
そう、今この瞬間、この世界は新たな年を迎えた。
最早1秒前のことなど、"去年"とおさめられる頃になったのだ。
別に、未練がましいわけではない。寂しいわけでもない。いつものことだろうに。
――しかし、確実に自分は何ともいえない空虚感を抱いていた。
新年を迎えたからか。いや、それもあるかもしれないけれど、多分ちがう。
そっと、隣の二人を見やる。
「よし!ヒロト、今から皆呼んでサッカーしようぜ!」
「駄目だよ、こんな暗くっちゃ。それに皆が皆暇なわけじゃないし」
「えー」
彼岸花みたいな紅を持つ彼と、太陽みたいな君。
「なあ、風丸っ!」
「基山の言うとおりだ。今回ばかりは諦めろ」
ぶー、と駄々をこねる君。
そしてポーカーフェイス気取りな自分。
そうだよ、と同意するもう一人。
わかってた。わかってる。ずっと、前からしっていた。
あのふたりの間のことなど。
お互い気づいていないだけ。でも周りからしてそれはお互い同じ気持ちという、甘酸っぱい林檎の香り。
少し、気づいていないなら"騙せる"だなんて思った醜い自分がいた。
けれども、それは皆無に等しくて。
君は言っていたもんね。年が明けたら言う、って。彼に、玉砕覚悟でもいいから云うって。自分も、それでいいじゃないかな、なんて笑顔で必死に隠して。
よく、物語とか小説とかで良く言う"幼馴染は恋人"だなんて。笑ってしまう様な夢話。そんなこと、みんながみんなそうじゃない。そうだろ、現時点そうなんだから。
目の前の二人は楽しそうに会話をしている。けれども其の声だなんて、今の自分にはただの雑音にしか聞こえなくて。
醜いです。嗚呼、なんて醜く滑稽なのでしょうか。
ふたりに気づかれないように、そっと其処から立ち去る。邪魔者はお邪魔虫、だなんて。
嫉妬、そう、しっとというのですか。これは。なんて気持ち悪い。認めたくない。汚い。けがらわしい。
ひとり、随分と離れた場所で自己嫌悪の自問自答トーク。
ばーか。アレがお前を恋愛対象だなんて沙汰で見ていたと思うのか。自己過信め。
そんな声が、身体の奥底から響いてくる。いやだ、ききたくない。
こんな感情、持たなければ良かった。知らなければ、良かった。
どうせ、叶わぬのなら知ってもただの無駄知恵になるのに。
甘い、飴のようなものを期待していたのですか。
現実は、酸っぱい、雨が降ってきました。
君は一生気づくことはなかった。それは、この想いを表そうとしなかった自分も悪いのですが。
もう、いつからなんて覚えていない。けれど確かに君に惚れていたのは確かで。
今までの時間が長かったからといって、それは相手にその気がある場合。しかし自分の場合、それは違う方向へと伸びていたのです。
ひとり、蹲る。路上で。
携帯が鳴っていることさえもう気づかない。
信じていた。きっと、きっと。君は自分を選んでくれるって。
でも無理でした。自分は君の一部になれませんでした。
元々、同姓だという時点でそれはわかっていたこと。両想いになる確率なんて、初めからゼロに等しかったのだ。
ただ、それがはずれただけ。そうでしょう。そうだとわきまえなさい。
必死に自分と葛藤する。いたい、いたい、……いたすぎて、狂ってしまいそうだ。
もういっそ君に必要とされない自分なら、居ないほうがマシかもしれない。
一瞬でも君に嫉妬した自分をころしてしまいたい。
嗚呼、いっそ、記憶全部消えればいいのに。
道に放り投げた缶ジュースは氷のように冷たかった。
あらたなはるがくるころに。
(今年初めての感情は、「 」でした)