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壇ノ浦で

彼と別れて





‥‥一年が過ぎた








永恋歌


初夏の昼下がりは熱い。

京よりも、福原よりもずっと南国に落ちた私達にとって、二度目の夏を迎えようとしている。

皆で作物を育て、海の恵みを捕り、一日一日を生きるといった、穏やかな毎日にようやく慣れて来た。
時には帝や尼御前も手伝って下さる。
可愛らしい帝に笑顔が零れる事も少なくない。





ようやく、あの時生き延びた平家に、笑顔が見え始めた。





「遙香殿!」


浜辺を散策していた私を探していたのか、帝が笑顔で私に駆け寄ってくる。

「帝、私が参りますから」

残りの距離を私から詰めて、帝と目を合わせる様に膝をついた。


「遙香殿!このような物を見つけたのだ」


手のひらに乗せた、小さな桜貝。

「まぁ、かわいらしい」

桜貝も、それを得意気に掲げる帝も、本当に愛らしくて心から言った。

帝は私の事を姉の様に慕ってくれている。
始めは畏れ多いと恐縮したが、最近では弟の様に愛しく思う。



この、小さな手が私を励ましてくれていた‥‥。



「これを、遙香殿に」

「私に?よろしいのですか?」

「もちろん!」

「‥‥‥‥‥ありがとう、ございます」



貴方の笑顔に、何度癒された事だろう。


「還内府殿や知盛殿も、早く来ればいいのにな!」

「‥‥はい」


心から、願う。
帝の純粋な言葉に私は笑顔で頷いた。





















それでも
夜になれば


月のひかりが、私を優しく照らす。








冴えた銀色は彼のよう。





冷たくて、
醒めていて、



‥‥きっと、本当はあつい熱を持つひと。











まるで彼自身が、私を包んでいるような気がする。









愛の言葉も交わさず

ちゃんとした約束もなく

抱き合った事も無いまま別れたけれど






「愛してる、知盛殿」









私は貴方をずっと待っている。








浜辺で佇む私を、月の光が優しく包んだ。







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