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「詩紋、これ‥‥‥」

「なに?‥‥‥あっ、可愛いね」



遙香ちゃんが手にしているのは、兎柄の浴衣。

濃い群青色地に飛び跳ねる兎が可愛くて、きっとあなたによく似合う。



「本当?でも、少し子供っぽいかな‥‥」



う〜ん、と悩むその表情は、本当に兎みたいだね。
色が白くて、柔らかくて、撫でたくなるんだ。



「そんな事ないよ!確かに可愛いけど、遙香ちゃんも可愛いからよく似合‥‥‥‥あっ」

「‥‥‥‥‥ありがとう」



照れてお互いに俯いた。


ボクの前では、よく表情を変えるんだ。






遙香ちゃんは可愛いと言うより美人なタイプ。

あまり笑う事がないから敬遠されがちなんだけど
本当の彼女は違うって事を、ボクは知ってる。








何と言うか、とても優しく笑うんだ。

でもそれは、あかねちゃんとボクだけしか知らなかった、秘密。




今日はたまたま左大臣邸にボク達しかいなかった。

皆出かけてるんだ?、って言うボクの顔をジッと見て


「じゃぁ詩紋、私達も出かける?」


と誘ってくれたのはきっと、ボクが寂しそうに見えたからだよね。










遙香ちゃんはあまり笑わないけど。


とても優しい人で、いつもさり気なく手を伸ばしてくれる。









その優しさも、普段よりずっと幼くなる笑顔も。


元の世界にいた時は、あかねちゃんとボクしか知らなかった。

天真くんだって知らなかったんだよ。













京に来て色々あって

遙香ちゃんはよく笑う様になった。

いい事なんだって思う。


でも、ねぇ‥‥‥‥。


「‥‥‥それ、欲しいの?」

「え?」


突然降ってきた声にびっくりした。
そして、いつの間にか違う露店にいる事に気付いた。


「それ‥‥‥詩紋、さっきからずっと見てるから‥‥‥欲しい?」



確かにたまたま視線にあったのは、綺麗な黄玉が連なった腕飾りで、ボクの好みだったけど。






‥‥‥違うよ、あなたの事を考えていたんだ。







「綺麗な色ね、詩紋の髪みたいにキラキラしてる」

「‥‥‥?」

「好きよ、この色」




あなたの言葉は魔法のようだね。



「綺麗」も「好き」もきっと玉の事だけじゃないんだよ。


ボクのコンプレックスをさり気なく、本当にさり気なく包んでくれる。



「ありがとう。
‥‥‥うん、嫌いじゃないよ」

「良かった。じゃあ、プレゼントさせてくれるよね?」

「‥‥‥プレゼント?」



尋ねたボクに小さく笑いながら背を向けて、露店のおじさんに代金を払っている。



「‥‥遙香ちゃん、いいよ」

「はい、詩紋。腕を出して」





手首に太陽みたいな玉を結んで。



「誕生日おめでとう詩紋。
いつも癒してくれて、ありがと」





ボクの前で、最高の笑顔をくれた。








視線の先に、いつも



‥‥‥遙香ちゃんが好きだよ。



なんて、ボクの精一杯の勇気に、
あなたが笑ってくれたらいいのにな。









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