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“早速”。その言葉に疑問符が頭に浮かぶ。もしかして私が戦うのって、またラク先生? この蜘蛛と? その疑問はデアも浮かんでいたようで、私が思っていたとおりの質問をラク先生にぶつけた。
「まあお前らの予想通りだな」
「おいラク、ふざけんな。誰がこんな小娘と共に戦うか。俺は帰るぞ」
デアはそっぽを向き、帰り支度を始めようとする――
「ゴ○ブリ」
――が、ラク先生がとんでもない生物の名前を口にした途端、その動きは止まった。
「デアが頑張ってくれたら、うんとご馳走してあげようと思ったんだけどなあー。まあ仕方がないかー。俺達だけで消費して――」
「待て待て待て! なんだか今はすげえ戦い気分だ!」
あの黒光りしてすばしっこい生物、蜘蛛の好物なんだっけ? ……だとしたらこの蜘蛛、すごく単純。ていうかラク先生、「俺達だけで消費して」とか気持ち悪いこと言わないで。嘘でも吐き気がする。そんな事を思いながら睨みつけていると当の本人はにこりと笑って手を振ってきた。どんな神経してるの。この先生のこと、更に嫌いになった。
「よし! デアもやる気になったようだし、始めるぞー」
本当にやるのか。なんだかうまくやれる気がしない。共闘するならコンビネーションをとらなければならない。仲違いしている私達は最悪のコンビになりそうな気がして気が気でならない。だったら仲良くしろと言われたら断固拒否するけれど。
「お前ら準備しろ」
「うん」「フンッ」
もうここまできたら何を言っても無駄か。そう思い、軽くストレッチをして体をほぐす。デアは糸をあちこちに出してコンディションを確かめていた。
「準備できたよ」
「俺もだ」
「OK。前回とルールは同じだ。少しだけ違うのは鈴取りじゃないこと。お前らが一発でも俺にダメージを喰らわせることが出来たら勝ちだ。制限時間は三十分」
了解の意を込めて私達は頷く。まずはどこかに隠れてこの蜘蛛と作戦を立てないと。デアに目配せをすると「わかっとる」と呟きが聞こえ、飛び跳ねて私の肩に乗った。少しだけ怖じ気づいたけど我慢我慢。ラク先生の目を見る限り、少しは本気を出すようだし。ちょっとのことで事を荒立ててはキリがない。それに、ラク先生が少しでも本気を出すと言うことはデアもそこそこやれるということ。私の未熟な部分をカバーしてくれることを期待して、頼りにしてるよ、デア。
「――始め」
突如聞こえた合図に出遅れたが身を隠す為に飛び退いた。
*
姿を隠した私達は早速策を練る。居場所がバレないように少しずつ移動しながら。
「まずはお互いに使える術とか確認しようか。
私は水遁が得意。……この里に来る前、父親に鍛えられてたし、チャクラ性質も水だからね」
そんな父親はお母さんと私を捨てて、どこかに行方をくらましたが。――って、そんなことはどうでも良い。
「俺は全チャクラ性質扱える」
「チートじゃん」
「チート言うな! 努力の成果だ!」
私ももっと努力すれば全チャクラ性質扱えるようになるかな。尤も、扱えるようになった頃にはおばさんになってそうだけど。
「だが――」
「?」
「俺はあまり忍術が得意ではない」
なんだ。ラク先生が信頼するくらいだから強いのかと勝手に思ってた。残念。この蜘蛛だけで私の欠点を補えるのだろうか。補われる前に、自分でどうにかしろって話だけど。
「じゃあ、私がメインの作戦に――」
「まあ待て。忍術が得意でない代わりに、といってはあれだが俺は頭が回る。実際、幾つかのプランを立てた」
「本当?」
「仲間を疑ってどうする」
……さっきまで敵対してたくせに。なんて都合の良い蜘蛛なんだろう。それはそうと。
「聞かせて、その作戦。どこか駄目なところがあったら補う」
「ハッ! 俺の作戦に穴があると思うか?」
「うん」
「即答かよ!」
なーんかラク先生とテンション似てるから少し疲れそう。そんなことを思いながら、デアの作戦に耳を貸す。聞いていくうちにあの行動にはそういう意味があったのかと驚いた。悔しいけれどこれらの作戦に穴なんてない。
「――さて、と。あの遅刻魔にひと泡吹かせようぜ」
此処にも被害者がいた。