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 気分が落ち着くまで側にいてくれたカカシくんにお礼を言い、帰ろうとしたところで演習場ここに来た本来の目的を思い出し、ハッとする。そういえば修行しに来たんだった。最近情緒不安定で感情に左右されて行動が制限されることが多く、今回も時間を無駄に過ごしてしまった。それはカカシくんも同じで、私なんかのために時間を使ってしまった。お詫びに何かできないかと考えていると「修行に付き合って」とぶっきらぼうに告げられた。

「そんなのでいいの? 」
「ああ。お前確かアカデミーを一年で卒業したやつだろ? 噂で聞いた髪型とか髪色とか性別、一致してるし。……お前の髪色の特徴そうそう被る人いないでしょ」

 確かに私は彼の言うとおりアカデミーを一年で卒業した。カカシくんはその実力が見たいと言う。
 私の髪型は特徴的で、人から見て右から左へ薄くなるように灰色のグラデーションが掛かっている。普通は上から下へグラデーションかかるものなのに、変な髪だ。

「期待に応えられるか分からないけど、カカシくんがそれで良いなら」

 ウエストポーチからクナイを取り出して構える。その行為を見たカカシくんも同じくクナイを構え、私がどう動くか様子を窺っている。
 ジリ、と右足を少しずらせばカカシくんも同じ動きをする。なるほど、一定の距離を保ちたいわけか。
 ならばと構えていたクナイをカカシくんに目掛けて投げ、それと同時に走り出す。投げたクナイは当然のように避けられ、カカシくんも走り出す。まずは忍戦術の心得その一、体術だ。クシナさんに鍛えてもらったんだ、自信はある。
 ならばと顔目掛けて蹴りを入れれば、両腕でガードされる。左の拳を握り、腹を狙えば距離を取られたがすかさず走り出して今度は足下を狙って拳を一気に振り上げる。少しヒビの入った地面によろけたカカシくんの隙を見逃さず顎にアッパーをかけようとすれば避けられた。

「強いね、アカデミー生のくせに」
「それが素? なんにせよ歳は変わらないんだから実力が同じくらいでも疑問はないでしょ」
「それはそうだ、ね!」

 お互いに同じタイミングで地面を蹴り、また組み手を始める。このままじゃらちがあかない、そう考えた私は一瞬でカカシくんの背後に廻り、クナイを首に突きつける。

「終わりだよ」
「――さすが。参ったよ」

 降参の意を込めてか肩を竦めて戦闘態勢を解いたカカシくんを見、私もクナイを下ろす。

「まあ、アカデミー生にしてはやるんじゃない?」

 そう褒めると、カカシくんは照れたようにそっぽを向いた。



**

 それからというものの、私とカカシくんはよく一緒に修行するようになった。約束をしているわけでもないのに、同じ時間に待ち合わせたり、談笑したり。修行が終わった後は一緒にアイスを食べたりしたこともあった。歳が近いこともあってかカカシくんとは絡みやすく、向こうはどう思っているか分からないけど私にとっては相性のいい人だ。それでも本性を見られるのが怖くて偽ってしまう私は臆病なのだろうか。

「今日もありがとう! 良い修行になったよ」
「ん、別に」

 このまま別れてしまうことが何故か惜しくて、このあとどこか寄っていかない? と誘うが案の定そんなことしてる暇はない、と断られ残念に思う。それでもどうしても引き留めなければならないという謎の義務感がこの時の私を、背中を押した。

 ……そうだ、普段私が言わないようなことを言えば、彼は留まってくれるだろうか。

「待って」

 そんな考えが浮かび上がったとともに、思考するよりも先に口が動いた。

「――相談事が、あるの」

 言ってしまって、やってしまったと思った。相談事ってなんだ。出会って間もない人間に何を話せと言うのだ。六年間生きてきて、久しぶりの失態だ。

「相談事? 」

 思った通り彼は食いついてくれたが、続きをなかなか言わない私を不審に思ってか何かを見定めるように見つめてくる。ドッ、ドッ、と心臓が爆発していた。口をついて出た言葉に進む道はない。

「落ち着いて。そんな言いにくいことなら今言う必要ないでしょ」

 また何かを勘違いしたカカシくんがなだめてくれる。

「……うん、そうだね」

 結局なにも言うことはできずこの日は解散となった。


 **

 いつものように修行を終え、いつものように解散しようとしたとき、汐に引き留められた。なにやら相談事があるらしい。しかし言葉にするのがなかなか難しいのか、緊張しているのか彼女は口をぱくぱくさせて何も言い出さない。心なしか呼吸も速く見える。

「落ち着いて。そんな言いにくいことなら今言う必要ないでしょ」

 そう言えば自我を取り戻したかのようにそうだねと同意し、「話せるときに話して」と言葉を吐くと俺は家へと向かった。おかしいと思ったのはその帰路でのことだ。上忍達がやたら俺のことをチラチラ見て軽蔑するような目で見てくる。耳を澄まして聞いてみれば、俺の悪口だった。

「おい見ろ、サクモの息子だぞ」
「あいつが忍になってタッグを組んだらどうなると思う? 」
「さあな。でもサクモの時みたくに最悪なことになるのは間違いないぜ」

 ひそひそひそ。気持ちの悪い悪口に歩く足が早くなる。
 つい先日、父さんは任務か仲間かの決断を責められた。その結果、父さんは仲間を選んだ。俺は正しい選択肢をしたと思う。任務は成功したが仲間は全滅です、なんて事はあってはならない。だから父さんは間違ってない。里の奴らが間違ってる。

「ただいま」
「……ああ、おかえり」

 その任務の日から里中の奴らから批判を受け続けてきた父さんは最近いつもどこか遠くを見ている。俺はそんな父さんが遠くへ行ってしまうのではないかと不安になるときがある。

 フラッシュバックするのは夕方の出来事。


 ――相談事が、あるの。

 それはこっちのセリフだと言ってやりたい。
 相談したくてもそれを邪魔するプライドが、俺を悩ませていた。



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