後ろ手をついて足を伸ばしている俺の太腿の上を、一人の女性が跨いだ。 銀縁の眼鏡を掛け、黒髪を一つに結った利発そうな顔立ちの美人だ。 シャツに包まれた胸元は服の上から分かるほど豊満で、短めのタイトスカートから色気を匂わす美しい太腿が伸びている。彼女はそれらの上から白衣を羽織っていた。 斯く言う俺は、現在、病院のベッドの上で、そうされている。 チャクラ切れを起こし、病院に担ぎ込まれるのは毎度のことで、今回も同じく……。 入院から五日が経過し、ようやく支えなしに身体を起こしたり、杖をつかずに歩くことが出来るようになってきて、そうした今宵、彼女は俺の前に現れた。 色気がある上に腕も立つことで有名な、若い女性医師。担当になったことはないが、病院内で見かけたことはある、噂に違わぬ美人だ。 現れた彼女は俺の診察をするのかと思いきや、そんなこともなく、口を開くと、恋人は居るのかとか、好きなタイプはどんな人かとかプライベートなことばかり訊いてきた。 挙げ句の果てには、入院生活で性欲の解消に不便があるんじゃないかと俺のベッドに上がってきて、それで今、肩に手を置かれ、膝立ちで脚を跨がれている。 見下ろす表情たるや恥じらったように紅潮しており、そちらの方が性欲の解消に不便がありそうだ。 「……まぁ、まだ本調子じゃないから、そこまででもないけど」 俺は少し笑ってから細い腰に手を回し、俺の股座の上にその身体を引き下ろしてやった。眼鏡の縁を掴んで取り払うと、素顔になった女性医師は少し幼く見える。 淑やかな手で頬を包まれ、目元を細めた彼女に顔を寄せられて唇が触れそうになる。受け入れようと一度は思ったが、やはり少し気掛かりで、俺は寸でのところでその唇に指二本を当てて止めた。 「……その前に、変化解いて」 焦らすように囁けば、女性医師は言われたように印を組み、術を解く。 ぼふんと煙が立つと、見知った教え子の少年の姿がその場に現れた。 金髪に碧い瞳、頬には三筋の痣がある。 その姿になってから、少年――ナルトは今度こそやんわりと俺の唇を塞いだ。 悪戯好きのナルトに惚れて、付き合ったのが運の尽きだ。 俺を驚かせようとナルトが仮の姿で忍んでくることはしょっちゅうで、あらゆるタイプの美女に変化し、俺を誘うことも日常茶飯事。 そのおかげでそれを受ける俺のリアクションは日増しに薄くなり、最近では顔色を変えずにナルトの相手をしてやっている。 ただ……今日は驚かせることもそうだが、仮の姿で病院に忍び込み、俺と逢瀬を重ねることが目的だったのか。ナルトは切なそうな表情をして何度も俺の唇に己のそれを重ね、「会いたかった、カカシ先生」と呟いた。 ナルトが任務に明け暮れて会いに来られないことは知っていた。俺だって会いたかった。 多分、口に出して言わなくても強く抱きしめたことでその気持ちは伝わり、しばらくして顔を離したナルトは「本調子じゃないから、そこまででもないんじゃなかったのかよ」と可笑しそうに笑った。 「……『本調子じゃないから』じゃなくて『本来の姿じゃないから』の間違いだったみたい」 美人な女性医師を膝の上に乗せても、心も身体も凪いで欠片も反応しなかったのに、その見かけがナルトになっただけで俺の心はじんわりと高ぶり、身体も反応した。股座の上に座っているナルトは俺の熱を布越しに感じとっているはずで、目を細め、甘やかすように頚に腕を回してまた口づける。 ……最近は、めっきりダメだ。この子にハマってから、俺の視界はすっかり狭まってこの子以外を受け入れられない。 それは、例え仮でも他の人間の姿をしたナルトとは唇を合わせたくないほどに。 甘く柔らかに俺を締め付ける鎖なのだ。 END(発行20120106) 前へ 次へ戻る1/1 |