ヤマト隊長やサクラちゃんやサイと一緒の、任務からの帰り道。

俺は突然、見慣れないでっかい犬に懐かれた。
別に、俺が何をしたわけでもない。餌をあげたわけでもない。

道端にちょこんと座っていたそいつと目が合って、通り過ぎたら、そいつは急に俺について来たのだ。





フェロモン





「何だ、そいつは?」

検問所の忍に首を傾げられ、「俺にも分かんねぇってばよ」とお手上げ状態で答える。
結局、里にまでついて来てしまって、何だと言われても、この犬の目的が何なのかなんて俺にもさっぱりだ。
でかくて、銀色っぽい毛並み、面長の顔。見かけは賢そうな顔をしている。

「でもその犬、明らかにあんたについて来てるわよね」

サクラちゃんが隣で面白そうに言った。
確かに……今も、俺の隣に寄り添うようにしながら俺の顔を見上げている。
ヤマト隊長も同意した。

「尻尾もすごい振ってるしね」

「う〜ん」

そうなのだ。落ち着いた顔立ちでフサフサとした尻尾をちぎれんほどに振って、は、は、と舌を出している。

「飼ってあげれば?こんなナルトに懐く犬なんてこの犬くらいだよ」

「『こんな』って何だってばよ」

無責任且つ失礼なことを言うサイにごちりつつ、その場から離れると、やっぱりその犬は俺について来た。



ヤマト隊長達と別れてからもやっぱり同じ。
俺の横に並んでトコトコと、俺の顔を見上げながら歩いている。
相変わらず、は、は、と息を弾ませているが、口角が上がっているせいで何だか笑っているように見える。
俺は腰に手を当てて、一旦、歩みを止めた。
そうすると、そいつも同じく歩みを止めて俺を見る。

「何だってばよ。俺ってば餌なんか持ってねーぞ」

「ワフッ」

「……」

サイが言ったみたいに飼うことなんて出来っこない。
忍の仕事は不規則だし、面倒見切れる自信もないし、何より一方的に懐かれたからって飼うってのもなんか違うだろうし。
でも……迷惑に思えないというか、憎めないというか、むしろ愛らしく見えてしまうのは、きっと『あの人』に似ているからだろう。

落ち着いてて賢そうな顔してるのに、全力で尻尾振ってついて来るなんて可愛すぎるってばよ。





「尻尾って……俺、振った覚えないんだけどね」

そのまま本人の家に行き、それを伝えると、カカシ先生は眉尻を下げて言った。
そもそも尻尾なんてないんだから無理でしょ、と元も子もないことを言い出す。

「そういうことじゃなくてさぁ。ホラ、この顔の感じとか雰囲気とか、毛の色とか」

カカシ先生ん家の玄関先で、俺はしゃがみ込んで返す。
すると、目線が同じくらいになったのをいいことに、銀色の固まりが勢いよく俺に飛びかかって来た。
銀色の犬、結局ここまでついて来てしまったのだ。

肩に前足がかかり、ここぞとばかりに顔を舐め回され、唇まで舐められて息継ぎさえ上手く出来ずに「わ、ぷ」とのけ反る。
見かねたカカシ先生が俺の腕を掴んで立たせてくれて、俺はハァと息を継いだ。
舐めるのを邪魔された犬が不服そうにワンワンと吠えるのを尻目に、カカシ先生が眉をひそめる。

「それにしても、随分好かれたな」

「分かんねーよ。何もしてないのについて来たんだ。すました顔して積極的っていうか、そういうところがカカシ先生に似てるだろ?」

「あのねぇ……」

途端にばつが悪そうな顔になったカカシ先生が面白いのと可愛いのとで、俺はニシシと笑う。









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