「カカシ先生、死んでる?」 「…………死んでる……」 上から覗き込み、問い掛けると目元を手の甲で覆ったその口元が動き、小さな声が返ってきた。 「脱稿したんだろ?」 「ついさっきだよ。なんか食い物作って」 ソファに寝転がり疲弊したままのカカシ先生に言われて「了解」と立ち上がった。 カカシ先生は、元々俺の父ちゃんの元教え子で、そのよしみで俺の高校受験の家庭教師として駆り出された先生だった。 その時、先生は二十八歳。 しがない高校教諭を勤める一方で、ずっと小説家になるという夢を捨てきれず陰で執筆活動を続けていた。 先生の教えの甲斐あってか、無事スレスレで志望校に俺が受かった頃、先生は応募した小説で有名な何とか賞っていう賞をとった。 それから三年、カカシ先生は長年の夢だった小説家となり、文学を愛する人間であれば誰もが名前を知るような有名人となった。 家庭教師とはいえ、先生の教え子だった俺もそんな先生をとても誇らしく思う。 勿論、名前は本名ではなく、顔も出していないので、周囲はそれが先生だと知らないのだけど。 「原稿って書いてる間はいいけど、現実に戻ると疲労感が半端じゃないよ。眼と頭と肩と腰が痛い……」 「殆どじゃん」 俯せになって、と言うと、大人しく俯せになった先生の腰の辺りに跨がり、俺は慣れた手つきでマッサージに入った。 先生のおかげで今の高校に入れて、感謝していた。 そんな折にその先生が長年の夢を叶えたというものだから、どうにも応援してやりたくなった。 何か少しでも、恩返ししたいと思うじゃないか。 俺は、家庭教師とその生徒という関係が終わった後もカカシ先生の部屋に通い詰めた。 飯を作ってやったり、こんな風にマッサージしたり。 「ん……、はぁ、ナルト……。気持ちいいよ」 「先生、なんかその言い方卑猥だってばよ」 「いや、だってお前、本当に上手くなったから」 勿論、マッサージがだ。 それもそのはず。 俺は先生の役に立ちたくて、これでも勉強したんだから。 バイト代なんて出ないけど、それでもいいんだ。 やりたくてやってるんだから。 俺が、カカシ先生の傍に居たくてやってるんだから。 先生の腰に跨がったままソファの下に視線を移すと、一冊の本が開かれ、伏せられた状態で置かれていた。 先生の本。 いわゆる文学小説ってやつ。 活字が苦手な俺は、先生の本をちゃんと読んだことがないから知らないけど、文学が好きなクラスメイトのサクラちゃんに聞いて、少し気になっていることがあった。 「……先生」 「ん?」 「先生の、さ」 「んー……」 「小説って実体験?」 「……」 カカシ先生の書く話は、辛い片思いや叶わぬ恋の話が多いらしい。 気持ちにすら気付いて貰えなくて、気付いて貰えたとしても上手くいかないことが多いって。 リアルなその心情や切なさが人気を呼んでるって聞いた。 前へ 次へ戻る1/3 |