「あ、カカシ先生にナルトくん…」

「また同伴かよ。仲のよろしいことで」


「は!?違うっ!たまたま途中まで一緒になっただけでっ…」

本当に、それだけなのに。

これまた道端でたまたま会ったヒナタは「不潔…」と眉を寄せ、キバは「まあまあ、照れんな」とナルトの肩をポンと叩いて去って行った。

「〜〜〜〜…」

声にならない気持ちと、頭を抱え、しゃがみ込んだナルトに

「お〜い、大丈夫?」

と、暢気に降ってくる声が一つ。

「大丈夫なわけねーだろ…」

ナルトはそれを涙目でキッと睨み上げる。

「カカシ先生もちょっとは気にしろってばよ!」



――人の噂は七十五日のカカシの言葉を信じ、弁解もせず過ごし続けた一ヶ月。
完全に誤解されているとようやく気付き、弁解し始めてまた一ヶ月。

最初、冷やかされても「勝手に言ってろ」と軽くあしらい否定しないカカシとナルトに、周囲はこれはどうやら本当らしいと信じ込んでしまった。
“カカシとナルトはデきている”
今更ながら否定してもそれは無意味でしかないようで。
最近では、綱手にまで呼び出され

「恋愛は自由だが…。カカシ、夜の生活は程々にしとけよ」

などと、ナルトからすれば理解の範疇を超えた言葉を頂いた。


「だから…、こういうのは気にしたってしょーがないでしょ」

呆れ顔のカカシが腰を落とし、ナルトの前にしゃがみ込む。

カカシはそう言うけれど、気にするなという方が無理だ。
噂がたってから、カカシといる時もいない時もナルトに向けられるのは好奇の目。
そして、女たちからのヤッカミの目である。

先日も一人で買い物に出掛けた時、

『あの子がカカシさんの?』

『まだ全然子供じゃない。あんな子が?信じられない』

などと通りのくノ一に好き勝手なことを言われたばかりだ。
そんなのナルトの方が信じられない。


「…ナルト」

完全に俯き、しゃがみ込んだまま項垂れるナルトにカカシが言うが

「……何だってばよ」

ナルトは顔も上げずそれに答える。
もう俺の人生お先に真っ暗じゃねーのか、なんて思っていて。

それは、そんな時に聞こえた台詞。


「本当に付き合う?」

(……)

視線の先には、茶色い土と雑草と、自分の脚絆。
今、幻聴が聞こえた気がする。

「は…?」

顔を上げた先には、自分と同じくしゃがみ込んでいるカカシが、

「俺は別にいいよ」と。
唖然とするナルトの目の前で口布に指を引っ掻け、今まで一度も見たことのないその整った唇を晒し、ゆっくり寄せてきて――…


「…うわあっ!」

突き飛ばしたのは、その瞬間である。
けれど、思い切り突き飛ばしたにも関わらずカカシは大して怯むことなくナルトの腕を掴んで

「…なんで?俺のこと嫌いか?」

と、不満そうな目を向けた。


意味が、わからない。

それから走って、死に物狂いでカカシを振り切って、ここまで逃げてきたのだが、何がどうなってそうなったのか。

ナルトは今もわからないままだ。









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