「あら、久しぶりね」 通りを歩いている時に、向かいから歩いてくる長身の男が目に入り、声をかけた。 夕刻、ざわついている周囲の中で彼だけはどこか静かな空気を纏っている。 「紅」 「元気?」 「……」 そんなに元気でもなかったようだ。 「元気?」とは外人のハローと同じような通りすがりの挨拶だと思っていたが、ここが思わぬ会話の糸口となって捕まることもあるのだと紅は初めて知った。 何せ、腕の中にはまだそう大きくもない赤ん坊が居る。 ここで長居をする気はそもそもなかったのに。 「なんかさあ、最近ナルトに嫌われてるような気がして……」 でかい図体をした銀髪の男は、口布越しに溜め息をつきながら憂鬱そうに言った。 一応、三十路越えの立派な大人である。 ちなみに、彼の言う「ナルト」は彼よりも一回り以上年下の部下だ。 「嫌われてるって……何を今更」 「えっ、前からだった?」 「そうじゃなくて、あの子があんたを嫌うわけないじゃない。なんでそう思ったの?」 「それが……」 先日、任務でターゲットとされる男を見張っていた際、カカシとナルトがツーマンセルで物陰に潜んでいた時のことだ。 何の裏もなくカカシはナルトの後ろに立ち、ターゲットから目を離さずにいたのだが……。 「先生さ……、ピッタリ真後ろに立たねーでくれる?見張りに集中出来ねーからさ」 顔を赤くしたナルトに、嫌そうに言われたのだ。 確かに身体を寄せて立ってはいたが、そうしないとカカシからはターゲットが見えないし、かと言って横に立とうものなら向こうにこちらの気配を悟られそうだし……。 ……何より、なんでそんなに嫌そうなんだ。 「えっなんで?」 少しばかり、自分がナルトにセクハラでもしたかのような空気が漂っているのが恥ずかしく、聞き返すと「いいから」と突き放すように言われて、カカシはその日、大人しくナルトから離れて任務をやり遂げた。 ←元ネタアロウハー様 「それは……カカシ、あんた、変な雰囲気出してたんじゃないの?」 「変な雰囲気なんか出してないよ。任務中にそんなもん出すわけないでしょ。大体、それだけじゃないんだよ」 今日のことだ。 ナルトが任務中、肩を負傷したものだから、傷の具合を見る為にジャージを脱がそうとしたら、けだものを見るような目で見られた。 「え?あ……いや、傷を見る為にね?」 カカシは慌ててそう言ったが、ナルトは聞き入れてはくれず「サクラちゃんに見て貰う」とカカシの手を振りきって走って行ってしまったのだ。 「それね……絶対あんたが何かしたのよ」 「してないよ。そもそも、俺がナルトに何するってわけ?」 予想外にも話が長引いている。 通りの端、立ち話で眠っている子供を腕に抱き続けている紅としてはしんどいばかりだ。 「……ああ、もう疲れた。ちょっとの間抱いてて」 「え」 「今は寝てるから大丈夫よ」 カカシは戸惑った様子を見せながらも、差し出された紅の赤ん坊をひとまずヨイショと抱き抱え「……で、どう思う?」と話を戻した。 忍装束の大の男が、赤ん坊を抱き抱え、同じ年くらいの女と話しているのだから傍目から見たら夫婦のようだが、そんな自分の姿に気づいていないようだ。 前へ 次へ戻る1/2 |