【サンプル】


1.


プルルと鳴る電話の音。カタカタとパソコンのキーボードを打つタイピングの音。
ざわざわと忙しなく建物を出入りするスーツ姿の人々。
それらに最近、やっと慣れてきた。
最初は息が詰まりそうな居心地の悪さがあったが、人間、適応能力というのはあるものだ。
机の上に積まれている山のようなA4サイズの書類。ナンバリングされている番号順に並べ直し、パンチで穴を開けていく。
単純作業と言ってしまえばそれまでの仕事は気楽だが、定位置のデスクに向かったままでは、たまに眠くなる。
特に、蒸し暑い室内、昼飯を食った後の午後は。
ふあ、と欠伸を噛み殺すと、名前を呼ばれた。

「うずまきくん」

向かいを見遣れば、ちょうど向かい側のデスクで探し物をしていたらしい――薄い水色の半袖シャツに黒いスラックスを着た美形の男がオレににっこりと笑った。

「今、欠伸してたね」

「……え、あ」

ヤバい、見られてたか。噛み殺したのだから未遂ではないのかと思ったが、油断していたのは否めない。

「眠いの?」

探し物が見つかったのか、ブックスタンドからファイルを取った彼に問われ、オレはごまかしも兼ねて、はは、と苦笑いした。
 何故って、立場上、そーそー眠いんだってばよ! なんていう軽口を叩ける相手ではないからだ。


オレ、うずまきナルトは少し前、とある企業にアルバイトとして雇われた。
まあ、なんていうか――これには色々と訳があって。
去年の末、二十歳の誕生日を迎えたオレの、その最終学歴は高卒だ。
だというのに、四月に今の企業に雇われるまでの二年間の職歴は、ごく短期のパートやアルバイトのみ。
正直、やる気のない自由人ってやつに徹していて、まあそれでもいっか、なんて思っていたところ、見兼ねた父親が知り合いのお偉いさんに掛け合ってくれて、今に至る。
正社員として面接や採用試験を受けられたら良かったが、何せオレの履歴書には信頼と実績がない。その為、ひとまず一年様子を見るということで、ちょうど募集をかけていたらしい事務や雑用が主の臨時のアルバイトとして働かせてもらえることになった。
詳細は端折るが、なかなか大きな企業で、フロアごとに課が分かれている。お使いを頼まれれば迷子になってしまう広さだ。
そして今、オレの向かいに立っている美形の男が、オレが所属している係の係長である。
かなり優秀なんだろう、齢は三十半ばぐらいと聞いたけど、他の係を見るからに、うちの係長ほど若い人はいなくて、皆中年だ。
首からぶら下げられている社員証には『はたけカカシ』の記載。
それが係長の名前であって、とかく係長は若くして肩書を持っている上に、肩書を持てるだけの落ち着きと能力、更に、これは肩書とは関係ないが、銀色という目立つ頭髪に、美形に高身長という抜群のルックスまで持ち合わせている恐ろしい人だ。
比べて、何の肩書もない上にこれといった能力もなく、ルックスは多分普通、バイトという立場で企業に入って数ヶ月そこらというオレ。
そんなわけだから、欠伸をしているところににこやかに話し掛けられて横柄になれるはずもないというわけで。

「休憩室で茶でも飲んでおいで」と声をかけられ、んじゃお言葉に甘えて、とオレはそそくさと席を立った。


はたけ係長は、まあ、優しい人だ。
これまで適当にフラフラと働いてきて、こんなちゃんとした会社で働くのが初めてだったオレは、ここに来た時、えらいカチンコチンになって緊張したものだが、そんな中でオレに一番声をかけてくれたのは係長だった。
係で一番偉い人だから新米を気遣かってくれたというのももちろんあると思うけど、数ヶ月経った今でさえオレに良く声をかけてくれる。たまに、仕事とは関係ない雑談もする。
……もっとも、数ヶ月経って慣れてきたオレは、今じゃ同じ係の人なら、はたけ係長じゃなくてもちっとした世間話くらいなら出来るようになった。

「あ」

休憩室に入ってすぐ、目が合ったのは、緑茶を飲んでいる桃色の髪の女の子だった。スーツを着て社員証を首から下げている。この子は、サクラちゃんという。
オレと同い年なのに、高卒で採用試験を受けて正社員として働いているしっかり者だ。

「休憩? 眠たそうな顔してるわよ」

「まあ……つーか、サクラちゃんこそ」

顔が疲れているし、目の下には深い隈が刻まれている。

「ちょっとねー。最近、残業が多いし」

サービス残業も少なくない係長やサクラちゃん達と違ってバイトのオレは定時の六時で上がれるから、それには、そっか、と答えざるを得ない。

「大変だな」

「他人事みたいなこと言ってるけど、アンタだって来年からビシバシ扱かれる立場になるんだから」

「オレ? 分かんねェってばよ、ちゃんと雇ってもらえるかも分かんねェのに」

サクラちゃんが言うのは、オレが正社員になれた時の話だろう。首を竦めて笑うと、マグカップから一口飲み物を含んで、絶対大丈夫、とサクラちゃんが言った。

「あれだけ係長に気に入られてるんだから、アンタが何も言わなくても係長が推すわよ」

一瞬、言葉に詰まって、オレは首を捻る。

「気に……入られてんのかな?」

「入られてるでしょ。何かって言ったら仕事サボってアンタに話し掛けてるし、アンタには甘いし」

「う〜ん……」

これについては何とも答えようがなく、手に取った紙コップにティーパックをかけ、返事を濁した。
実は先日、他の社員にも同じようなことを言われたからだ。
オレ自身、係長がやたらとオレに話し掛けてくるとは思っていたし、話し方も優しいから気に入られているのかもしれないと思ってもいたが、それだってオレがバイトだから浮かないように気を使ってるだけという可能性もあり……それか、三十代以上の人が多いウチの係で二十代の若い男はオレしかいないから、声をかけやすいというのもあるのかも。
いずれにしろ、気に入られていると言われて肯定出来るほどの図々しさはペーペーのオレにはない。
そんなことを思いながらポットから湯を注ぎ、茶を飲んで、休憩を終えて仕事して家に帰った。


平日定時帰りの、土日休み。
仕事自体きつい内容でもなく、決まった作業を淡々とするだけだ。
長らくフラフラしていたオレに母ちゃんがカリカリしていた為、少し前に実家を出て一人暮らしをしている身の上で、給料は実のところギリギリではあるが、割に合った仕事だと思う。
通勤はチャリで飛ばして十五分。電車は、オレには不向きだ。まして夏の満員電車なんて勘弁。そんな話をしたら、自転車でも職場に着く頃には汗だくじゃない、とサクラちゃんに指摘された。
まあそうなんだけど、かく汗の種類がオレとしては違うのだ。
地球温暖化なこのご時世。冷房は設定温度を守ってが口癖で、クールビズだとかで社員は全員ノーネクタイ。職場もやたら暑くて、換気孔からの送風だけが心の支えだ。
朝、喉元にかいた汗を拭い、並べたファイルをトントンと揃える。
今日も今日とて、忙しなく動き回る社員達、鳴り響く電話。
はたけ係長も電話を取って対応している。
普段、オレに話し掛けてくる時はにこやかだけど、仕事モードの時は近寄りがたいほど真剣だ。
……それで生計たててるんだから当たり前か。
既定の封筒に印鑑を押していると、電話を終えたらしい、やって来た係長がオレのデスクの傍らに立った。
視線をやれば、目が合った係長はデスクに手をつき、オレの顔を覗き込むように目を細めた。
うぐ、と内心思いながら、オレは係長に話を振る。
だんだん分かってきたが、係長がこうして物も言わずに近くに立つ時はこれといった用がなく、ただ話がしたい時なのだ。

「……忙しくないんすか?」

「ぼちぼちかな〜……いつも通り」

そうすか、と相槌を打つオレの視界の端では、バタバタと慌ただしく走り回る社員達が先日の取引先の誰々さんがどうとか、引き継ぎがどうとか話し合っている。
肝心の係の代表である係長はこうやってマイペースで、話し掛けられているオレの方が呆れてしまう。
けれど、やはりマイペースな係長はそんな周囲を意に介することなく、傍のラックに腕をかけて話した。

「うずまきくんは今日の昼飯、何食うの?」

「昼ですか? まだ決めてないですけど、多分、コンビニで何か……」

「ラーメン、好き?」

「え?」

「社員駐車場の裏に新しくラーメン屋が出来てるんだけど、今日オレ、行こうと思っててね。……奢るから、うずまきくんも一緒にどう?」

 オレは、ごくりと唾を飲む。
何を隠そう、オレが地球上で一番好きな食い物はラーメンなのだ。しかも奢りなんて。
行く、と即答しようとした時、問題が一段落したのか、今し方まで電話や話し合いにかかっていた社員達がわらわらと自分の席に戻って来て、その中で二、三人、オレと係長の組み合わせを目にし、足を止めた。
サクラちゃんも姐御肌だけど、係長と変わらないくらいの年齢のせいもあるのか、サクラちゃん以上に姐御肌な夕日さんという美人の女性社員が係長に目を向けて、呆れた顔をする。

「……何?」

 視線を受けた係長が訊き、オレは不穏な予感に苛まれた。

「なんかその格好、女の子を口説く男って感じ」

夕日さんに言われて、はたけ係長が自身を見下ろし、オレも改めて係長を見る。格好……というか、姿勢か。
デスク上のラックに片腕をかけ、もう片方の手をスラックスのポケットに突っ込んで、デスクに向かうオレの顔を覗き込むようにして立っている姿勢。
言われてみれば、そんな感じだ。
やっぱり、とオレは顔を引き攣らせる。
係長がオレを気に入っていると指摘したもう一人の社員は、他でもないこの夕日さんなのだ。あろうことか、遅れてやって来たサクラちゃんまで、本当、と口を揃えた。

「大好きなナルトと話す時、いっつもデレデレしてますよね、係長」

タイミングが悪いことに係長が今話していた内容も、係長にその気はないだろうが、本当に口説き、誘うような内容だった為、オレは気まずさに押し黙る。
何か言い返せばいいのに、係長が先にオレに視線をくれるものだから、リアクションの正解が見出だせないオレも困った顔で係長を見返した。係長は夕日さんやサクラちゃんに目を戻す。

「だって、可愛いでしょ。うずまきくん。スれてない感じが君らとは違うのよ」

「ああ出た、係長、すぐそういうこと言うんだから。私達だって全然スれてないのに」

腰に手を当てた夕日さんが、まあ確かに可愛いけどね、とオレを見る。
ここで働くようになってから、やたら可愛い可愛いと色んな人に言われる。
落ち着いた齢の人達の中に若いのはオレとサクラちゃんの二人だけ、しかも片方のサクラちゃんは突っ込みどころの少ないしっかり者。
だから、そうじゃないオレが可愛いってことになるのだろうが……忘れないで欲しい。オレは成人している、股間には男の勲章も生えている立派な男なのだ。
可愛いと言われても、嬉しくはない。
内心ぼやきながら仕事を再開すると、ひとしきり話していた夕日さんやサクラちゃんもやがて話を切り上げて自分の席に戻って行った。
相変わらず残っている係長がオレに目を寄越し、「……で、どうする?」と話を再開する。さっきのランチの誘いのことだろう、オレは渋い顔をして答えた。

「……行かねェっす」

本音はものすごく行きたかったけど、大好きだとか可愛いだとか散々茶化されたあとじゃ二人きりでは行きづらいってもんだ。
「そりゃ残念」と目を眇め、係長も離れて行った。


 職場の人達のことは嫌いじゃない。
というか、むしろ好きだ。けど、正直、常日頃、オレ自身の『よそ者』感が拭えない。
周りがどんなに慌ただしく、人手が足りなさそうにしていても、バイトのオレに出来る仕事は限られていて、彼らの仕事を手伝うことは出来ないからだ。

「お先に失礼します」

 週末、来週の月曜日が祝日の為、明日からの三連休を控え、ロッカーから取り出したバッグを背中に背負い、フロアを振り返って言ったが、皆、電話にかかっていたり、案件を話していたりと立て込んでいて、誰からも「お疲れ様」の声は返ってこなかった。
はたけ係長だけはいつもどんなに忙しくても「お疲れ」と目を見て言ってくれて、例え電話にかかっていても目配せをくれるのだが、現在そのデスクは空っぽで姿がない。
廊下に出て階段を降りようとすると、踊り場で係長が携帯で誰かと電話しているのを見つけた。
オレが会釈して階段を降り始めると、ちょうど電話を終えるところだったらしい。
「ああ……じゃあまた」と携帯を耳から離し、目線をくれた。

「お疲れ。……もうそんな時間か」

オレが上がるような時間か、という意味だ。
腕時計で時刻を確認している。
特に係長と話すこともないオレは「お疲れ様です」と通り過ぎようとして、「……ああ、そうだ」という声に呼び止められた。

「日曜日に係の人間で飲み会する話があがってるんだけど……良かったら、うずまきくんもどう?」

「え」

「あ、もちろん、うずまきくんやサクラみたいな若者は手出し無しで、大人の奢りでね」

「あー……えーと、でも」

「君、一人暮らしでしょ? 食費浮かせる為にタダ飯食いに来る程度の気持ちでいいし、良かったら、ね」

係長が立場の違うオレをわざわざこんな風に誘うのは、オレが職場で爪弾きにならないようにする為かもしれないし、職場の人間関係を円滑にする為もあるかもしれない。
気が引ける思いもあるが、気を使ってもらっていると思うと無下にするのも悪い。
それに確かに……オレは日頃、カップ麺やレトルト食品、冷凍食品などを主食にしているから、タダ飯が食えるというのは悪くない話である。
無理にとは言わないけどね、と押して引く係長の口ぶりに、行きません、とは言いづらくなって、オレは「じゃあ、行きます」と答えた。

「じゃ、参加ってことで。店はまだ決まってないから決まり次第、追って場所と時間連絡するね。携帯番号教えてくれる?」

「へ……」

 手に持っている携帯の画面に目線を落としてそう言った係長に、抜けた声をこぼしてしまう。

「係長、オレの携帯番号知ってるんじゃないんですか?」

「ん?……知らないよ、なんで?」

「だって、係長だし」

 係で一番偉い人だ。
形式上の面接時に提出した履歴書にだって、オレの携帯番号は連絡先として書いてある。

「まあ、係長とはいえ、雇われだからね……履歴書も庶務が管理してるからオレの手元にはないよ」

「へー……」

 そう言われてみれば、オレも係長の携帯番号は知らない。
オレから遅刻や病欠の連絡をする時は係の電話番号に連絡するようになっているし、逆に、係長からオレに連絡するのはオレが無断欠勤や未連絡の遅刻などイレギュラーなことをした時に限られるが、オレは幸いそれらに類似する行為をしたことがない。そうすると、係長がオレの携帯番号を必要とする機会もなかったわけだ。

「じゃあ、えーと……番号言っていいですか」

「うん。……ああ、ちょっと待って。あと、メールアドレスも教えてよ」

係長の言い方が、何というか、女の子から連絡先を聞き出す時のような言い方で、オレは多分、変な顔をしてしまったと思う。
係長はそんなオレの反応を気にすることなく言った。

「プライベートな時間に上司から電話がくるってのも嫌でしょ? メールの方が気楽じゃない?」

「確かに……」

自分の部屋でゆっくりしている時に係長から電話があったら、それが飲み会の場所や時間の連絡だったとしても、少しかしこまってしまうかもしれない。
時間や場所の連絡だけならメール一通で済む。
でも、それだったら携帯番号は必要ないんじゃないかと思ったが、とりあえず、通信で携帯番号とメールアドレスを係長と交換したのだった。


はたけ係長がオレのことを可愛いと言ったり、周りが、係長はオレを大好きだとか言ったりするのは、考えるに誇張ってやつであって、冗談みたいなものだと思う。
係長は独身のようだけど、オレが知る限り女にモテるタイプで、よく他の係の女性社員が用件がてら訪ねて来ては、係長に気がありそうな黄色い声で喋っている姿を見かける。
 また、その相手をする時の係長ときたら、涼しげな顔でにこやかに話していたりするものだから……それってばオレに話す時のソレと変わらなくねェ? とか、オレとしては思うわけで。
元来、係長はタラシっぽい雰囲気を持っていて、他人に親切に話す時、そこに区別はないのかもしれなかった。
つまり、はたけ係長がいくらオレに優しく、たまに口説くみたいな言動をしたとしても、そこに他意はないのだ。
家に帰り、シャワーを浴びてTシャツに短パン姿で部屋に戻ると、携帯がブブッと振動するのが聞こえた。
タオルで髪を拭いながら携帯を手に取って見ると、係長からのメールだった。

【日曜日の連絡。19時30分。○○町△△。□□ビル2階奥、店名××】

飲み会の連絡のみといった感じだが、ご丁寧に店の電話番号まで書いてある。

「りょうかい、です……」

オレもごく短文で承諾の旨だけ返し、携帯を手放した。が、それからテレビを見ていると、三分もしないうちにまた携帯が鳴った。怪訝に思い、再び携帯を手に取ると、また係長からのメールだった。

【あと、明日、暇?】

「……」

 短いけれど、何ともインパクトのあるその文面を見て、オレは閉口した。
どういうことだってばよ……と眉を寄せる。
これは、もし明日暇だったら会おうとかそういう話だろうか。まさか……いや、そもそも、何の為に。良く分からないが、何か少し怖い。

【すみません、明日はちょっと用があって、】

オレはそこまで打った後、一回手を止め、全文を消した。
明日、会わない? と訊かれたわけでなく暇かと訊かれただけなのに、誘われたかのように先走って断るのも尚早か。
でも、この訊き方からして、誘われる確率は九分九厘ではないだろうか。
迷ってから、オレは一言返した。

【なんでですか?】

すると、係長ももう仕事から上がっているのか、またすぐメールが戻ってくる。

【紅にちょっとしたプレゼントを買いたいんだけど、良かったら選ぶの付き合ってもらえないかと思って】

『紅』。ぽんと頭の中に浮かんだのは、同じ職場で働く姐御肌の美人、夕日さんの顔だ。
続けて、オレの頭の中にはポンポンとクエスチョンマークが浮かんだ。
なんで、係長が夕日さんにプレゼント?……実は、皆に隠れて付き合っている? だから、彼女の喜ぶプレゼントを買いたいとか……?
はたけ係長と夕日さんは、二人とも才色兼備の美男美女だ。
二人が並ぶ姿は実にお似合いだと言えるが、そうだとしても何だってプレゼント選びを付き合えなんてオレに言ってくるのだろうか。
オレは男だから女の人が喜ぶものなんて分からないし、夕日さんと知り合ってから日が浅くて、好き嫌いも知らない。
それだったら女の子で、且つ、夕日さんのこともオレより知っているサクラちゃんとかの方がよほど適任なはずだ。
聞いてから余計に分からなくなり、携帯の上で指をうろつかせて唸った。

「うーん……」

オレの予定はと言えば、明日は特に何も入っていないが、断るにしても【なんでですか?】と訊いておいて内容を知った後に【明日は用があって】と今更のように言うのも白々しい気がしてくる。
言うんだったら、【明日は用があるけど、どうしてですか?】とかにすれば良かった。
頭の回転がさほど早くないオレは自分から深みに嵌まった感じになって、髪を掻きむしったのち、返信した。

【いいですよ】

 もういいや。別に、係長の買い物に付き合うぐらい、どうってことないだろう。
買い物が終わったらさっさと帰ればいいわけだし、はたけ係長がなんで夕日さんにプレゼントを買おうとしているのかも少し気になる。
係長からの返信はすぐにきて、【じゃあ、明日の昼過ぎ、家に迎えに行くからナルトくんの住所教えて】とのことだった。
今日だけでオレの個人情報は係長に駄々もれだ。
どことなく自棄になりつつ、手早く住所を入力し、送信した。






サンプルは以上です。






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